大学ラグビーの試合中に危険なタックルを受けて頸髄損傷による重度の後遺障害を負った事例

2018.10.31 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成26年12月3日判決

事案の概要

本件は、原告が、大学ラグビー部の試合に出場中、対戦校の選手であった被告から危険なタックルを受けて引き倒され、頭から地面に激突し、頸髄損傷による重度の後遺障害を負ったとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案です。

平成21年11月29日午後、A医大グラウンドにおいて、ラグビーの関東医歯薬大学リーグ戦第2部の試合として、原告が所属するA医大対被告が所属するB医大の試合が行われました。

前半25分頃、B医大の陣内に攻め込んだA医大のスクラムハーフが密集から球出しを行う際にうまくボールを掴めず、地面にボールが転がりました。

原告が転がったボールを取りに行こうとしたところ、B医大の選手であるCが、ラック(双方の一人又はそれ以上のプレーヤーが立ったまま、身体を密着させて、地上にあるボールの周囲に密集するプレーのこと)を組む姿勢で原告に接触しましたが、両者ともボールを確保することができず、ボールは他の場所に転がり出ました。

そこに、被告が、Cの後方から原告に接触し、その後、原告は、頭から地面に突っ込むようにして転倒しました。

原告は、本件事故により、頸髄に損傷を受け、血圧が低下し、呼吸停止の状態となりました。

直ちに同グラウンド上で、現場に居合わせた両校OBの医師により、心臓マッサージ、気管支挿管、点滴ルート確保が行われた後、同グラウンドに隣接するA医大附属第三病院のICUに運ばれ、治療が行われた結果、一命を取りとめました。

裁判所の判断

本件事故の態様について

裁判所は、本件試合をビデオ録画した映像、これをコマ送りにした画像データ及び上記録画映像の一部を拡大プリントした写真を詳細に検討して、本件事故の状況は、以下のとおりであったと認定しました。

  1. 原告は、地面に転がったボールに駆け寄り、前屈みの低い姿勢でCと正面から衝突し、右半身の構えで同人と組み合う形となった。Cは、原告に向かって左方向に回りながら、左手で原告の右太股を抱えて持ち上げ、同人の右足は、地面からやや浮いた状態となった。この時点で、ボールは、原告及びCの位置から選手5~6人分離れた位置まで転がっていき、プレーは、その位置で継続されていた。

  2. Cが原告の胴体下付近にあった自分の右腕を抜き出し、原告の左脇付近に上方から右手をかけようとしたところに、被告がCの後方から近づき、前屈みの姿勢の原告の身体に正面から覆いかぶさるように接触した。

  3. 被告は、右腕を原告の身体から離して横に振り上げた後、原告の左肘付近から、同人の上半身付近に振り下ろした。ただし、この時、被告の右手が原告の身体を掴んだか否か、掴んだとして身体のどこを掴んだかは判然としない。

  4. 被告は、Cとともに、1、2歩程度、原告の身体を押し進めた後、右足を残して伸ばしたまま、左足を曲げて、原告の股下付近の地面に入れ、着地させたかと思うと、すぐにその左足を支点にするようにして、身体を時計回りにひねりながら倒れ始めた。

  5. 被告は、そのまま、右半身を下にして、地面に倒れ込み、それとともに、原告は、臀部が浮き上がった状態となり、Cが原告の右太股を抱えていた左手を離したため、原告は、それまで開いていた両足が揃い、身体全体が「へ」の字形となって、臀部を頂点として宙に浮き、そのまま、時計回りに回転しながら、地面に倒れていた被告の胸付近に向かい、両腕とも肘を曲げ、何も掴まない姿勢で、頭から突っ込んだ。

裁判所は、原告、C及び被告の身体の動き、特に上記4から5にかけての一連の流れについて

「Cは、原告の右太股を抱えていたことは認められるものの、原告の身体を浮き上がらせたり、下に落としたりするという方向での力を加えた様子はうかがえないこと、原告の両足が揃う形となって宙に浮いたのは、Cが手を離した後であること、被告の身体が倒れ始め、右半身を下にして地面に倒れ込む動作と、原告の身体が浮き上がり、宙に浮いて頭から地面に突っ込む動作とは連動していること等が認められるのであり、これらからすると、被告の力によって、原告の上記一連の動作が引き起こされたとみるのが自然であり、被告の両手の付け根部と原告の上半身との位置関係からすれば、被告は、原告のジャージの襟首又は胸あたりを掴んでいたことが推認され、更に、原告が宙に浮いた後、そのまま下に落ちたのではなく、被告の胸付近に向かって移動しながら落下したことからすれば、被告が単に掴んでいただけでなく、自分の上半身側に引っ張ったことが推認される。」

と認定しました。

また、被告が倒れ込んだ態様については

「被告が着地させる直前の左足は、つま先が上になり、スパイクの底面が見える状態であったことが認められる。よって、被告は、左足を踏み込み、その足を支点として次の行動に出ようとしたというのではなく、身体のバランスを崩して倒れ始め、左足をかかとから何とか着地させて踏ん張ろうとしたが果たせず、その勢いのまま倒れ込んだことが推認される。そもそも、被告が原告を投げ飛ばそうと考えたのだとすれば、わざわざ倒れることに利点はないのであるから、被告が故意に倒れ込んだとは認められない。

と認定しました。

以上を踏まえて、裁判所は、本件事故の態様としては、

「被告が、原告のジャージの襟首又は胸あたりを掴みながら、地面に右半身を下にして倒れ込み、原告を自分の上半身側に引き込んだことにより、原告は、頭から地面に突っ込んだ」

と認定しました。

被告の故意又は過失の有無について

裁判所は、以上の事実認定を踏まえ、

「被告が無意識のままに起こしたものとは認め難く、一連のプレーの中の出来事であり、詳細まで把握していなかったとしても、少なくとも、自分が原告を引き倒したことは認識していたと推認される。」

としました。

この点について、原告は、

「被告が故意に原告を頭又は首から地面に叩きつける形で引き倒した」

と主張しましたが、裁判所は

「被告が原告に重大な損傷を与えることを認識、認容して、本件事故を引き起こしたとまで認めるに足りる証拠はなく、故意までは認められない。」

と判断し、過失の有無について検討することとなりました。

そして、裁判所は

「被告は、原告のジャージの襟首又は胸あたりを掴みながら地面に倒れ込み、原告を自分の上半身側に引き込んだことが認められるところ、このような態様で原告を引き倒せば、原告が頭から地面に叩きつけられること、これにより、頭部、頸部等に傷害を与え得ることは容易に予見でき、いかに一連のプレー中であったとはいえ、掴んだ手を離す、力を緩める等、この結果を回避することも可能であったのであるから、被告には過失があったものと認められる。」

と被告の過失を認定しました。

これに対し、被告は

「被告の行為は、タックルではなくスイープであり、タックルに関する規則は適用されず、規則に違反したプレーではなく、過失はない」

と主張しました。

これに対して、裁判所は

「過失の有無は、単に競技上の規則に違反したか否かではなく、注意義務違反の有無という観点から判断すべきであり、競技規則は注意義務の内容を定めるに当たっての一つの指針となるにとどまり、規則に違反していないから過失はないとの主張は採用することができない。」

「なお、競技規則の観点から見たとしても、被告の行為は、原告のジャージの襟首又は胸付近を掴みながら、地面に右半身を下にして倒れ込み、原告を自分の上半身側に引き込んで、これにより原告が頭から地面に突っ込んだものであって、その行為自体、重傷を生じさせる危険な行為といえ、『両足がまだ地面から離れている相手プレーヤーを、頭および/または上半身が地面に接触するように落としたり力を加えたりする』危険なプレー(IRB競技規則10条4(j))とも評価し得るものといえる。」

として、被告の主張を認めませんでした。

違法性の有無について

被告は、

「ラグビーの試合に出場する選手は、相手方選手のプレーにより負傷する危険性があることを認識し、自らそれを引き受けた上で試合に出場しているのであり、試合中のある選手のプレーにより負傷した場合においても、そのプレーが、試合の流れとは無関係に、故意に相手方の選手に傷害を負わせた場合若しくはそれに準じるような重過失が認められない場合、又はルール違反のプレーを故意又は重過失により行ったものでない場合には、そのプレーは社会的相当性の範囲内の行為として違法性が否定されるべきであるとした上で、被告のプレーは、仮に競技規則に違反していたとしても、故意ではなく、試合の一連の流れの中で自然に行われているものであり、ラグビーのプレーとして相当性を逸脱した異常な態様のものではないから、違法性を欠く」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「確かに、ラグビーは、ボールを持って疾走する相手方をタックルで倒してボールを奪うことを内容とする格闘技ともいうべき激しいスポーツであって、ボールを争奪するため又はボールを保持するために相手に強い身体的圧力をかけるプレーが当然に想定されており、競技中相手方と接触、衝突して負傷するという事故が発生する危険がないということはできないのであるから、ラグビーの試合に出場する者は、上記危険を認識し、これを一定程度引き受けた上で、試合に出場しているということもできる。」

との一定の理解を示しつつ、

「しかしながら、ラグビーの試合に出場する者は、プレーにより通常生ずる範囲の負傷については、その危険を引き受けているものとはいえ、これを超える範囲の危険を引き受けて試合に出場しているものではない。そして、ラグビーにおいては、他の競技に比べ、選手が頸椎又は脊髄を損傷する重傷事故あるいは死に至る事故の事例も少なくないとはいえ、これらの重傷事故が、ラグビー競技における身体的接触を伴うプレーに付随する危険として当然に許容されているものではないことは、IRBのラグビー憲章及び競技規則においても、重傷事故の発生を防止するために、種々の規則が制定され、選手には、この規則の遵守が義務付けられていることからも明らかである。」

とした上で、

「以上の諸点を総合考慮すると、ラグビーの試合中のある選手のプレーにより他の選手が通常生ずる範囲を超えて負傷した場合、被告が主張するように、故意又は重過失によるものでない限り、そのプレーは社会的相当性の範囲内の行為として違法性が完全に否定され、当該選手は、不法行為責任を負わないとすることは極端に過ぎ、相当ではないが、他方、ラグビーという競技自体に事故発生の危険が当然に想定され、ラグビーの試合に出場する選手は、その危険を一定程度引き受けた上で、試合に出場しているということ及び選手には試合に安全に参加できるよう身体的かつ技術的に準備する責任があること(競技規則序文)も勘案すれば、発生した損害の全部を加害者たる選手に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわざるを得ず、このような場合、民法722条2項の趣旨を類推して損害賠償額を定めるのが相当であると解される。」

と判断しました。

その上で、裁判所は、本件について

「原告は、自らの意思で、大学でラグビー部に入り、大学2年生以来ほぼ毎年試合に出場していたのであるから、自ら一定の危険を引き受けた上で本件試合に出場していたといえること、被告に過失が認められるのは、上記認定のとおりであるものの、被告が試合の展開と関係なく、故意をもって原告を負傷させたことまでの事情は認められず、まさに試合の流れの中で、不幸にも重大な事故が発生したものであると評価されること、ボールが他方向に転がって離れていったにもかかわらず、被告は危険な姿勢にある原告の襟首又は胸あたりを掴んで引っ張り、原告もとっさに両手等で受け身の態勢をとることなく、頭から地面に落下してしまったものであって、両者の動作ともやや未熟であった感は否めないこと等が認められるのであり、これらの一切の事情を勘案し、民法722条2項の趣旨を類推して、被告には、原告に生じた損害の6割を負担させるのが相当であると解される。」

と判断しました。

本件裁判例における重要な2つのポイント

本件における裁判例では、2つの重要なポイントがあります。

それは

  1. 過失の有無は、単に競技上の規則に違反したか否かではなく、注意義務違反の有無という観点から判断すべきであるとした点
  2. 発生した損害の全部を加害者たる選手に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわざるを得ず、このような場合、民法722条2項の趣旨を類推して損害賠償額を定めるのが相当であるとした点

です。

注意義務違反の有無について

ラグビーの場合、競技の内容そのものが身体に対する一定の危険を含んでいます。

そのため、ラグビーの試合中に事故が発生したからといって直ちに加害選手に過失があるとはいえません。

他方で、危険防止のためのルールに違反する行為がされたような場合には、加賀選手に過失があるとされるのが通常であると考えられます。

本件では、被告の行為がIRB( 国際ラグビー評議会 、現在のワールドラグビー)競技規則に違反したプレーに該当するのか否かについては判断しておらず、IRB競技規則に規定されている「危険なプレーとも評価し得る」と判断しているにすぎません。

つまり、裁判所は、「危険防止のためのルールに違反する行為であった」とは判断していないことになります。

もっとも、本判決は、「過失の有無は、単に競技上の規則に違反したか否かではなく、注意義務違反の有無という観点から判断すべきであり、競技規則は注意義務の内容を定めるに当たっての一つの指針となるにとどまり、規則に違反していないから過失はないとの主張は採用することができない」と判示しました。

このように、本判決は、

「ルールに違反しない行為の場合であっても、注意義務違反があるために過失があると判断される余地がある」

ということを明確に示したといえます。

民法722条2項の趣旨の類推について

一般に、スポーツに参加する者は、そのスポーツに伴う危険について承諾あるいは引き受けを行っています。

したがって、スポーツ中の加害行為については、一般的に違法性が阻却されると考えられています。

もっとも、このような危険についての承諾あるいは引き受けは、通常予測される危険のみを対象とするものです。

そのため、加害行為が加害者の故意又は重過失によって行われたものであったり、危険防止のためのルールに対する重大な違反がある場合には、違法性は阻却されないことになります。

この点が問題になった事案としては、「キックボクシングにおける危険の引き受けが問題になった事例」があります。

このような違法性や違法性阻却の判断については、スポーツの種目によって異なることになります。

本判決では、

「ラグビーにおける事故については、故意又は重過失によるプレーでない限り、そのプレーは社会的相当性の範囲内の行為として違法性が完全に否定され、当該選手は不法行為責任を負わないとすることは相当ではない」

としつつも、

「発生した損害の全部を加害者に賠償させるのもまた損害の公平な分担の観点から妥当ではない」

として、民法722条2項の「過失相殺」の趣旨を類推して賠償額を定めるのが相当であると判示しました。

スポーツ中の事故により被害者に損害が発生したとしても、被害者にも過失があって損害が発生・拡大した場合には、過失相殺により損害賠償額が減額されることになります。

逆にいうと、被疑者に過失がない場合には、全額の損害賠償が認められるということになります。

しかし、このような判断が必ずしも公平であるとはいえないケースもあります。

そこで、本判決は、故意又は重過失によるものではない加害行為についても損害賠償責任を広く認める立場を採りつつ、負担することとなる賠償額を適正な範囲に抑えるように民法722条2項の趣旨つまり「損害の公平な分担」を図るべきだと判断したことになります。

まとめ

この裁判例を参考にすると、スポーツ中の事故により被害者に損害が発生した場合、加害者に対する損害賠償請求が広く認められる傾向となることから、被害者の保護が広く認められることとなると同時に、加害者に対して過度の責任を負わせることがないということにもつながります。

その意味では、重要な裁判例であるといえると思います。

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