私立高校日本拳法部に所属していた生徒が練習中に後頭蓋窩急性硬膜下血腫等を負った事故

2018.11.29 スポーツ中の事故

大阪地方裁判所平成29年2月15日判決

事案の概要

本件は、被告の設置運営する本件高校の日本拳法部に所属していた原告が、平成25年9月17日、日本拳法部の練習中、後頭蓋窩急性硬膜下血腫等を負った事故について、原告らが、日本拳法部の顧問であり、被告の被用者であったAには本件事故を未然に防止すべき指導上の注意義務があったのに、Aがこれを怠ったと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を求める事案です。

原告は、平成25年4月1日、本件高校に入学し、本件事故当時、1年生であり、日本拳法部の部員でした。

Aは、本件事故当時、被告の被用者であり、日本拳法部の顧問として、約30年間にわたり、部員の指導に当たっていました。

Bは、本件事故当時、本件高校の1年生であり、日本拳法部の部員でした。

日本拳法は、突き、蹴り、投げ、逆捕りの全てが可能である防具を着用して行う総合格闘技です。

原告は、平成25年7月下旬頃、日本拳法部に入部しました。

原告は、日本拳法の経験がなく、初心者であったことから、Aに対し、初心者である旨を伝えており、Aは、これを認識していました。

日本拳法は、講習会を受講することにより、順次3級、2級が与えられ、2級取得者同士の試合により1級に、1級取得者同士の試合により初段に昇格することができるところ、本件事故当時、原告は3級であり、Bは初段でした。

日本拳法部においては、入部後2週間程度、専ら筋力トレーニングを行い、その後2週間程度、胴、金的及びグローブのみを着用して、相手の胴などを拳で突く練習を行い、その後2週間程度、ABS樹脂で覆われた鉄面よりも軽量な面である空手用のヘッドガードを着用して対戦形式の練習を行い、その後、正式な日本拳法の面である顔面部分に鉄が使用されている鉄面を着用して対戦形式の練習を行うこととされていました。

原告は、日本拳法部入部後しばらくの間、防具を付けないで、筋力トレーニングや形の練習を行い、平成25年8月下旬までに、胴、金的及びグローブのみを着用して相手の胴などを拳で突く練習を2回程度行った後、その頃から同年9月17日までに、軽量面を着用した対戦形式の練習を2回程度行いました。

もっとも、原告は、夏休みの課題の補習等のために、その間、ほとんど練習に参加できておらず、同日は、約1週間ぶりの日本拳法部の練習への参加でした。

平成25年9月17日の日本拳法部の練習としては、準備運動の後、防具を着用して1分間の対戦形式の練習を6本1セット、2分間の対戦形式の練習を4本2セットが行われました。

原告は、軽量面を着用して上記対戦形式の練習に参加しましたが、軽量面を着用していたのは、原告のみでした。

1分間の対戦形式の練習6本1セットは、体をほぐす程度の練習であり、2分間の対戦形式の練習において原告がBと対戦するまで、原告の身体には何ら異常も生じていませんでした。

原告が、Bとの対戦中、Bが、原告の蹴り上げた左足をつかみ、原告の右足を払ったことから、原告が転倒し、その際、後頭部を床面に強打したことから、後頭蓋窩急性硬膜下血腫を発症しました。

裁判所の判断

裁判所は

「技能を競い合う格闘技である日本拳法には、本来的に一定の危険が内在しており、また、教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動(部活動)においては、生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから、教育活動の一環として行われる日本拳法の指導、特に、心身ともに発達途上にある高等学校の生徒に対する日本拳法の指導にあっては、その担当教諭は、日本拳法の練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために常に安全面に十分な配慮をし、できる限り生徒の安全に関わる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、クラブ活動(部活動)中の生徒を保護すべき注意義務を負う(最一判平成9年9月4日集民185号63頁、最二判平成18年3月13日集民219号703頁参照)。」

としました。

そして、本件について、裁判所は、

「Aは、初心者(3級)である原告と上級者(初段)であるBとの間で、防具を着用しての対戦形式の練習をさせたところ、上記練習においては、互いに技をかけ合う結果、転倒して負傷する可能性が高く、特に、初心者と上級者との間で上記練習を行う場合には、初心者が上級者に技をかけられて転倒して負傷する可能性はより一層高いのであるから、Aにおいては、Bに対し、手加減をするように、具体的には、蹴り足をつかみ、他方の足を払うなどといった危険な技をかけないように指導するとともに、原告とBの動向に注視し、できる限りそばに付き添って指導し、原告がBから危険な技をかけられそうになった場合には、Bに対し、当該技をかけるのを止めるように指導する安全配慮義務を負っていたというべきである。」

と顧問教員の安全配慮義務の内容を指摘した上で、

「しかるに、Aは、原告とBとの間で上記練習をさせるに当たって、Bに対し、手加減をするように、具体的には、蹴り足をつかみ、他の足を払うなどといった危険な技をかけないようには指導していないと認められるし、また、Aにおいて、Bが、原告の蹴り上げた左足をつかみ、原告の右足を払ったことから、原告が転倒したところを目撃していないことに照らすと、Aは、原告とBの動向に注視し、できる限りそばに付き添って指導し、原告がBから危険な技をかけられそうになった場合に、Bに対し、当該技をかけるのを止めるような指導もしていないと認められるのであるから、Aは、上記安全配慮義務に違反していたものというべきである。」

と判示しました。

これに対し、被告は、

「日本拳法について、面を着用することにより頭部が保護されていることから、柔道と比べて、頭部への受傷の危険性は格段に低いものであり、実際、日本拳法部では、過去30年間、生徒が頭部に重大な受傷をした事故は皆無であり、また、高校体育連盟やNPO法人日本拳法会等でも、重大事故の報告は全くなかったことから、Aにおいて本件事故を予見することは極めて困難であった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

  1. 面などの防具は、絶対安全を保障するものではなく、指導者の適切な管理運営態勢等が必要であり、関係者が安全管理に努めなければならないことは、「日本拳法全国連盟防具規格(認定防具)」に明記されていること
  2. 「胸や腹、背、頭部などを打ったときは特に注意が必要。打撲のショックで一時的に意識を失うことがある。胸部打撲では単なる打撲傷とともに、肋骨骨折、胸腔内出血などの場合もある。腹を打ったときは、腹圧内出血、内臓破裂。背中は腎臓破裂、脊椎の骨折を考えなければならない。頭部打撲の場合は、外傷や骨折の有無よりも、脳の損傷があるかどうかである。脳震盪とは、頭部への直接的あるいは、間接的な衝撃によって引き起こされる、一時的な意識不明の状態のことをいう。間接的な衝撃による脳震盪の多くは、転倒、顎への打撃によって引き起こされている。…」などと「絵説日本拳法」にも明記されていること
  3. A自身、蹴り足をつかみ、他方の足を払うという技が危険であることを認めていること

に照らすと、

「Aにおいて本件事故を予見することが困難であったなどということはできない。」

として、被告の主張を認めませんでした。

また、被告は、

「Aにおいては、軽量面を着用している初心者と対戦形式の練習をする上級者に対し、「打たせてやれ、自分が受けてやれ」、「軽量面を付けている者には面を当てるな、打ち抜くな」、「寝技、投げ技は絶対にしてはいけない」と指導し、また、足払いについて、しっかりと両足で立っているときに前に出ている足を払うのは構わないが、打ってきた足を捕まえて、残った足を払うことは許されないと指導していた」

と主張しました。

この点について、裁判所は

「確かに、原告自身が、「顧問は、軽量面着用者に対しては、やさしくするように、足を引っかけて押したりするなど倒したらだめ、寝技はだめ、と指導していた。」と供述していることに照らすと、Aは、従前から、軽量面を着用している初心者と対戦形式の練習をする上級者に対し、手加減をするよう指導していたことが認められる。」

としたものの、

  1. 初心者が上級者に技をかけられて転倒して負傷する可能性が相当高いことに照らすと、Aにおいては、上記練習を行うたびに、上記の指導を徹底する安全配慮義務があったというべきであり、従前から上記の指導をしていたというだけで、直ちに、安全配慮義務違反を免れるものではないというべきであるところ、上記供述部分のうち、Aが、原告とBとの間で上記練習をさせるに当たって、Bに対し、上記の指導をしていたという部分については、客観的な裏付けに欠けているのみならず、Bが、原告に対し、蹴り足をつかみ、他方の足を払うというA自身危険であることを認めている技をかけていることに照らすと、にわかには信用することができない。」
  2. 上記供述部分のうち、Aが、足払いについて、しっかりと両足で立っているときに前に出ている足を払うのは構わないが、打ってきた足を捕まえて、残った足を払うことは許されないと指導していたという部分については、客観的な裏付けに欠けているのみならず、F弁護士が、何人かの日本拳法部の部員に対し、軽量面着用者に対する足払い等が許容されるかについて質問したところ、まったく問題がないと答える者、軽量面は後部が薄い構造なので行うべきでないという者、足払いはよいが、片足を持った上、他方の足を払うことについては危険だと答える者がおり、それぞれ意見が異なっていたことに照らすと、にわかには信用することができない。
  3. さらに、一件記録を精査しても、その他には、Aが、原告とBとの間で上記練習をさせるに当たって、Bに対し、手加減をするように指導したこと、Aが、足払いについて、しっかりと両足で立っているときに前に出ている足を払うのは構わないが、打ってきた足を捕まえて、残った足を払うことは許されないと指導していたことを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。

として、被告の主張を認めませんでした。

初心者と上級者による対戦形式の練習だからこそ注意義務違反が認められたと考えるべき

本件では、裁判所が

「特に、初心者と上級者との間で上記練習を行う場合には、初心者が上級者に技をかけられて転倒して負傷する可能性はより一層高いのであるから、Aにおいては、Bに対し、手加減をするように指導するとともに、原告がBから危険な技をかけられそうになった場合には、Bに対し、当該技をかけるのを止めるように指導する安全配慮義務を負っていたというべきである。」

と判示しているように、初心者と上級者との対戦形式の練習だったからこそ、顧問教員の注意義務違反が認められたものと考えられます。

これが上級者同士による練習中の事故であったならば、顧問教員の注意義務違反が認められていたとは限りません。

その意味では、日本拳法だけでなく、空手やボクシングなどの格闘技における事故全般に当てはまるとは言い切れないでしょう。

ただ、格闘技における練習では、本件と同じように、初心者と上級者とが対戦形式で練習することもあり得るでしょう。

そのような場合には、本件の裁判例が指摘しているように、顧問教員を初めとする指導者は上級者に対して指導するべき義務があることを忘れないでいただきたいと思います。

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