ラグビーの練習後、体調不良を訴え、翌日熱中症により死亡した事例

2018.10.10 熱中症・自然災害

佐賀地方裁判所平成17年9月16日判決

事案の概要

本件は、Aが被告の設置する県立高校に在学して同校のラグビー部に所属していたところ、平成11年10月11日に行われた対外練習試合後、体調不良を訴え、翌日死亡した事故につき、Aの両親である原告らが、ラグビー部のB監督には生徒部員の生命身体に不測の事態が発生することのないように適切な措置を講ずべき注意義務があったのにこれを怠った過失があるとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害の賠償を求めた事案です。

裁判所の判断

裁判所は、

「学校の部活動は教育活動の一環として行われるものであるから、部活動の指導者が部活動により生じる恐れのある危険から部員(生徒)を保護すべき義務を負うのは当然であり、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うのは、いうまでもないところである。

特にラグビーなどスポーツ競技の部活動においては、部活動の指導者は、部活動中の部員の健康状態を常に監視し、部員の健康状態に異状が生じないよう、状況に応じて休憩をとり、あるいは無理のないように練習計画を変更すべきであり、さらに、部員に何らかの異状を認めたときには、速やかな応急処置をとり、場合によっては医療機関に搬送すべき注意義務を負っているというべきである。」

「そして、熱中症、特に熱射病は、死亡率の高い重篤な疾病であり、ラグビー競技中に発症しやすい疾病でもあるから、ラグビー競技の部活動の指導者としては、部員が熱中症に罹患しないように十分に配慮すべき注意義務を負うのはもちろん、部員に熱中症の罹患を疑うべき症状をひとたび発見した場合には、直ちに安静にさせ、アイシングなどの応急処置をとるとともに医療機関に搬送すべき義務を負っているものである。」

とした上で、

「B監督につきこれをみると、同監督は、一般論として、かかる監視義務のあることを十分認識していたことが窺え(B監督は、県教育委員会、県の協議会等を通じて、また、ラグビー協会主催の講習や日本体育協会等を通じて、日ごろから熱中症などに関する知識を十分に習得していたことが認められるから、運動部の現場指導者として、熱中症から部員を守るべき監視義務の存在を、一般論としては十分に認識していたものと推認できる。)、かつ、Aが過換気の症状を呈した後はその熱射病に対する処置としては極めて適切な処置を講じていることが明らかであるから、少なくとも同監督は、熱中症に関し相当正確な知識を有していたと認められる。」

「ところで、熱中症の予防は、水分摂取、体力や日射しの程度、暑さ馴化の程度、その他熱中症発症の要因となる環境・個体・運動の各要素を具体的に把握して、さらに、部活動中の個々の部員の足の動きや運び、目の焦点、質問に対する反応等をみるなどの配慮がラグビー競技の部活動指導者に求められるというべく、本件にあっては、本件事故日の気象条件、本件アフター練習開始前の練習量、Aの体型(肥満体型)などの他、本件アフター練習中におけるAの動作、熱中症発症後の容態の急変ぶりなどからすると、Aは本件アフター練習(練習時間はわずか20分間である。)開始の時点において、既に熱射病の前駆症状ともいうべき熱疲労の症状に陥っていたことが十分推認できるところ、B監督が本件アフター練習を開始するに当たって、改めてAら部員の体調確認(メディカルチェック)をしたり、十分な休憩をとった節は窺えないこと、本件アフター練習中も練習終了の掛け声をかけるまで全くAらの動作につき熱中症の発症を懸念した事情は窺えないこと(同監督がAに熱中症発症を疑ったのは本件アフター練習終了後である。)、Aの我慢強い無口な性格は同監督として十分承知していたはずであることなどからすると、B監督は、部員の練習指導に心を砕いていたことは十分に認められるものの、Aの熱中症発症については十分な監視を怠ったまま、本件アフター練習を命ずるとともに、同練習中においては、Aの上記異状(スローインの際の緩慢プレー)を、技量の不足、単なる疲労又は練習に対する意欲の低下によるものと判断して、さらに、約200メートルのランニングを2回命じるなどし、もって、Aにつき不可逆的な熱射病を発症させたものと認められる。」

として、

「したがって、B監督には、上記義務に違反した過失があるといえる。」

と判断しました。

選手に必要な知識とは

本件で亡くなった部員(生徒)の死因は熱中症です。

もっとも、本件が発生したのは10月です。

「10月なのに熱中症?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ニュースなどで熱中症への注意喚起をしているのは夏の間だけです。

年々「今年の夏は暑い」と報道され、9月に入っても「残暑が厳しい」と報道されることはあるものの、日に日に「涼しくなって過ごしやすくなってきた」と言われます。

そうすると、段々と熱中症の危険性に対する警戒心が薄れてきてしまいます。

特に、スポーツ選手の場合、日頃の鍛錬により体力に自信があったり、多少体調がすぐれなかったとしても「気合が入っていない」と思ってしまったり、疲れを感じても「今日の練習はハードだ」と思ってしまいがちです。

ただ、熱中症に関しては、気温や湿度の変化、風量などの環境だけでなく、本人の体調などの諸々の条件により発症することがあります。

体力や気力とは全く関係がないのです。

とはいえ、選手本人が熱中症についての十分な知識を持ち、その知識に従って行動することは困難です。

ましてや、指導者の指示に従って練習している場合に自分だけ休むということは気がひけるということもあるでしょう。

しかし、練習よりも大切なのは自らの命です。

少しでも体調に異常を感じた場合には、それが熱中症の症状によるものなのか、別の原因によるものであるのかを問わず、「一旦休むこと」こそが事故を未然に防ぐために最も効果的な手段であるということをぜひ覚えておいてほしいと思います。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top