ラグビー部の中学生が練習中に熱中症に罹患して死亡した事故

2019.01.08 熱中症・自然災害

神戸地方裁判所平成15年6月30日判決

事案の概要

本件は、原告らが、被告川西市の設置するB中学校のラグビー部に所属していた原告らの長男Aが、平成11年7月27日の同部活動中、熱中症を発症して死亡するという事故の発生について、当時同部の顧問教諭であった被告Yに重大な過失があったことを主張し、被告川西市に対しては安全配慮義務違反による債務不履行責任又は国家賠償法1条1項に基づき、また、被告Yに対しては不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案です。

被告Yは、平成11年7月27日当時、B中学校教諭として社会科を担当するとともに、同校ラグビー部の顧問教諭を務めていました。

Aは、平成11年4月、B中学校に入学し、課外クラブ活動の一つである同校ラグビー部に所属して活動していました。

Aは本件事故当時13歳であり、身長155センチメートル、体重65キログラムで多少の肥満傾向はあったものの、格別、虚弱体質ということもなく、また、特に持病もありませんでした。

Aは本件事故の1週間前である平成11年7月20日、報徳学園のラグビーフェスティバルに参加し、翌21日から24日まで、家族とともに旅行に出かけていました。

本件事故前日(同月26日)のAは、食欲も旺盛で、8時間程度の睡眠を取っており、その健康状態は良好でした。

もっとも、Aは、同年6月ころから、ラグビー部の朝の練習が厳しいため、食べても吐いてしまうと言って、朝の練習がある日は朝食を取らないようになり、本件事故当日も朝食を取っていませんでした。

また、Aは、本件事故当日、練習に水筒を持参しませんでした。

本件事故当日の気象状況は、大阪管区気象台・豊中大阪空港アメダス計測で、午前7時現在で気温29.2度、湿度62%であり、川西市消防本部計測の午前7時台の気象条件は、平均気温27.2度、相対湿度73.8%、午前8時台が28.4度、65.4%、午前9時台が29.8度、54.7%でした。

午前6時30分ころ、B中学校ラグビー部は、被告Yによる部員の出欠確認の後、練習を開始しました。

午前6時40分ころ、ランニングパス3人組(3人で走りながらボールをパスする練習)の練習を始めました。

Aは、2、3本目から遅れがちでしたが、被告Yはこれに気付いていませんでした。

ランニングパスを4本半終えた後、被告Yは部全体に緩慢な動きが見られたことから、これを引き締めるために、全部員にキックダッシュ(最初にボールを蹴り、それを追いかけてキャッチし、ボールをパスしながらゴールまで走り抜ける練習)の指示を出しました。

1本目終了後、被告Yには、Aがいつもの5メートルのラストスパートをしているように見えなかったため、「A、しっかりせい。」と言って、2本目を追加する旨の指示を出しました。

キックダッシュ2本終了後、残りのランニングパス5本半(合計10本)を行いました。

軽いジョギングによりクールダウンした後、グラウンド中央で被告Yが部員に対し体操隊形の指示を出しましたが、Aは体操隊形を作らずその場で座り込みました。

被告Yは、Aのこの行動を見て、おどけて尻餅をつくように座ったものと判断し、せっかく1つになりつつあるムードがこわれ、キックダッシュをした意味がなくなると考え、懲罰として2回目のキックダッシュを全部員に指示しました。

2回目のキックダッシュは1本で終了しました。

午前7時過ぎ、部員が順に号令を掛けながら休憩を兼ねて体操を行いました。

普段であれば、体操の最後に2人組になってストレッチ体操をするはずでしたが、当日はそれをせず、キャプテンが「集合」と声を掛けました。

被告Yは、部員にとって休憩は長い方が良いと思いつつも、次の練習に動き始めた部員の気持ちに水を差すよりも次に進めようと考え、あえて何も言いませんでした。

体操の後、3人組のヘッドダッシュタイムトライアル(被告Yが3人組となった部員らに対して、約20メートル先からボールを蹴り、部員らがそのボールをキャッチして、ボールをパスしながら被告Yの立っている場所まで走り抜ける練習で、8秒の時間制限が設けられている)の練習に移りました。

しかし、Aは途中、頭上に飛んできたボールを捕らえようと両手を挙げましたが、「アー」という声を出して、そのまま後ろに尻餅をつきました。

被告Yは、このようなAの様子を見て、少しずつ中途半端なプレイが目につき始めたと認識しました。

その後、Aは走り切りましたが、ぐったりとした状態でした。

続いて、5人組のヘッドダッシュタイムトライアル(上記ヘッドダッシュタイムトライアルを5人組で行うもので、10秒の時間制限が設けられている。)の練習に移りましたが、Aは、被告Yの指示した方向に走るものの、ボールを持つ走者を追わずに、まっすぐゴールに走るなどしました。

被告Yは、普段のAであれば少なくともボールを最後までつなぐプレイをやり遂げるのに、上記のような行動が2回ほど見られたことから、これを無責任なプレイと判断し、懲罰として全員に3回目のキックダッシュの指示を出しました。

1本目のキックダッシュの際、Aは部員のC、Gに対して「筋肉痛があるから走れない。」と訴えていました。

Aは、1本目を走り終えましたが、往復ともいつもよりかなり遅れがちで、最後5メートルのラストスパートもできませんでした。

そこで被告Yは、懲罰として全員に2本目のキックダッシュを追加する指示をしました。

2本目のキックダッシュでは、Aがスタートのキックをしたが、ボールを蹴るときに足がもつれて蹴り損ね、ボールが前に転々としました。

Aはその後走り始めましたが遅れたため、後ろの組のCがAの背中を押して走らせようとしました。

しかし、Aは押しても歩くより少し早いくらいの速度でしか走れず、背中を押す手を離すと後ろに倒れてくるような状態でした。

Cは、Aを押してもスピードを上げないので、ジャージをつかんで少し引っ張るなどしたところ、Aは片膝をついて前に倒れました。

その後、Aは、立ち上がり走り始めましたが、その速度は遅い状態でした。

被告Yはグラウンドの中央付近で練習の様子を見ていましたが、Aが被告Yの前まで来たとき、足先を指さし「先生、足が痛い。」と言いかけました。

しかし、被告Yは「甘えるな。」「そんなもん通用せえへん。」「しんどいふりするな。」「演技してもあかん。」などと言って取り合いませんでした。

Aは、2本目でもゴール前のラストスパートができなかったため、見学者の一人がAのそばに駆け寄ってきて、Aの背中を押して走らせました。

そして、ゴール直前、その見学者がAを自力で走らせるために手を離すと、Aはそのままゴールしましたが、足がもつれてよろけました。

周りの部員が集まってAに声を掛けていましたが、Aは前向きに膝をついて、その後尻餅をついて横に倒れました。

周りの部員らが声を掛けながら、Aの胸をつかんで起こそうとしましたが、Aは身体に力が入らず、手を離すと後ろに倒れるような状態でした。

午前7時30分ころ、グラウンド中央付近にいた被告Yは、グラウンド上に倒れたAについて、部員らが「走ろうとしません。」「起きようとしません。」と言うので、Aの方にゆっくり歩いていき、その胸倉をつかみ、「しっかりせんかい。」と言ってAを引き起こそうとしました。

しかし、Aは「嫌や。」など普段は被告Yに対して使わないようなぞんざいな言葉を発して顔を背けました。

この時、Aの呼吸は荒い不規則な状態であり、体にも力が全く入っておらず、目は半開きでつむりそうな状態でした。

被告Yは、Aにこれ以上何を言っても余計に頑なになるだけだと考え、「何でやろうとせんのや。」と言ってAを横に寝かせました。

部員の一人が「先生起こしましょうか。」と言いましたが、被告Yはこれ以上走れないと判断し、「もうほっとけ。」「14年間でこんなやつ見たことないぞ。」「後でちゃんと走らせろ。」と言って自らは次の練習位置に向かいました。

そして、他の部員にはキックダッシュの継続を指示し、Aについては、見学者に次の練習位置まで連れて行くよう指示しました。

Aは自力では歩けない状態でしたので、見学者によってグラウンド中央付近の被告Yがいる場所まで運ばれました。

被告Yは、部員がAの周りを囲んでいたので、「陰なんか作らんでいい。」と言って、その中に割って入り、仰向けになっているAを起こそうとしましたが、手を離すと倒れてしまい力が入っていませんでした。

Aの呼吸は荒く、横にさせると目は半開きになって閉じかけるので、被告YはAを見学者にもたれかけさせて座らせました。

そして、Aに「しんどいふりしてもあかんぞ。」「通用せんぞ。」などと声を掛けましたが、Aは頷くものの言葉はありませんでした。

その後、被告YはAの様子を見学者に見させて、練習を再開しました。

Aはぐったりした様子で、息づかいが変化して「アーアー」と言うのみで、見学者が声を掛けても反応しない状態でした。

午前8時ころ、被告Yは休憩を指示し、Aの近くに行って「演技は通用せん。」「ちゃんとせいよ。」等と声を掛けましたが、Aは上記「アーアー」と言う以上の反応を示すことはありませんでした。

見学者がAにお茶を飲ませようとしましたが、Aは口を少し開いたままで、口からこぼして飲めませんでした。

被告Yは、そのようなAの様子を見て「しっかりせえ。」と言ってAの頬を叩くと、Aは首を動かして被告Yの方を見ましたが、しばらくすると焦点の合わない状態に戻りました。

被告Yは同じ事を2回繰り返しましたが、同じ反応でした。

そこで、被告Yは、見学者に対し、自力歩行できないAを水場に運ぶよう指示しましたが、自らは水場には行きませんでした。

午前8時10分ころ、休憩が終了し、部員らはモール等の専門練習を開始しました。

被告Yのもとに、見学者がAに水をかけてもよいか聞きに来たので、被告Yは、しっかりかけてやるように言って、そのまま練習を続けました。

その後、見学者がAに水をかけましたが、反応がないので、被告Yにその旨の報告をしたところ、被告Yは、もう少し続けてみるよう指示しました。

午前8時40分ころ、被告Yが再度、Aの様子を見に行ったところ、Aは上半身裸で水場に2ないし3センチメートルの深さの水につかって仰向けに寝かされている状態でした。

Aは、目をつむったまま、アーアーと呼吸するのみでした。

被告Yは、Aが気を失ったら危ないと考え、Aの背中を起こし、膝を背筋にあて両肩に手を掛け、2回力を入れて伸ばしましたが効果はありませんでした。

被告YはこのままではAに風邪を引かせることになると考え、見学者にAを水場から出して石垣にもたれかけさせて座らせるように指示し、再び練習に戻りました。

午前8時40分過ぎ、被告YはAが心配になり、部活動を通常より50分早めて切り上げ、Aを保健室に連れて行くように指示しました。

その際、Aは全身が脱力し、瞬きもない状態でした。

午前9時1分、被告Yの報告を受けた他の教諭の指示で、校務員が119番通報しました。

Aは、午前9時19分、救急車によって川西市内の協立病院に到着しましたが、午前10時8分大阪府立千里救命救急センターに転送されることになり、午前10時27分同センターに到着しました。

しかし、Aは、翌28日午後6時41分、同センターにおいて、熱射病による多臓器不全により死亡しました。

裁判所の判断

被告Yの過失の有無について

裁判所は、被告Yの注意義務に関して、

「公立中学校における課外クラブ活動は学校教育の一環として行われる以上、学校設置管理者は生徒の生命、身体の安全を図る義務があり、また、その担当教諭も、学校設置管理者の履行補助者として、部の活動全体を掌握して指導監督にあたる者であるから、練習中、部員の生命、身体に危険が及ばないように配慮し、部員に何らかの異常を発見した場合には、その容態を確認し、応急処置を採り、必要に応じて医療機関に搬送すべき注意義務が認められる。」

とした上で、

  • 本件事故当時、既に学校管理下における熱中症(日射病、熱射病を含む。)による多数の死亡事故例が報告、報道されるとともに、その予防策や発生時の対処の方法についても、少なからざる文献が公刊されていたことに照らすと、熱中症の危険性とその予防対策の重要性は、特に体育教育関係者にとっては当然身につけておくべき必須の知識であったと認められること
  • 被告Yは、ラグビー部の顧問教諭である以上、体育教育関係者と認められること
  • 被告Y自身、屋外におけるスポーツの際に、日射病、熱射病が発生する危険性について一応の知識を有していたことを本人尋問の際に自認していること
  • ラグビーはスポーツの中でもかなり激しい競技であること

等を総合すると、

「被告Yとしては、部員が暑さと激しい運動によって熱中症を発症することのないように、練習中に適宜休憩を取らせ、十分に水分補給をさせるとともに、部員に熱中症を疑わせる症状がみられた場合には、直ちに練習を中止し、涼しい場所で安静にさせ、冷却その他体温を下げるなどの応急処置を採り、必要に応じて速やかに医療機関に搬送すべき注意義務(安全配慮義務)があったと認められる。」

と安全配慮義務の具体的な内容を示しました。

その上で、裁判所は、被告Yに上記の意味での注意義務違反(安全配慮義務違反)が認められるかどうかを検討しました。

まず、事故当日の気象状況について、裁判所は、

  • 財団法人日本ラグビーフットボール協会作成の「安全対策マニュアルラグビーフットボール改訂版(平成4年6月)」及び財団法人日本体育協会作成の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」によれば、熱中症の発生には、気温、湿度、風速、輻射熱(直射日光)などが関係し、これらを総合的に評価するための指標として、WBGT(Wet bulb Globe temperature)があり、「0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度」という計算式によって算出されること
  • 上記「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」の「熱中症予防のための運動指針」によれば、WBGTが21度以下の場合、熱中症発生の危険性は小さいが、21度ないし25度の場合、熱中症発生に注意が必要であり、25度ないし28度の場合、熱中症発生を警戒し、積極的に休息を取り水分を補給する必要があり、28度以上の場合、熱中症の危険が高いので激しい運動を避ける必要があるとされていること
  • また、日本ラグビーフットボール協会の指導によれば、温度が27度以下で湿度が70%以下の場合、特に熱中症の予防処置は不要であるが、温度が27度ないし32度で湿度が70%の場合は熱ストレスの徴候を慎重に見守りながら練習を実施することとされ、温度が27度ないし32度で湿度が70%以上の場合には、練習を中止するか、または練習時間・練習内容を変更して慎重に実施する旨定められていること
  • 本件事故当日の川西市における気象状況は、午前7時台の平均気温が27.2度、相対湿度が73.8%、午前8時台の平均気温が28.4度、相対湿度が65.4%、午前9時台の平均気温が29.8度、相対湿度が54.7%であったこと

が認められることから、

「日本ラグビーフットボール協会指導によれば、熱ストレスの徴候を慎重に見守りながら練習を実施するか、練習を中止し、変更すべき気象であったと認められる。」

としました。

また、裁判所は、

「同気象状況から推定されるWBGTは、午前6時台が24.28度、午前7時台が24.68度、午前8時台が25.64度、午前9時台が26.77度であって、本件事故当日は熱中症発生を注意もしくは警戒する必要がある状況であったことが認められる。」

としました。

次に、本件事故当日におけるAの状態及び被告Yの認識について、裁判所は、

  • 本件事故当日、Aは、午前6時40分ころの練習当初から動きが遅れがちであり、被告Yが体操隊形の指示をしてもその場で座り込んでしまい、午前7時過ぎの体操後に行われたヘッドダッシュタイムトライアルの際にも、頭上に飛んできたボールを取ろうとして尻餅をついたり、ボールを持つ走者を追わずにまっすぐゴールに向かうなどの普段とは異なる行動に出たほか、その後の3回目のキックダッシュの1本目においても、往復ともかなり遅れ、最後の5メートルのラストスパートもできないなど、皆の動きについていけないことが明らかで、A自身周囲の者に走れない旨訴えていたこと
  • 3回目のキックダッシュの2本目では、歩くより少し早い程度の速度でしか走れなくなってしまい、周囲の者が背中を押す手を離すと倒れてしまうほどで、何とかゴールしたものの、その時点(午前7時30分ころ)では、自力で立っていることすらできず、体には力が入らずぐったりした状態で、呼吸は荒く、目は半開きの状態であったこと
  • 午前8時ころには、声をかけても「アーアー」と声にならない声が出るだけで、お茶を飲ませようとしても飲むこともできず、目の焦点も合わない状態になったこと

の各事実が認められるとした上で、

「これらの事実に照らすと、Aは、本件事故当日、練習当初から体調の異常を示していたことが認められる。そして、遅くとも、3回目のキックダッシュの2本目終了時の午前7時30分ころには、Aは、自力で歩行することすらできず、体に力が入らずぐったりとした状態になり、呼吸も荒く、目も半開きの状態になるという明らかに異常な兆候を示していたのであるから、通常人の注意力をもってすればAの容態が悪いことは極めて容易に認識できたはずである。」

としました。

そして、裁判所は、

「被告Yは、練習の当初こそAのそのような動きに気付いていなかったものの、1回目のキックダッシュの時点以降は、Aの動きの悪さを理由に懲罰的なキックダッシュを2回も行わせているのであるから、1回目のキックダッシュの時点以降は、Aの状態をよく観察していたと認めることができる。」

としました。

また、裁判所は、

「Aは、3回目のキックダッシュのころ、被告Yに対して、足先を指さし『先生、足が痛い。』と訴え、また、3回目のキックダッシュの2本目終了後、被告Yから胸ぐらをつかまれて引き起こされそうになったときにも、『嫌や。』などと普段は使わないぞんざいな言葉を発して顔を背けているのであるから、A自身、これらの言動を通して、体調が悪いことを被告Yに直接訴えていたことが認められる。」

としました。

これらの事実、つまり

  • 本件事故当日は、熱中症の発生を注意もしくは警戒すべき気象状況にあったこと
  • 被告Yは屋外スポーツにおける日射病、熱射病の発生の危険性については、一応の知識を有していたと認められること
  • Aは、遅くとも午前7時30分ころには通常人であれば容態が悪いことを容易に認識できるほど明らかに異常な兆候を示していたこと
  • 被告Yは、そのようなAの状態をよく観察していたこと
  • A自身が被告Yに対して直接体調の悪いことを訴えていたこと

等を総合して、裁判所は、

「遅くとも午前7時30分のころには、被告Yにおいて、Aが熱中症を発症しているおそれを十分に予見ないし認識できたはずであったと認められる。

そして、被告Yは、前記のとおりの安全配慮義務(部員に熱中症を疑わせる症状がみられた場合は、直ちに練習を中止し、涼しい場所で安静にさせ、冷却その他体温を下げるなどの応急処置をとり、必要に応じて速やかに医療機関に搬送すべき注意義務)を負っていたのであるから、この時点において、Aの体温を下げるなどの応急措置をとりながらその容態を観察し、症状の軽減がみられない場合には速やかにAを医療機関に搬送すべきであったと認められる。」

とした上で、

「ところが、被告Yは、これらの措置を採らなかったどころか、Aが仮病を使って練習を怠けているものと頭から決めてかかり、ぐったりとなっているAに対し、『しんどいふりしてもあかんぞ。』『通用せんぞ。』『何でやろうとせんのや。』『14年間でこんなやつ見たことないぞ。』『演技は通用せん。』『ちゃんとせいよ。』などと筋違いな叱責、非難を繰り返し、Aの介抱を見学者に委ねたまま放置し、午前8時40分に、目をつむったままアーアーと言うのみでぐったりとしているAを見てもまだ、膝をAの背筋にあてて伸ばす以外に積極的な措置を講じず、午前8時40分過ぎに至ってようやくAの容態に不安を感じ、保健室に運んだのであって、被告Yのこれらの一連の行動は、たとえAが練習を怠けていると思い込んでしまったことによる誤解の面があったとしても、あまりにも無思慮かつ軽率であって、安全配慮義務違反の過失が認められることは明らかである。」

と判示しました。

因果関係について

裁判所は、

  • 熱射病は死の危険のある緊急事態であって、体を冷却しながら一刻も早く集中治療の可能な病院へ搬送する必要があり、いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右するので現場での応急処置が重要であること
  • 死亡診断書において、熱射病の発症時は死亡の約34時間前(本件事故当日の午前8時40分ころ)とされていること
  • 大阪府立千里救命救急センター医師の回答書において、Aの救命可能時期につき、最後のキックダッシュ後、グラウンド中央付近に運ばれ、「アーアー」という声を発するようになったころと思われる旨の回答がなされていること

からすると、

「前記認定のとおり、Aが明らかに異常な兆候を示すようになった午前7時30分ころに、被告Yが適切な救護措置を採っておれば、Aの死亡を回避し得た蓋然性は高いと認められる。」

として、本件において被告Yの過失行為とAの死亡との間には相当因果関係が認められると判断しました。

被告川西市の責任について

裁判所は

「被告川西市は、公立学校の設置者として、課外クラブ活動における、生徒の身体、生命について安全を配慮する義務を負うところ、本件においては、前記認定のとおり、その職員である被告Yがその職務を行うにつき、その過失(安全配慮義務違反)により、Aを死に至らしめたのであるから、被告川西市には、原告らに対して、国家賠償法第1条1項に基づく損害賠償義務が認められる。」

と判示しました。

被告Yの責任について

裁判所は

「前記認定のとおり、被告Yには、Aの熱中症による死亡について、安全配慮義務違反の過失を認めることができる。」

としながらも、

「しかしながら、公権力の行使にあたる国又は地方公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は地方公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責を負わないと解すべきである(最高裁昭和52年10月25日第三小法廷判決・裁判集民事122号87頁、最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻534頁等各参照)。

そして、被告Yは、公立中学校の職員として、学校教育の一環としての課外クラブ活動の指導監督を行うについてA及び原告らに損害を与えたのであるから、原告らの被告Yに対する請求は理由がないことに帰する。」

として、被告Yの損害賠償責任を認めませんでした。

過失相殺について

被告らは、

「本件においてAの熱射病の原因が、Aの練習前の疲れと脱水にあった」

として、過失相殺を主張しました。

しかし、裁判所は

「そもそも、当時Aはまだ中学1年生であって、身体も成長途中で未完成であって、自己管理能力も必ずしも十分でない年齢であることに鑑みると、そのような年齢の生徒に多少の疲れや体調不良が生じることは当然に起こり得る事態であって、ラグビー部の顧問教諭としては、そのような事態も想定して指導にあたるべきであり、Aの側に多少の疲労等の熱中症を発症させる誘因があったとしても、そのことを過失相殺の基礎として斟酌することはできないというべきである。」

として、被告らの過失相殺の主張を排斥しました。

「演技」を疑う前に「熱中症」を疑うべき

本件では、Aが体調不良により練習についていけなかったり、「嫌や。」など普段は被告Yに対して使わないようなぞんざいな言葉を発したりしたにもかかわらず、被告YはAが仮病を使って練習を怠けようとする「演技」であると決めつけて、熱中症を疑わせる症状がみられた場合に直ちに採るべき応急処置を怠りました。

同様のことは、県立高校剣道部における熱中症事故について学校と病院の過失を認めた事案でも起きています。

しかし、本件のように、選手(部員)が普段とは異なる様子を呈している以上は、それが練習を怠けようとする「演技」であると疑うよりも、選手の体調不良を疑うべきです。

特に、熱中症に関しては、その中でも最も重篤な熱射病の場合、異常な体温上昇のために体温調節中枢に障害が及び、吐き気、めまいだけでなく、意識障害やショック状態なども示します。

つまり、普段とは異なる様子を呈した場合には、それが熱射病に起因する意識障害の表れであるとも考えられるのです。

そして、熱射病に関しては、死の危険のある緊急事態なのです。

指導者としては、選手(部員)が練習を怠けることを許せないのかもしれませんが、そのことで実力が伸び悩んだとしても、それは選手(部員)の自己責任です。

そのことを叱るよりも、選手(部員)の生命や身体の安全を図ることの方を優先するのが当然であると思います。

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