高校ラグビー部での紅白試合でスクラムの最中に頚髄損傷等の傷害を負った事故

2019.11.19 スポーツ中の事故

大阪地方裁判所平成5年12月3日判決

事案の概要

本件は、本件高校の1年生であった原告Xがラグビー部の紅白試合の最中に第5頚椎脱臼骨折・頚髄損傷の傷害を負った事故は、被告大阪府が設置した高校で教育活動の一環として行われたラグビーの試合における学校側(ラグビー部顧問のA教諭)の安全配慮義務違反に起因するものであると主張して、Xとその両親が、被告に対して、民法415条又は国家賠償法1条に基づき損害賠償を請求した事案です。

原告Xは、昭和63年4月に本件高校に入学し、同校のラクビー部に入部しました。

原告Xは、中学時代水泳部に所属し体を鍛えてはいましたが、ラグビーをするのは初めてでした。

A教諭は、高校・大学時代からラグビー部に所属し、昭和61年4月に本件高校の教諭となってから、ラグビー部の顧問に就任し、本件事故当時にはC級レフェリーの資格を取得していました。

A教諭は、昭和63年度も4月からの練習の年間計画を立てて実行しました。

一年生については、4、5月は基礎体力をつけることに主眼をおき、ランニングや腕立て伏せ等の筋力トレーニングをさせ、頚の強化の練習、及び、基本的技術として、1対1、3対3のスクラムの練習をさせました。

6月以降は、各人のポジションを決め、二、三年生と合同でポジションごとの練習をさせました。

フォワードは、上体そらしやウェイトトレーニングにより頚部周辺の筋力を増強し、3対3、5対5でのスクラムと、段階的に練習を重ねていました。

原告Xは、フォワードを希望し、積極的な性格であったうえに、中学時代に水泳をしていたため肩回りがしっかりしていたので左プロップに当てられました。

これらの練習は、月曜日から土曜日まで、夏は2時間30分から3時間をかけて行われました。

6月には、OB総会で15分ハーフの一年生同志の練習試合、及び、T高校との一年生同志の20分の練習試合を行いました。

7月に入って、合宿前には、5ないし7分間の9人制のミニゲーム、7月26日からの合宿中には、I高校の一年生も交えた9人制のミニゲーム、ABチームに分かれての20分ハーフの練習試合、ABチームに分かれてのI高校との20分間の練習試合をそれぞれ行いました。

原告Xは、いずれの試合においても左プロップとして出場し、ABチームに分けた試合ではBチームに入っていました。

本件事故の発生した昭和63年8月6日には、午前8時30分から、本件高校グランドで練習を開始し、準備体操、ランニングパス等の練習をした後、9時30分から10時まで、ポジション別のサインプレー等の練習を行いました。

A教諭は、当日は暑かったので20分ハーフの予定を15分ハーフに短縮し、体調の悪い者がいないかどうか問い、怪我をしないために集中力を欠かさぬよう注意事項を告げた後、10時20分ころから、ABチームに分かれて紅白試合を開始しました。

原告Xは、Bチームの左プロップのポジションにつきました。

試合開始後合計9回のスクラムが組まれ、各チーム共得点を入れることなく、試合開始から約12分経過した10時32分ころ、第9回目のスクラムを組みボールが投入されて押し合ううちに、原告Xは、突然、第5頚椎脱臼骨折、頚髄損傷という傷害を負い、その場に倒れ込みました。

合計9回のスクラムのうち、Aチームボールでのスクラムは、第2、第3、第6回目の合計3回で、Bチームボールでのスクラムは、第1、第4、第5、第7ないし第9回目の合計6回でした。

Aチームボールでのスクラムの際には、双方の姿勢も低く、いずれの回にも顕著な動きはありませんでした。

Bチームボールでのスクラムについては、第1回目は、時計方向に回転しながら、全体としてAチームが押し勝ち、スクラム全体が盛り上がっていました。

第4回目は、大きな変化はありませんでした。

第5回目は、Bチームはあまり後退していませんでしたが、Aチームが押し込みスクラムの幅が狭くなり、その分両チームのフロントローはかなり盛り上がり、始めに組んだときの高さの2倍程度になっていました。

第7回目は、第5回目と同様に、Aチームが押し込み両チームのフロントローはかなり盛り上がっていました。

第8回目は、Aチームはスクラム後端の選手でみて3歩程度Bチームを押し込み、Bチームはこれに押されて後退し、それと同時にBチームのフロントローはかなり盛り上がってめくれ上がり(これに対してAチームのスクラムの盛り上がりは少ない)、途中で原告Xの頭はスクラムから抜けましたが、押し合いは続き、スクラムの中心は少なくとも横で構えた選手の身長程度以上は優に移動して最終的には崩れていました。

第9回目は、第8回目と同様に、Bチームは押されて後退し、Bチームのフロントローは盛り上がり、スクラムは少なくとも近くにいる選手の身長の1倍半程度以上は優に移動し、Aチームのスクラムはめくれ上がった状態になっていました。

そして、このスクラムの最中に本件事故が発生しました。

裁判所の判断

裁判所は

「被告は、本件高校を設置し管理する者であり、その在学関係に基づいて、生徒らを指導監督して教育活動の一環としてクラブ活動を行わしめるのであるから、信義則上、これに参加する生徒の身体生命の安全に配慮すべき義務を負うというべきである。」

とした上で

「そして、ラグビー部の顧問であり、生徒らに本件紅白試合を行わせていたA教諭は、その義務についての履行補助者に該当する。」

と判示しました。

そして、裁判所は、本件における右安全配慮義務の具体的な内容、及び、義務違反の有無について順次検討しました。

A教諭がラグビーを始めて間もない一年生である原告Xを左プロップのポジションにつかせたこと、及び、技術・体力に格段の差のある二、三年生と交わって通常の試合形式をとって紅白試合をさせたこと自体が安全配慮義務違反であるとの原告らの主張について

裁判所は、

「ラグビーのポジションの中では、フォワードの中でもフロントローが最も危険であり、本件紅白試合の際には、左プロップである原告Xには、いずれも春の公式戦ではレギュラーメンバーであったAチームの右プロップ、右ロック、右フランカーの力が正面から、いずれも二年生であったBチームの左ロック、左フランカーの力が背後から、それぞれ集中する状態となることが認められ、原告Xに相当無理な力がかかるおそれがあったことがうかがわれる。」

としつつ、

  • 高校一年生は、春の公式戦には原則として参加できないが、9月から開催される全国高等学校ラグビーフットボール大会大阪府予選への参加には制限はないこと
  • 本件高校ラグビー部でも本件事故直後に予定されていた全国大会予選には、原告Xを含めて4名の一年生の登録が予定されていたことが認められ、これに向けて練習が重ねられていたこと
  • 原告Xはラグビーを始めて4か月の初心者ではあるものの、中学時代は水泳部に所属し体格もしっかりしており、4、5月は基礎体力を養成することを中心に練習し、6月にポジションを付与されてからも頚部周辺の筋力増強とともに段階的にスクラムの練習をしてきており、A教諭が自ら実際にスクラムを組んでみた印象でも原告Xは一年生としては首がしっかりしていたことなどを十分検討した上で原告Xを起用したものであること

などを考え合わせると

「左プロップは危険なポジションではあるけれども、指導者において、初心者たる原告Xが左プロップのポジションについていることを認識し、具体的な試合の場面でそのことに十分配慮してゆくならば、一年生である原告Xを左プロップとして起用し公式戦へ向けての各種練習試合に8月ころから参加させること自体は、教育、鍛練の目的に照らして、許されないものと解するべきではない。」

と判示しました。

また、裁判所は、

  • Aチームは、三年生8名、二年生6名、一年生1名で構成され、春の公式戦のレギュラーメンバーは11名であるのに対し、Bチームは、三年生2名、二年生7名、一年生6名で構成され、春の公式戦のレギュラーメンバーは2名であり、フォワードについては、Aチームは、三年生5名、二年生3名で構成され、春の公式戦のレギュラーメンバーは7名であるのに対し、Bチームは、三年生1名、二年生5名、一年生2名で構成され、春の公式戦のレギュラーメンバーは1名であり、秋の全国大会予選でレギュラー選手になると予測される者を中心にAチームが構成されていたことが認められ、その学年の構成、公式戦経験者・全国大会予選レギュラー予定者の割合等からして、両チーム間には、かなりの力の差があったことがうかがわれる。
  • 実際にも、合計9回のスクラムのうち、Aチームボールでのスクラムは安定しているのに、Bチームボールでのスクラムの際には、Bチームは終始押されて盛り上がり気味であること、特に第8、第9回目のスクラムではBチームが押されて数メートル後退していることからすれば、その力の差は明らかである。

としつつも、

「しかし、チームの力の差がそのこと自体で必然的にスクラムの危険性につながるとみるべき証拠はない上に、先にみたとおり、原告Xは本件紅白試合に先だって、前述のとおり、4月から基礎的な訓練と頚部の強化を重ね、スクラムの段階的な練習も積み、数回の練習試合で左プロップを経験していることなどを考慮すれば、指導者において、AチームとBチームの実力の差を十分に認識し、かつ、右のようにフロントローとしての一応の訓練を経たとはいえなお初心者である原告XがBチームの左プロップに参加していることに配慮し、両チームの実力の差がスクラムの大幅な移動やめくれ上がり、その他スクラムの危険性につながる状態として具体的に表れたときは直ちにこれに対して適切に対応するなどの安全管理を十分に行うならば、公式戦に向けて両チームを前記のように編成し、かつ、これに原告Xを参加させて紅白試合を行うこと自体は、許されないものと解するべきではない。」

と判示しました。

以上から、裁判所は、

「指導者であるA教諭が、本件紅白試合の具体的局面において、前記のような点について十分配慮し、安全について適切な管理を行うならば、一年生である原告Xを左プロップにつけ、本件のようなチーム編成の紅白試合に参加させること自体が、安全配慮義務の違反にあたるとは速断できない。」

と判断しました。

本件試合の中で、遅くとも、スクラムのめくれ上がりが顕著となった第8回目のスクラムにおいて、事故の危険を防止するため、A教諭はプレーを中止させるべきであったにもかかわらず、漫然と試合を続行させたことが重大な安全配慮義務の違反であるとの原告らの主張について

裁判所は、

  • スクラムを組むときは、肩の高さが腰の高さより低くならないようにして強くバインディングすることが正しい姿勢とされ、特に、顔を下げて組むと頭と頭がぶつかった時に首が前に折れて頚椎を痛める危険性があるので高校生以下では反則とされており、A教諭は、スクラムでの事故として、プレイヤーが下に崩れ落ちることによる事故と組み遅れによる事故への対策として、頚の筋力を強化し、姿勢をしっかり保つこと、フロントローの3人がタイミングを合わせて組むこと、落ちた場合も頭頂部から落ちないこと等は指導しているものの、首が押さえられた状態でスクラムがめくれ上がった場合に危険を防止するには首を抜くしか方法がないが、これは反則になるため(競技規則20条(4)、なお、一人が首を抜くことは、他のスクラムメンバーに不測の危険をもたらすおそれもある。)、むしろ首を抜かなくてすむよう強くなるように指導していたこと
  • 他方で、スクラム内のプレイヤーが宙に浮かされたり、上方に押されてスクラムから出された場合には、レフェリーは直ちに笛を吹いてプレイヤーが押し続けるのをやめさせなければならないとされていること

が認められるとした上で、

「しかして、本件各スクラムの状況によれば、第1、第5、第7回目のスクラムの際にはBチームのスクラムは押され気味で盛り上がりを見せていたのであり、両チームの実力の差などを考えると、これがめくれ上がりに移行する可能性は予測できたものというべきであり、めくれ上がりになれば、首を抜かざるを得ないが、前記のとおりむしろ首を抜かなくてすむよう頑張ることを指導してきており生徒自身が積極的に首を抜いて危険を回避する行動をとることが期待できないのであるから、指導者としては、早期にスクラムを中断し、めくれ上がりの危険に対する注意をうながすなり、スクラムの組み方を指導するなりして安全に配慮する必要があったものと考えられる。」

「特に、第8回目のスクラムでは、Bチームはかなり押し込まれてフロントローは大きく盛り上がり、途中で原告Xの頭はスクラムから抜けている状態なのであるから、スクラム内のプレイヤーが宙に浮かされるか上方に押されてスクラムから出された場合に当たりレフェリーとしてもスクラムが押し続けるのをやめさせるべきであったと考えられる。」

「まして、前記認定のとおりの状況で紅白試合を行わせ、一年生の原告XをBチームの左プロップのポジションに置いていたのであるから、そのことを考慮して、その安全について十分な配慮をなすことが期待されていた指導者であるA教諭においては、なおさらスクラムを中断するなりして安全のための具体的な措置を講ずべき要請は強かったものと考えられる。」

との判断基準を示し、

「ところが、こうした状況にありながら、A教諭がスクラムを中断しないまま試合を続行させたのは、従来、スクラムについては下に崩れ落ちることによる事故と組み遅れによる事故の危険が強調されてきていて、首を押さえられたままスクラムがめくれ上がることにより重大な事故が生じる可能性があることに関して認識が甘かったためといわざるを得ない。」

と判示しました(なお、裁判所は「紅白試合は練習の一環であるのだから公式戦とは違い試合を中断し指導を加えることは可能であり、生徒の意欲をそぐとはいえ安全のためにはこれをためらうべきではないと考える。」とも判示しました)。

さらに、裁判所は、

「ラグビーにおいては危険防止に気を配るべき指導者の立場とレフェリーの立場とを完璧に兼ねることには無理があるところ、本件紅白試合においては、A教諭はレフェリーに徹して笛を吹いていたこと、従って、ボールを中心に試合を追い、スクラムの状況、特にその安全性については必ずしも十分な配慮が届かなかったことが認められる。」

とした上で、

「そうすると、前記のとおり、一年生である原告Xを左プロップにつけ、前記のような編成の紅白試合に参加させたことから、指導者であるA教諭には、試合の具体的局面において適切な管理をし、原告Xの安全に十分配慮し、危険の発生を未然に防止すべくより細心の注意が要求されていたのに、実際には、A教諭においては、めくれ上がりの危険に対する認識が十分でなかった上に、レフェリーに徹していたために、Aチームの押しが強くBチームは盛り上がり気味となり、第8回目のスクラムではAチームが大幅に押し進みBチームは後退し、スクラムの盛り上がりの状態も原告Xが首を抜くほどであったことや、それらの事態のもたらす危険性を看過し、右のような危険な状況が再び発生しないよう適切な措置を講ずることもなく、試合を続行させたものというほかない。」

と判示し、

「そして、このことが安全配慮義務に違反すること、及び、そのことと本件事故の発生との間の因果関係があることは明らかであるといわざるをえない。」

として、

「被告が原告Xに対して負担していた安全配慮義務について、その履行補助者であるA教諭には懈怠が認められるといわざるをえないから、被告は、本件事故によって生じた損害を賠償する義務を負う。」

と結論づけました。

ラグビーに対する関心が高い今だからこそ万全の安全対策を

ラグビーワールドカップが日本で開催されました。

日本代表の活躍もさることながら、世界中のチームの活躍や選手たちのプレー、そして何よりもラグビーにおける「ノーサイドの精神」を目の当たりにして感動した方々も多いと思います。

そして、

「自分もラグビーをしたい」

「子供にラグビーをやらせたい」

と思う人も多いことでしょう。

今後のラグビー界の発展を考えると、これほど喜ばしいことはないと思います。

そして、そのようなラグビーに対する関心が高ければ高いほど、指導者の指導にも熱を帯びることになると考えられます。

ですが、その方向性を間違えると、ラグビーにおける事故が多発してしまうことにもなりかねません。

なお、この判決において、裁判所は

「学校設置者には生徒の身体・生命の安全に配慮すべき義務が負わされているが、その一方で、ラグビーは、その競技形態からして本質的に、本件事故のような結果を招来する可能性のあるかなりの危険を伴う格闘技ともいうべき激しいスポーツであり、過去にも重大な事故が多数発生していることは一般に認識されているところであり、原告らにおいてもこれを認識していたものと推認される。

しかるに、原告Xは、高校の正課の授業として本件試合に参加を義務づけられたものではなく、自らの自由な選択により高校入学と同時にラグビー部に入部し、自らフォワードを希望して左プロップのポジションを得て、入部約4か月で本件紅白試合に参加したものである以上、この競技に当然付随する危険についても、ある程度は自らこれを承認したものとして、これによって生じた不幸な結果をも自ら一部は甘受しなければならないというべきである。

したがって、学校が生徒の安全のため当然なすべき配慮を故意に懈怠したために発生せしめた事故のような場合であれば格別、本件のように、一瞬に変転する試合の動態的経過の中における指導教諭の一時の安全配慮義務の懈怠によって発生した事故についてまで、それによる損害の全てを学校設置者に負担させることは、むしろ、損害の公平な分担を目的とする損害賠償制度の理念にそぐわない面があるばかりか、やがては、学校ラグビーの存在自体を困難にする結果をもたらすことにもなると考えられる。

そのようなことは、本件事故後もラグビーを愛好し、A教諭の配慮の下にラグビー部に在籍して応援を続けた原告Xの意にも添わないものと解される。

として、 衡平の観点から、民法722条2項の趣旨を根拠として、損害賠償額について、一定の減額をしています。

ラグビーに対する関心が高い今だからこそ、万全の安全対策を心がけていただきたいと思っています。

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