仮差押えの手続とメリット・デメリットについて

2018.10.05 弁護士コラム

「貸したお金を返してくれない」「売掛金を支払ってくれない」など、支払いに応じない債務者から債権を回収するためには、民事訴訟を提起し、裁判所から勝訴判決を得て、相手方の財産を差し押さえるなどの強制執行を行うことが必要になります。

この一連の流れは一般的なものですし、債権の回収方法としては正攻法といえるでしょう。

しかし、実際に民事訴訟を提起して裁判所から勝訴判決を得るためには数ヶ月を要することがあります。

時には年単位の時間がかかってしまうことさえあります。

その間に、相手方の財産がどんどんなくなっていき、勝訴判決を得た時点ではすでに何も残っておらず、差し押さえる財産がないということになってしまうと、債権の回収は不可能となってしまいます。

このような事態が生じないようにするための手段を「民事保全」といいます。

このうち、最もポピュラーである仮差押えの手続と、そのメリット・デメリットについて解説したいと思います。

仮差押えとは何か

仮差押えとは、判決が確定するまでの間、一時的に財産を差し押さえることをいいます。

例えば、X社がY社に対する売掛金の支払いを求めているにもかかわらずY社がこれに応じない場合、X社はY社に対して、売掛金の支払いを求めるために民事訴訟を提起することになります。

この民事訴訟でX社が勝訴判決を得た場合には、その判決に基づいて、Y社所有の不動産や預金・現金、Y社の他社に対する売掛金などを差し押さえることにより、債権の回収を図ることになります。

しかし、この一連の流れを遂行するためには数カ月から場合によっては年単位での時間がかかります。

その間に、Y社が所有していた不動産を売却したり、預金を引き出したり、他社から売掛金をすべて回収してしまい、そのお金をすべて使い果たしてしまった場合、X社はせっかく勝訴判決を得たというのに回収できないということになりかねません。

そこで、このような事態を防止するための方法が仮差押えということになります。

先ほどの例で、X社がY社に民事訴訟を提起しようと検討している際に、Y社が所有する不動産を第三者に売却しようとしていたとします。

もしY社が不動産を売却してしまい、その売却代金を使い果たしてしまうと、X社としては民事訴訟で勝訴判決を得たとしても、回収できなくなるおそれがあります。

そこで、X社としては、このような事態を避けるために、民事訴訟を提起する前に、Y社が所有する不動産を仮差押えしておき、その後に民事訴訟を提起し(この場合の訴訟を「本案訴訟」といいます。)、X社が勝訴判決を得てY社の不動産を差し押さえることで(この場合の差押えのことを「本差押え」ということがあります。)、債権の回収を図ることができるということになるのです。

このように、民事訴訟において判決などの結論が出るまでの間、一時的に差し押さえるという「仮のもの」であることから、「仮差押え」と呼ばれています。

仮差押えの手続

仮差押えの手続きは、裁判所の決定を受けて行います。

裁判所への申立て

債務者の財産を仮差押えしようという場合、債権者は裁判所に仮差押申立書を提出します。

この申立書には、一般的には以下のような書類を添付します。

  • 請求債権目録
  • 仮差押えの対象が不動産の場合には物件目録、仮差押えの対象が債権の場合には仮差押債権目録
  • 債権が存在することを示すための疎明資料
  • 債権者が法人の場合は、債権者の資格証明書
  • 債務者が法人の場合は、債務者の資格証明書
  • 債務者の住所又は本店及び登記された支店所在地の不動産登記事項証明書
  • 保全の必要性についての債権者の陳述書
  • 弁護士に委任する場合は委任状

債権が存在することを示すための疎明資料

仮差押えは債権を回収するために行うものですから、当然の前提として、債権が存在していなければなりません。

そのため、債権が存在することを示すための疎明資料として、例えば売買契約書や借用証書などの書類を提出することになります。

保全の必要性についての債権者の陳述書

裁判所に対して訴訟の前に債務者の財産について仮差押えをして、債務者の財産の処分を禁止しておく必要があることを説明する文書です。

債権回収の正攻法は、民事訴訟を提起して、勝訴判決を得て、債務者の財産を差し押さえるという流れになります。

この正攻法からすれば、仮差押えというのはいわば例外的な措置であるといえます。

そのため、「なぜ正攻法ではなく例外的な措置を採る必要があるのか」を裁判所に理解してもらう必要があります。

陳述書には、一般的には以下のような内容を記載することになります。

  • 債権の期限がすでに経過しているにもかかわらず、債務者が支払いをしていないこと
  • 債権者から債務者に何度も督促していること
  • 督促に対して債務者がどのような対応をしているか
  • 仮差押えの申立を行う時点でもなお債務者が支払いをしていないこと
  • 債務者の資金繰りが悪化していることをうかがわせるような事情
  • 民事訴訟を提起する前に債務者の財産を仮差押えしておかなければ、勝訴判決を得たとしてもその回収ができなくなるおそれがあること

裁判所での審理

裁判所への申し立てをすると、裁判官が仮差押えの可否を審理します。

審理の対象となるのは、

  • 申立書の請求債権目録に記載された請求債権が存在するか否か
  • 債務者の財産を仮差押えする必要があるか(保全の必要性)

です。

これらの点については、申立書に添付した疎明資料や陳述書などを検討して判断することになります。

裁判官が添付資料だけでは足りないと判断した場合には、資料の追加提出を指示されます。

また、裁判官との面談を行い、事情説明をすることもあります。

担保の供託

裁判官が請求債権の存在を認め、保全の必要性があると判断した場合には、債権者は、裁判官から、仮差押えの決定を出す前に、担保として納めなければならない担保金の金額が伝えられます。

債権者は告げられた担保金を法務局に供託します。

通常は、裁判所から担保金の金額が伝えられてから7日以内に供託しなければなりません。

供託した際には、法務局から「供託証明書」を受領します。

その後、裁判所に供託証明書を提出して裁判所から指示された担保金を供託したことを確認してもらいます。

なぜ担保金が必要になるのか

民事訴訟を提起して、勝訴判決を得た後、強制執行をするという通常の流れの場合には、裁判所の判断が正式に出されているため担保金は必要ありません。

しかし、仮差押えの場合には、あくまでも臨時に、しかも債権者側の主張のみで判断した結果であり、「仮」の差し押さえでしかありません。

そのため、仮差押えをした後に本案訴訟を提起したものの、債権者が敗訴判決を受けてしまったという場合には、仮差押えを認めた判断は間違いであったということになってしまいます。

仮差押えが間違いであったと判断された場合には、債務者は間違った仮差押えにより大きな損害を受けてしまうことになります。

例えば、不動産を売却して事業資金に充てようと計画していたのに、その不動産を仮差押えされてしまったために売却できなくなり、事業資金を捻出することができなかったというような場合が想定されます。

このような場合に、債務者が被った損害への賠償を確実に行わせるために裁判所は担保金の供託を命じているのです。

担保金の金額

担保金の金額は、概ね請求金額の2~3割程度となるのが一般的です。

例えば、売掛金として1000万円の請求をするために仮差押えの申立てをしたという場合には、担保金の金額は200~300万円程度となります。

いつまで預けるのか

この保証金は、あくまでも債権者が敗訴した場合の債務者が被った損害への賠償のために預けるだけですので、勝訴判決を受けるなど担保金を預けておく理由がなくなれば、全額返還されます。

仮差押え決定

担保金の供託が確認できれば、裁判所が「仮差押決定」を発令します。

仮差押えの執行

仮差押え決定が発令されれば、これをもとに「仮差押えの執行」を行うことになります。

この「仮差押えの執行」については、仮差押えをした財産の種類によって異なります。

不動産の仮差押えの場合は、債務者の不動産に仮差押えをしたことを示す登記をします。

債務者の預金や売掛金などの債権を仮差押えした場合は、裁判所から銀行や債務者の取引先(これらを「第三債務者」といいます。)に仮差押決定書を送達して、第三債務者が債務者に対しての支払いをすることを禁止します。

債務者への決定書の送達

仮差押えの執行が終わってから、裁判所は仮差押決定書を債務者に送達します。

仮差押えのメリット

では、この仮差押えをするメリットにはどのようなものがあるでしょうか。

債権の回収可能性を高めることができる

民事訴訟を提起し、勝訴判決を得て、財産の差押えという強制執行を行い債権を回収するという一連の流れを遂行するためには、短くても数カ月程度、長ければ年単位での時間がかかります。

この間に、債務者が財産を売却してしまったり、ときには隠されてしまったりすると、債権の回収ができない事態が生じるおそれがあります。

仮差押えは、このような事態を防ぐために行うものであり、勝訴判決を得た後にはスムーズに強制執行の手続を採ることができますので、債権の回収可能性を高めることができます。

債務者へのインパクトが大きい

仮差押えは、裁判所の命令によって、債務者の財産を仮に差し押さえる手続です。

この「裁判所が認めた」という事実が、例えば、債権者から督促の電話がかかってきたり、請求書が郵送されてきたりしても、それを無視したり理由をつけて支払を拒んでいればよいと考えていた債務者にとっては、大きな危機感を覚えることになります。

債務者との交渉を有利に進めることができる

通常の流れでは、仮差押えをした後に、民事訴訟を提起して判決を得ることになります。

しかし、その間、債務者としても仮差押えされた財産を自由に処分することができなくなるため、資金繰りなどの面で大きなデメリットが生じています。

そこで、債務者としては、仮差押えを取り下げてもらうため、債権者に対して債権の支払いについての交渉を求めてくることがあります。

債権者としては、民事訴訟を提起して勝訴判決を得れば強制執行をすることができるという有利な立場にいるわけですから、債務者との交渉で有利な条件を提示することができます。

結果的に、民事訴訟を提起するまでもなく、債権全額の回収を行うことも可能なケースもあります。

仮差押えのデメリット

では、逆に、仮差押えにはどのようなデメリットがあるでしょうか。

手続が難しい

仮差押えは、通常の裁判と比べて手続きが複雑です。

これは、仮差押えは基本的には書類審査であり、口頭での説明や証人尋問などは行われません。

また、仮差押えは債務者の財産が散逸してしまう前に行わなければ意味がありませんので、迅速に判断してもらう必要があります。

そのため、申立書の作成や必要や疎明資料の収集、保全の必要性を明らかにするための陳述書などを、迅速に、過不足なく準備する必要があります。

この手続は、一般の方々にとってはなじみのないものですし、専門性も高いため、弁護士に依頼しなければスムーズには行えないと思われます。

また、弁護士だから誰でもよいというものでもなく、この分野を得意とする弁護士に依頼しなければスムーズな仮差押えは難しいと思われます。

担保金を用意する必要がある

仮差押えの決定を発令してもらうためには法務局に担保金を供託する必要があります。

担保金の金額は請求額の2~3割となるのが一般的ですが、これを現金で用意しなければなりません。

また、担保金を預けておく理由がなくなるまで、預けたままにしておかなければなりません。

したがって、債権者自身の資金繰りに問題があるというケースでは、担保金を預けたままにしておけないという事情があるため、仮差押えを申し立てることができないということもありえます。

回収前に債務者が倒産してしまうと回収できない

仮差押えは、相手の財産を一時的に差し押さえているだけですので、債権を回収するためには民事訴訟を提起して勝訴判決を受け、その後に強制執行を行うという一連の手続を採る必要があります。

しかし、仮差押えをした後、債権を回収する前に、債務者が破産や民事再生などの法的整理をした場合、仮差押えは無効となってしまいます。

その結果、せっかく仮差押えをしたとしても債権の回収はできなくなってしまいます。

本案訴訟で敗訴判決を受けた場合には債務者に対する損害賠償義務が発生する

仮差押えをした後に本案訴訟を提起したものの、債権者の債務者に対する債権が存在しないとして敗訴判決を受けることはあり得ます。

この場合の重要な最高裁判例があります。

最高裁 昭和43年12月24日判決

仮処分命令が、その被保全権利が存在しないために当初から不当であるとして取り消された場合において、右命令を得てこれを執行した仮処分申請人が右の点について故意または過失のあつたときは、右申請人は民法709条により、被申請人がその執行によつて受けた損害を賠償すべき義務があるものというべく、一般に、仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、右申請人において過失があつたものと推認するのが相当である。

この最高裁判例は、仮差押えと同じく民事保全の一種である「仮処分」に関するものですが、債権者の債務者に対する債権(これを「被保全権利」といいます。)が存在しないために取り消された場合に、債権者が被保全権利が存在しないのに仮処分をしたことについて故意または過失がある場合には、債務者に対して、不法行為に基づく損害賠償義務が発生するとしています。

本来、不法行為に基づく損害賠償請求については、損害を受けることになった被害者が、加害者の故意または過失を主張・立証しなければなりません。

不法行為に基づく損害賠償請求の典型例は交通事故ですが、この場合には、被害者は加害者の過失の内容(より具体的には前方注視義務違反や速度超過など)を主張し立証しなければならないのが原則です。

しかし、仮差押えや仮処分といった保全処分に関しては、債権者のみの一方的な主張や立証により裁判所がその決定を下しているため、被害者(債務者)からすれば、債権者がどのような理由で債務者に対する債権が存在すると考えていたのか、その誤った考えがなぜ生じたのかなど、債権者の故意・過失の内容を特定して、その立証をすることは著しく困難です。

そこで、そのような被害者(債務者)を保護するために、最高裁は

「特段の事情がない限り、債権者に過失があったものと推認するのが相当である。」

としました。

この「推認」というのは、事実上の推定といわれるもので、債権者には過失があったものと事実上推定することにより、債務者が債権者の故意や過失の内容を特定し立証しなければならないという負担を軽減することにしたのです。

これに対し、債権者は「債務者に対する被保全権利が存在しないにもかかわらず存在したと信じてしまってもやむを得なかったという特段の事情」を主張し、立証しなければなりません。

この主張・立証が認められない限り、債権者は債務者に対して損害賠償を行わなければならなくなります。

このような場合を想定して、裁判所は債権者に対して、仮差押えの決定を下す前に、担保金を法務局に供託させているわけです。

もっとも、裁判所が指示した供託金の金額だけでは債務者の被った損害を賠償できないという場合も当然起こりえます。

その場合には、債権者は債務者に対して不足分を追加して賠償する義務があります。

最後に

以上が仮差押えの手続とメリット・デメリットになります。

債権の回収を図るためには仮差押えは効果の大きい手続であるといえますが、反面、そのデメリットやリスクも大きいものといえます。

「支払に応じない債務者が許せない」というだけで安易な仮差押えを行うのではなく、仮差押えをした後で発生してしまうかもしれないデメリットやリスクも踏まえたうえで、債務者から効率的に債権の回収を図るためにはどのような方法を採るべきかを十分に検討することが必要であるといえます。

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