県立聾学校中学部の生徒が学校の体育大会に向けての練習中に指導補導する教諭より暴行を受けた事例

2019.01.18 体罰

神戸地方裁判所平成17年11月11日判決

事案の概要

本件は、県立聾唖学校中学部2年の男子生徒(ダウン症児)が、体育大会の練習中、教諭の暴行により心身ともに傷害を受けたとして、被告兵庫県に対し、国家賠償法1条に基づき、損害賠償を求めた事案です。

原告には、ダウン症候群と呼ばれる各種障害をもたらす先天性染色体異常があり、その障害によって普通の小学校に通学できなかったため、平成4年4月1日、兵庫県立甲田聾学校幼稚部に入学し、平成7年4月1日、本件学校小学部に進学し、平成13年4月1日、本件学校中学部に進学しました。

暴行事件が発生した平成14年9月13日当時、原告は、中学2年生でした。

その当時、本件学校の在校生は、幼稚部、小学部、中学部を含め、全部で12名であり、教員数も12名であったため、マンツーマンで担任が決められており、原告の担任教員はA教諭、副担任は中学2年生の教科指導を行っていたB教諭でした。

原告は、ダウン症児にしばしば見られるように、生まれつき、心室中隔欠損症(左心室と右心室の隔壁に穴が空いた状態)による心臓機能障害を有しているほか、平成11年に右足大腿骨軟骨腫の手術を受け、これにより左右の足の長さに4.5センチメートルの差があり、下肢にも障害も有するため、既に、身体障害者として1種1級の認定を受けていました。

ダウン症児には心臓疾患を合併していることが多く、原告のように心室中隔欠損症がある場合、全身へと血液を送り出す左心室の大きな圧力が右心室や肺に漏れ、恒常的に心臓および肺に負担がかかります。

そのため、治療が困難な肺高血圧症や、気管支炎、肺炎、細菌性心内膜炎をおこしやすいとされています。

ダウン症児は、それ以外にも、一般に、抵抗力が弱いため感染症になり易い、皮膚が弱く皮膚のトラブルが多いなどの特徴があり、その健康管理には非常な注意を要します。

また、ダウン症児は、一般に、筋肉の緊張を欠く(収縮力が弱い)ため、運動能力も非常に劣っています。

このようなダウン症児の特徴は、原告にもみられました。

また、ダウン症児のIQは、ほぼ20ないし30、高くても50程度であり、精神年齢も2、3歳程度、高くても7歳程度とされています。

本件学校の平成14年9月13日における3時限目は、同月28日の体育大会に向け、全校児童・生徒12人によるリレーの合同練習に充てられており、紅白二組に分かれた6人ずつが、各自運動場を一周ずつ走りながら順次バトンを受け渡し、これを2巡する(各グループ合計12周を走る)という練習が行われました。

B教諭は、この練習の際、スタート地点での生徒の交代などの補助をしており、A教諭は、原告に付き添ってリレーの順番が来るのを待っていました。

A教諭は、原告をスタート地点に進ませようとしましたが、原告は、立ち上がろうとせず、座り込んでぐずっていました。

A教諭は、男性としては小柄な方であり、自分より体重が重い原告を抱え上げて立たせることが困難であったため、原告の副担任であり、体格の良いB教諭に協力を依頼しました。

A教諭は、B教諭が軍隊式の厳しい態度で生徒に臨んでいたため、余りB教諭に良い印象を持っておらず、実際にも、B教諭は、過去の兵庫県立甲田養護学校在勤中、手足を曲げる養護訓練と称する指導をしていた際、14歳の中学生の足を骨折させる程の事故を起こした教員でしたが、この場では、二人で両脇から抱え上げて原告を立ち上がらせました。

抱え上げた際、A教諭が右側から左腕で右脇を強く締めあげ、B教諭が左側から右腕で原告の左脇を強く締めあげ、大人二人の力で強引に原告を抱え上げたため、原告の両腕下部の脇付近にあざができました。

二人は、嫌がり泣き叫ぶ原告を無理矢理スタート地点に連れていきましたが、その際、B教諭は、言うことをきかない原告の様子に立腹し、腹立ちまぎれに、原告を怒鳴りながら、左手の拳で原告の左目の上の顔面を少なくとも3回、かなり強い力で殴打しました。

その殴打の際、B教諭の左手指にされた指輪が原告の額に当たり、原告の左眉毛の付近に2か所に裂傷が生じ、左眉毛の2㎝程度上にたんこぶ(打撲傷)ができ、原告は、指輪が当たったことによる大きな痛みを受けました。

また、B教諭は、上記の際、顔面のみならず、左手の拳で、原告の胸部から肩にかけてを少なくとも3回、かなり強い力で殴打し、これにより、少なくとも、原告の胸部付近3か所にあざができました。

原告は、両脇を大人の男性に抱えられていたため、本件暴行に抵抗はできなかったし、ダウン症児であって、もともと筋力の緊張が弱く、俊敏でもないため、本件暴行の際、瞬間的に身を固くして身を守るということもできず、殴打されるがままの状態でした。

原告は、本件暴行により、左前額部打撲、右側胸部打撲、右肩打撲等の傷害を受けました。

裁判所の判断

裁判所は、

「本件暴行は、当然のことながら、違法なものである。」

と判示しました。

そして、被告が、本件暴行を「体罰」という言葉で表現していたことについて

  • B教諭は腹立ちまぎれに原告を殴りつけたこと
  • 原告は精神発達が2、3歳の幼児程度にとどまるダウン症児であること

からすれば、

「本件暴行は何らの教育的意図もなく行われ、何らの教育的効果も期待できないものである。すなわち、本件暴行は、教育現場で起こりがちな、いわゆる『体罰』とは異なり、単なる暴力行為というほかない違法性の強い行為である。」

と判断しました。

そして、裁判所は

「本件暴行は、兵庫県の教育公務員が、授業中、生徒に対して行った違法な公権力の行使に該当するから、被告は、国家賠償法1条に基づき、本件暴行によって原告に生じた人身損害を賠償する責任を負う。」

と結論づけました。

教育的意図のない暴行は単なる暴力

教諭による体罰に関する報道が後を絶ちません。

もっとも、報道機関が「体罰」という言葉を使っているために、学校内における教諭の暴行がすべて「体罰」とされている印象を受けます。

しかし、その中には、本件裁判例のように、何らの教育的意図もなく、何らの教育的効果も期待できない暴行も相当数含まれているのではないかと思われます。

ちなみに、そもそも学校教育法第11条は体罰を禁止しているため、本件教諭による暴行の事実が明らかになったのであれば、それが体罰に当たるか否かを論じることは本来不要だといえます。

しかし、裁判所は、あえて本件暴行が体罰ではなく「単なる暴力行為というほかない違法性の強い行為である」と判示しました。

このことは、裁判所が教諭による暴力行為を戒める意図が含まれているのではないかと思います。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top