県立高校男子生徒の自殺はラグビー部顧問の違法な指導とラグビー部内のいじめが原因であると主張した事案

2019.01.29 パワハラ・セクハラ・いじめ

青森地方裁判所平成25年10月4日判決

仙台高等裁判所平成28年3月10日判決

事案の概要

本件は、被告の設置・管理する青森県立高校に通っていた原告らの子であるAは、本件高校の教員でラグビー部の顧問であったB教諭から、違法な指導を受け、また、ラグビー部でいじめにあっていたところ、B教諭のほか、クラス担任のC教諭及びD校長がいじめを放置するなどして安全配慮義務に違反し、その結果、Aが自殺に至ったと主張し、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を請求した事案です。

Aは、平成19年4月、本件高校に入学し、ラグビー部に入部しました。

B教諭は、ラグビー部の顧問であり、かつ、生徒指導部にも所属していました。

また、C教諭は、Aの所属クラスの担任でした。

Aは、同年5月末ころまではラグビー部の練習に参加していましたが、ラグビー部では、練習中、部員同士が「くさい」と言い合ったり、B教諭が、部員に対し、「かまうな」と言うことがありました。

Aの中学校時代からの友人で、Aとは別の部活動に所属していたFは、Aから、

  • Aが転部するのであれば、Aの中学校の後輩が後期試験の面接でラグビーをやりたいと言っても有利にならないなどとB教諭に言われたこと
  • Aが転部届を提出したにもかかわらず、B教諭がこれを受理しなかったこと

を聞いたことがありました。

Aは、同年7月12日まで、本件高校を欠席したことがありませんでしたが、同日、登校時間になっても自室から出ませんでした。

C教諭は、同日は休暇をとっていましたが、Aの母親から本件高校に対し、Aが自室から出てこない旨の連絡があったことを聞いて出勤し、Aの自宅に電話をかけ、Aの母親から、Aが自室から出てこないこと及び携帯電話の画面に「死ね」と表示されていたこと等を聞きました。

C教諭は、その後、Aから直接話を聞くため、Aの自宅に向かい、Aと面談を行いました。

C教諭は、Aが話しにくそうにしていたため、AはAの母親の前では話をしにくいのではないかと考え、Aの母親の了解を得て、Aをドライブに連れて行き、車中で話を聞くことにしました。

C教諭は、車中において、Aに対し、Aの母親が見たという、Aの携帯電話の「死ね」という表示について尋ねたところ、Aは、「『死ね』という表示は誰かから送られてきたメール等ではなく、自分で探した待受画面である」と説明しました。

さらに、C教諭は、Aに対し、自室から出なかった理由を尋ねたところ、Aは、「部活動を続ける自信がないこと及び家族との関係に悩んでいることが理由である」と説明しました。

これに対し、C教諭は、Aに対し、登校できるようであれば午後から登校するよう勧め、部活動のことについてはAがB教諭と話し合いの機会を持てるよう、B教諭に連絡する旨を話しました。

C教諭は、Aを自宅に送り届けた際、Aの母親に対し、Aがラグビー部を続ける自信がないと言っていること及び家庭のことで悩んでいることを伝えた上、転部を提案し、また、少し過干渉気味ではないかなどとアドバイスを行いました。

C教諭は、その後、本件高校に戻り、B教諭に対し、Aが部活動のことで悩んでいる旨を伝え、Aの相談にのるよう依頼しました。

Aは、同日午後、本件高校に登校し、B教諭と面談しました。

面談において、B教諭は、Aに対し悩みを尋ねたところ、Aは、「ラグビー部のことと家庭のことである」と答え、「自分は不器用でなかなか思うように上達しないし、試合でも相手にも向かっていけないので、精神的にも肉体的にも続ける自信がない」などと話し、「ラグビー部を辞めたい」と申し出ました。

ちなみに、Aの本件高校内部における体力テストの結果は、同一学年内における順位が240人中184位,ラグビー部内の順位が38人中31位でした。

これに対し、B教諭は、Aに対し、ラグビー部の練習を欠席することを認め、ラグビー部を続けられないようであれば転部先を考えるよう促しました。

Aは、同日以降、本件高校を一日も欠席しなかったものの、ラグビー部の練習には一度も参加しませんでした。

B教諭は、同年9月、Aと再度面談しました。

B教諭が転部先を決めたのかどうか等を尋ねたところ、Aは、「転部先はまだ決まっていない」と答えたため、B教諭は、定期試験後でよいから、転部先を見学したり、顧問の先生に相談するよう促し、その結果を報告するよう話しました。

本件高校では、全生徒が部活動を行うこととされ、転部を希望する者は、「部活動変更願」と題する書面を提出することとされていました。

「部活動変更願」を提出する際には、転部を希望する者の保護者が、予め、保護者所見欄に記入することが必要とされていましたが、Aの両親である原告らは、これに記入したことはありませんでした。

ラグビー部では、平成19年度、当時の1年生部員3名が、B教諭の了解のもと転部しました。

同年10月13日及び同月14日、本件高校の文化祭が開催され、Aの所属クラスは、その準備として、舞台の装飾を担当することとなり、Aは、装飾用の紙を何十枚も切り取り、のり付けするなどして、その準備に積極的に取り組みました。

ところが、同月21日、Aは、自宅において自殺しました。

Aの携帯電話には、同日付けの、自分あてに送信した下記のメールが残っていました。

生きるのに疲れた

いろんな物のせいにしてたけど、結局部活が俺から離れることはなかった

もし俺が死ねなかったらそっとしておいて欲しい

説教も聞きたくない

理由も聞かれるだろうけどそれもやめて欲しい

もっと生きたかった

もう疲れた・・・

裁判所の判断

ラグビー部におけるAに対するいじめの有無について

原告らは、

  • Aは、ラグビー部内で、ミーティングに参加させてもらえない
  • 「うざい」「くさい」「帰れ」「かまうな」等と言われる
  • 無視をされる
  • 部員数名に取り囲まれてボールをぶつけられる
  • 角材で殴られる
  • 悪口を言いふらされる
  • 足を負傷したのに休ませてもらえない

といったいじめを受けていたと主張し、証人G及びAの母親は、自ら目撃したわけではないものの、これらの全部又は一部の存在を聞いたことがある旨の証言をしました。

この点について、証人Gは、Fから前記いじめが存在する旨の話を聞いたことがあると証言しましたが、他方、証人Fは、Aに対するいじめの存在をAから聞いたことがない旨を証言したため、裁判所は

「このF証言に照らし、Fから前記いじめの存在を聞いたとする証人Gの証言には、信用性がない。」

と判断しました。

また、Aの母親は、

「Aの同級生から前記いじめが存在する旨の話を聞いたことがある」

と供述しましたが、裁判所は、

「Aの母親が前記いじめの存在を聞いた相手というAの同級生については、FとGのほかは不明であり、両名以外の同級生が実際に前記いじめを目撃したのか、あるいは別の同級生等から前記いじめの存在を聞いたのかといった事情は明らかでないことに照らすと、Aの母親の供述によっても、前記いじめの存在を認めることはできない。」

と判断しました。

また、裁判所は、Aが、ラグビー部の練習に参加していた際、ラグビー部の部員が、他の部員に対し、「くさい」と言ったり、B教諭が、ラグビー部の部員に対し、「かまうな」と言ったことがあり、また、Aがメールに、「生きるのに疲れた」「いろんな物のせいにしてたけど、結局部活が俺から離れる事は無かった」などと書き込んでいる点について、

「これらの事実から、Aに対するいじめが存在したと認めることはできず、他にAに対するいじめの存在を認めるに足りる証拠はない。」

として、

「ラグビー部において、Aに対するいじめがあったと認めることはできない。」

と判断しました。

B教諭による違法な指導及び安全配慮義務違反の有無について

B教諭による違法な指導の有無

原告らは、

「般に、教師は、自らが顧問を務める部活動の生徒が減ることを望まないと考えられるから、B教諭には、Aを慰留する消極的目的がある」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「ラグビー部では、平成19年度、当時の1年生部員3名がB教諭の了解のもと現に転部したことに照らすと、B教諭が、このような消極的目的により、Aの転部を執拗に慰留することは考え難い。」

と判断しました。

また、原告らは、

「B教諭が、Aに対し、ラグビー部を辞めるなら、今後、Aの中学校の後輩が入学願書にラグビーをやりたいと記載しても、何ら考慮されなくなる旨の発言をした」

と主張しましたが、裁判所は、

「Fは、Aから、Aが転部するのであれば、Aの中学校の後輩が後期試験の面接でラグビー部をやりたいと言っても有利にならないなどとB教諭に言われた旨を聞いたことがあったが、B教諭にはAをラグビー部に執拗に慰留するまでの理由はなかったことに照らすと、B教諭が実際に前記発言をしたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。」

と判断しました。

さらに、原告らは、

「B教諭が、Aをラグビー部に慰留するため、転部届を受理しなかった」

とも主張しましたが、裁判所は、

「Fは、Aから、Aが転部届を提出したにもかかわらず、B教諭がこれを受理しなかったことを聞いたことがあったものの、本件高校では、転部を希望する者は、『部活動変更願』を提出することとされ、その際、転部を希望する者の保護者が、予め、保護者所見欄に記入することが必要とされていたところ、原告らはこれに記入したことがないことからすると、Aが転部届を提出したと認めることはできず、B教諭がこれを受理しなかったと認めることもできない。」

と判断しました。

B教諭による安全配慮義務違反の有無

裁判所は、

「公立高校の教員は、生徒に対する安全配慮義務の一環として、生徒が、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における悩みを抱えていることがうかがわれ、これにより生命、身体等の安全を害するおそれがある場合には、生徒の悩みを聞き出してこれを解消するための措置をとるなど、適切な対応を行い、生徒の安全に配慮する義務を負うというべきである。」

と教員の安全配慮義務を指摘しました。

その上で、本件について、裁判所は

「B教諭は、平成19年7月12日、C教諭から、Aがラグビー部のことなどで悩んでいると聞き、同日、Aと面談を行って、Aがラグビー部のことなどで悩んでいることを、Aから直接聞き出し、Aが同日以降のラグビー部の練習を欠席することを認めた上、続けられないようであれば転部先を考えるよう促し、さらに、夏休み明けの同年9月にも面談を行い、転部先を決めたかどうかなどを尋ね、定期試験後でよいから転部先を見学したり顧問の先生に相談するよう促し、その結果を報告するよう話したことが認められる。」

との事実認定を行った上で、

「そうすると、B教諭は、Aが学校における教育活動に密接に関連する生活関係における悩みを抱えていることを知った後、直ちに、自らAの悩みを聞き出した上、ラグビー部の練習を欠席することを認め、転部についてのアドバイスを与えるなどして、Aの悩みを解消するための措置をとったといえる。」

と判示しました。

また、このことに加えて、裁判所は、

「Aは、同年7月12日以降、本件高校を欠席したことがなく、自殺の数日前に開催された文化祭の準備にも積極的に参加しており、Aが自殺に至るほど悩んでいることをうかがわせるような状況があったとは認められないことをも併せて考えると、B教諭が、Aに対する安全配慮義務に違反したということはできない。」

とも判示しました。

原告らは、

「本件高校においてはいじめが日常的に見られる状況にあったところ、Aが部活動のことで不登校になるほど悩んでいたことからすると、Aに対するいじめの存在が疑われるから、B教諭はいじめの有無につき特に慎重な調査を行う義務を負っていたのに、これを怠った」

と主張しましたが、裁判所は、

「Aに対するいじめがあったと認めることはできず、原告らの主張を採用することはできない。」

と原告らの主張を排斥しました。

C教諭による安全配慮義務違反の有無について

裁判所は

「C教諭は、平成19年7月12日午前、Aが本件高校に登校していないことを知り、休暇を返上して出勤し、Aの母親からAの様子を聞いた上、Aから直接話を聞くため、Aの自宅を訪問し、話しにくそうにするAをドライブに連れて行くなどの工夫をして、Aがラグビー部を続ける自信がないこと及び家庭のことで悩んでいる旨を聞き出した上、Aの母親に対し、転部を提案し、また、少し過干渉気味ではないかとアドバイスを行い、その後、本件高校に戻り、B教諭に対し、Aの相談にのるよう依頼したことが認められる。」

との事実認定を行った上で、

「そうすると、C教諭は、Aが学校における教育活動に密接に関連する生活関係における悩みを抱えていることがうかがわれた後、直ちに、Aの悩みを注意深く聞き出した上、Aの母親に対するアドバイス及びB教諭に対する面談依頼等を通じて、Aの悩みを解消するための措置をとったといえる。」

と判示しました。

また、裁判所は、

「同日以降、Aが自殺に至るほど悩んでいることをうかがわせるような状況があったとは認められないことからすると、C教諭が、同日以降、Aに対し、部活動の問題の帰すう等につき尋ねなかったとしても、そのことをもって、C教諭が、Aに対する安全配慮義務に違反したということはできない。」

とも判示しました。

これに対し、原告らは、

「不登校に至るほどの部活動の問題のほとんどがいじめの問題であることは、教師にとって常識であるのに、C教諭はこの問題を放置した」

と主張しましたが、裁判所は、

「Aがいじめを受けていたとの事実は認められず、原告らの主張を採用することはできない。」

と原告らの主張を排斥しました。

D校長による安全配慮義務違反の有無について

裁判所は、

  • Aに対するいじめの存在は認められないこと
  • B教諭による違法な指導及び安全配慮義務違反並びにC教諭による安全配慮義務違反は認められないこと
  • Aが自殺に至るほど悩んでいることをうかがわせるような状況があったとは認められないこと

等から

「D校長が、Aに対する安全配慮義務に違反したということはできない。」

と判示しました。

原告らはかかる判決を不服として控訴しましたが、控訴審裁判所は

「Aは、平成19年4月、高校入学後、まもなく部活動に消極的になり、同年7月には不登校の日があり、Aの母親は、その頃Aの携帯電話の画面に「死ね」という表示があったと認識したこと、Aは、同年10月21日に自殺したが、その際の本件メールの一部には「部活が俺から離れることはなかった」旨の記載があったこと、Aの母親が、Aの自殺後にAの同級生らから部活動に関してAが悩んでいるなどの話を聞いたことがあったことが認められ、これらの事実からすれば,Aの両親である控訴人らにおいて、Aの自殺の原因が部活動、ひいては部活動においていじめがあったのではないか、また、教諭らの指導に不適切な点があったのではないかと考えるに至った心情については理解できないではない。

しかしながら、部活動におけるいじめ行為の存在については、証拠上これを認めることは困難であるし、本件高校の教諭らにおいて違法な指導があったとも認められない。

また、前記認定の事実関係からすれば本件高校の教諭らの指導と自殺との相当因果関係を認めることも困難である。

として、控訴人らの本件請求は理由がないと判断しました。

部活動への強制参加をやめるべきではないか

本件の裁判は、Aの自殺の原因が不明のまま終結しました。

したがって、ここでAの自殺の原因について言及することは避けるべきかもしれません。

しかし、この事案における判決文を読んだ際、同じ被害者を生まないためにも、あえて率直な意見を述べるべきではないかと思い返しました。

私は、Aの自殺は、本件高校において実施されていた「生徒の部活動への強制参加」が原因であると思います。

裁判所が認定した事実によると、Aの本件高校内部における体力テストの結果は、同一学年内における順位が240人中184位,ラグビー部内の順位が38人中31位でした。

Aは、ラグビー部に入部していましたが、入部して3か月後の7月には顧問のB教諭に対して「自分は不器用でなかなか思うように上達しないし、試合でも相手にも向かっていけないので、精神的にも肉体的にも続ける自信がない」と言っていました。

そして、同年9月には、AはB教諭から転部先を決めたのかどうか等を尋ねられた際に、「転部先はまだ決まっていない」と答えました。

そして、転部を希望する場合には保護者が予め所見欄に記入した「部活動変更願」を提出することとされているのに、Aの両親がこれに記入したことはありませんでした。

これらの事実を踏まえると、Aは、

  • ラグビー部を退部して別の部活動に参加するとしても、精神的にも肉体的にも続ける自信がない。
  • だからといって、いつまでも転部をしなければ、またラグビー部の顧問であるB教諭から転部するように促される。
  • 転部するために両親に部活動変更願の保護者所見欄に記入してもらったら、転部の手続を進めなければならなくなる。そうならないようにするためには、両親に部活動変更願を書かれないようにしなければならない。
  • このまま転部しなければ、場合によっては、このままラグビー部の練習に参加しなければならなくなる。

等といったことを考えていたのではないでしょうか。

そのようなAの心境が、自分あてに送信したメールに込められています。

「いろんな物のせいにしてたけど、結局部活が俺から離れる事は無かった」

もし、本件高校が部活動への参加を強制していなければどうだったでしょうか。

「部活が俺(A)から離れることがあった」ならば、Aはここまで追い詰められることはなかったのではないでしょうか。

全国の一部の地域や学校では、生徒に対して、部活動への参加を強制しています。

しかし、中には、本件におけるAのように、部活動への参加を強制されていることで、精神的にも肉体的にも追い詰められている生徒がいるのではないでしょうか。

生徒に対する部活動への強制参加、もうやめませんか?

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