小学校における体育授業の組体操の練習中に発生した転落事故

2018.12.23 学校行事

東京地方裁判所平成18年8月1日判決

事案の概要

本件は、被告が設置している本件小学校において、平成15年度の運動会の種目として組体操を行うこととなり、6年生の体育の授業中に5人一組で行う技の練習をしていたところ、原告のグループがバランスを崩し、二人の児童の上に乗っていた原告が転落して、左側上顎中切歯の完全脱臼等の傷害を負ったことから、指導にあたっていた教諭らに債務不履行(安全配慮義務違反)があったとして、被告に対し損害賠償を求めた事案です。

本件小学校においては、毎年春に運動会が行われており、3、4年生合同での組体操及び5、6年生合同での組体操を隔年で実施していました。

原告が6年生である平成15年度の運動会は、同年5月31日に行われることになっており、5、6年生合同での組体操が行われることになっていました。

同年4月に入ったころ、6年1組の担任であったY1教諭は当時5年1組の担任であったY2教諭と組体操に取り入れる技と使用する曲目について話し合い、方針を決定しました。

また、指導方法については、Y1教諭が全体指導をし、Y2教諭が個別指導に当たることになりました。

Y1教諭は、組体操の技の構成について、原告ら6年生が3年生の時に行った内容を基本としましたが、同人らが高学年になったことを考慮し、高学年としてふさわしい技として、Y1教諭が前任校で取り入れていた、二人の児童が片膝を曲げて並んで立ち、その児童の太股の部分にもう一人の児童が乗る技(5人技Bの中央の3名の児童のみで構成される部分。以下「3人タワーB」という。)を取り入れることにしました。

Y1教諭とY2教諭は、大要一人技、二人技、5人技、ピラミッド、タワーという順で組体操の構成を策定し、演技図を5、6年生の児童に配布しました。

Y1教諭は、同年5月9日、6年生の児童に対し、演技図を用いて各技の説明を行い、同時に注意事項を伝えました。

注意事項の内容は、

  • 組体操は協力して行う技であること
  • 技を行うときには必ず声を掛け合うこと
  • 演技中に危ないと感じるようなときには無理をしないこと
  • 技の変更がありうること
  • 安全のために爪は短く切っておくこと

でした。

同月12日、本件小学校における同年度初めての5、6年生合同の組体操の練習が行われました。

その際、Y1教諭は、5年生が全体で組体操の練習を行うのは初めてであったことから、それぞれの技の説明をし、音楽を聴かせてイメージを作り、注意事項を伝達しました。

その後、「サボテン」という技までの一人技及び二人技の練習を通して行いました。

この練習において、一人の児童が倒立し、もう一人の児童が足を持って支える補助倒立の練習も行われました。

Y1教諭は、翌13日の体育の授業において、5人技の練習に入ることとし、

  • 二人技における児童の組合せも背の高さを基準にしていたこと
  • 次の技への移行をスムースに行え、また、バランスの確保もしやすいと考えられたこと

から、5人技を行う5名の児童の組合せも背の高さを基準に決定しました。

Y1教諭は、5人技の児童の組合せが決まった後、3人補助倒立の練習を行わせました。

この3人補助倒立は、当初予定されていた5人技Aの下練習のために行われました。

Y1教諭は、3人補助倒立の練習を行うに際し、児童らに対し、倒立をする場合には余り勢いをつけすぎないで中央で止まることと、中央に立つ子の合図によって倒立を行うよう指示をしました。

この3人補助倒立の練習の際、Y1教諭は、中央の役の児童らに対し、左右から倒立してくる役の児童の勢いが強すぎるときには、手で軽く押し返すようにしてあげるようにという指示を与えましたが、倒立の勢いが強すぎて中央の児童が足をつかめないということは想定していませんでした。

その後、同教諭は、並んで四つばいになった二人の児童の上にもう一人の児童が片足ずつ乗せて立つ技(5人技Aの中央の3名の児童によって構成される部分。以下「3人タワーA」という。)の練習を行わせました。

その際、同教諭は、土台となる児童に対し、土台を作るときには両肩を合わせ、背中を丸めないでまっすぐに背筋を伸ばすよう指示しました。

しかし、原告らのグループにおいて、土台の役をすることとなった二人の児童のうち、一人は太り気味であるのに対し、もう一人はやせ形で体格が異なり、同児童らの背中は平らな状態ではなかったので、その上に立つ原告はバランスを保つのに困難を感じていました。

原告らのグループにおいて、各メンバーがどの役割を担当するかは、グループの児童の話合いによって決定され、小柄で体重の軽い原告は、いずれの3人タワーにおいても中央の役を担当することとなりました。

3人タワーAの練習を終えた後、同教諭は、児童らに3人タワーBの練習をさせました。

しかし、同技については、中央に立つ児童がバランスを保つことが困難であり、原告らのグループを含め、多くのグループが安定して形を作ることができませんでした。

そこで、Y1教諭はY2教諭と相談し、3人タワーBの完成が無理であろうと思われるグループについては、それを前提とする5人技Bの完成も無理であろうから、同技の代わりに、5人一組で行われ、そのうちの二人が並んで両手・両膝をついて土台となり、その上に一人が立ち、残りの二人が両脇から倒立して、土台の上に立った児童が両脇から倒立する児童の足を持って支える技(以下、「本件5人技」という。)を行わせることとしました。

Y1教諭は、本件5人技を教則本等で参照したことはありませんでしたが、何度か実際に行われているのを見たことがあり、また、従前の赴任先校でも組体操に採用されていたので、同年度の本件小学校の運動会においても採用することにしました。

この時、Y1教諭は、ほとんどのグループで3人補助倒立ができていたことから、3人補助倒立と比べて中央の児童が土台の上に乗るという違いがあるにすぎない本件5人技は、むしろ5人技Bよりも難易度が低く、安全に行えるものと判断していました。

Y1教諭は、本件5人技の練習をするに際し、各グループに対し、倒立役の児童が倒立する順番について、倒立がより上手な児童が先に倒立するように指示しました。

これは、より長時間倒立する役に倒立の上手な児童を当てた方がより安定性を確保できるであろうという判断でした。

原告らのグループも同教諭の指示に従い、二人のうち、より倒立の得意な児童が先に倒立することとなりました。

翌14日の5、6年生合同の練習において、Y1教諭は、児童らに一人技及び二人技を通して練習させ、続いて5人技の練習、ピラミッドの練習を行わせました。

同日の5人技の練習においては、前日の変更により、5人技Bを行うグループと本件5人技を行うグループに分けられていましたが、5人技Bを行うとされていたグループは、この日も安定して形を作ることができませんでした。

そこで、Y1教諭は、Y2教諭と相談し、5人技Bを行うことは断念し、全グループが本件5人技を行うこととしました。

翌15日にも、5、6年生合同の練習が行われ、Y1教諭は、児童らに一人技及び二人技を通して行わせ、その後本件5人技の練習をさせました。

Y1教諭は、この時、ほとんどのグループが同技の形を作ることができていると判断しました。

同月19日に校庭で行われることが予定されていた5、6年生合同の練習において、Y1教諭は、全体練習をさらに進め、演技の練習のみならず、それぞれのグループの校庭での配置場所の確認まで予定していました。

しかし、当日は、雨天となったため、練習は講堂で行うことに変更されました。

この時、Y1教諭は、それまでの練習の経過から、児童らは既に通し練習を行うことができると判断していました。

Y1教諭は、児童らに午前8時45分の始業からストレッチを行わせ、その後、一人技及び二人技を通しで行わせたのち、授業時間が終わりに近づいた午前9時15分ころから5人技の練習を行わせました。

この日の参加児童は、5年生20人、6年生29人であり、Y1教諭は、5人技を行う全10グループを構成する児童らを講堂正面から3グループずつ3列と最後列に1グループという形でそれぞれ等間隔で並ばせました。

その後、本件5人技の音楽をかけての「通し」による一斉練習が始まり、原告は、土台役の二人の上に乗りましたが、安定した状態を作ることができず、グラグラしていました。

原告の合図により、最初に倒立する役の児童Aが倒立をし、原告は児童Aの足を片手でつかみ、さらに、もう一人の倒立役児童Bに対し、倒立の合図を出したため児童Bが倒立を行いましたが、児童Bが手を付く位置が土台役の児童から離れていたため、児童Bの足が原告の手の届く位置に来た時には、児童Bの体は垂直よりも原告方向に傾いた状態になっていました。

原告は、以前の練習の時に、倒立役の児童の足をつかめずに友達から非難されたことがあったため、再び非難されることをおそれ、倒れてくる児童Bの足を必死になってつかみましたが、それにより原告自身もバランスを失い、児童Bの足及び最初に倒立した児童Aの足をつかんだまま土台の上から転落し、顔面を床面に強打しました。

Y1教諭は、この日の練習の際、全体の指導者として、講堂前方の中心に立ち、音楽に合わせて号令を出していました。

Y1教諭が立っていたのは、原告らのグループから約4メートルほど離れた位置でしたが、Y1教諭は、原告が転落した状況を目撃していませんでした。

また、この日、Y1教諭とともに指導にあたっていたY2教諭は、講堂の一番後ろで個別の指導にあたっていたため同様に本件事故を目撃していませんでした。

本件事故により、原告の永久歯である前歯1本が完全に抜け落ち、もう1本の前歯は歯茎にめり込んでいる状態となりました。

その後、病院の医師の診断を受けた結果、原告には左側上顎中切歯の完全脱臼、右側上顎中切歯の陥入、側切歯の動揺が認められました。

その後、同医師の治療により、原告の抜け落ちた前歯は再び顎骨に定着しましたが、痛みと医師の指示により原告は前歯で物をかむことはできませんでした。

裁判所の判断

被告の責任について

裁判所は

「被告は、本件小学校の設置・運営者として、そこにおける学校教育の際に生じ得る危険から児童らの生命、身体の安全の確保のために必要な措置を講ずる義務を負う.

そして被告の履行補助者として実際に教育を行っている指導教諭が前記安全配慮義務に違反した場合には、それによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

との一般的な見解を示しました。

そして、裁判所は

  • 本件5人技は、土台役の2名の児童の上にもう一人の児童が立ち、土台の左右から倒立してくる2名の児童の足を持って支えることによって完成する技である。同技は、Y1教諭も教則本等で見たことがなく、また、広く一般に小学生の組体操で採用され、安全性が承認されたり、留意点が認識されているものと認める証拠はない。
  • 本件5人技は、土台の上に立つ児童が、先に倒立してくる児童の足をつかみ、さらにその児童の倒立を維持させたまま、反対方向から倒立してくる児童の足をつかむことを要求される点及び児童2名で構成された土台の上に立った状態でこれを行うことを要求され、3人補助倒立など地面の上で行う技とは異なって、足下の安定性が確保されているとはいえない点において、相当な困難を伴うものである。
  • また、本件5人技は、5人技Aに比して難易度が高いことは明らかである。すなわち、5人技Aにおいては、3人タワーAの中央の児童が土台の上に立つことは本件5人技と共通するが、中央の児童は、普通に立っている左右の二人の児童の手をとればよいのであって、自らのバランスを保つことのみに専念すればよいからである。
  • さらに、本件5人技は、5人技Bと比較しても、難易度が低いということはできない。なぜなら、5人技Bにおいて、左右から倒立する2名の児童の足をつかむのは、3人タワーBを構成する土台の2名の児童の役目であり、これら2名の児童の負担は小さくないといい得るが、中央の児童は自らのバランスを保つことに専念することができる点で5人技Aと共通するからである。
  • 以上のように、本件5人技は、中央の児童に不安定な土台で自らのバランスを維持しつつ、左右から倒立してくる二人の児童の足を支えるという作業を求める点で、とりわけ中央の児童に困難な作業が集中するものであり、一見するとほかの5人技と類似しているが、児童の役割分担という点では相当に異質なものであり、それらと比べて少なくとも中央の児童にとっては難易度が高いものである。

とした上で、

「本件5人技において、技を完成させるまでの過程において、倒立の態様によっては、中央の児童が倒立役の児童の足をつかみ損なうなどしてバランスを崩し、土台の上から倒立役の児童とともに転落する危険性があったと認めるのが相当である。」

として、予見可能性があるとしました。

そして、裁判所は、

「相当程度の危険性が認められる本件5人技を組体操のプログラムの一つとして採用するにあたっては、担当教諭らは、中央の児童がバランスを維持することができるように、倒立等の仕方について、各役の児童に対し適切な指示を与え、それぞれの児童がその役割を指示どおりに行えるようになるまで補助役の児童を付けるなどしながら段階的な練習を行うなど、児童らの安全を確保しつつ同技の完成度を高めていけるよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。」

と、具体的な安全配慮義務の内容を指摘しました。

その上で、裁判所は、

「Y1及びY2両教諭は、本件5人技が採用されてから本件事故に至るまで、原告ら児童に本件5人技を行わせるにあたり、より倒立の上手な子が先に倒立するようにといった倒立する順番についての指示を与えてはいるものの、土台との関係で倒立をする児童が手を付くべき位置についての具体的な指示を与えていたとは認められない。」

「本件事故時においては、児童Bが手を付く位置が土台役の児童から離れていたため、児童Bの足が原告の手が届く位置に来た時には、児童Bの体は垂直よりも原告方向に傾いた状態になっていて、これを無理につかもうとした原告がバランスを失う原因となっていたと認められるところ、上記のように倒立役の児童に適切な指示を与えていればこのような事態を防止することは可能であったと認めるのが相当である。」

と判示しました。

この点につき、Y1教諭は、

「前の段階の練習で補助倒立を含む技も入っていたので特段不安はない」

との証言をしましたが、裁判所は

「本件5人技においては、中央の児童にそれまでに練習してきた技とは異質の困難と危険を課すことになることを考慮すると、本件5人技の採用にあたって倒立役の児童による倒立が中央の児童にとって危険なものとならないよう新たな技の特徴を踏まえた具体的な指導を改めて行うべきであり、補助倒立ができていたということを理由にこれを省略することは相当とはいえない。」

としました。

さらに、裁判所は

「Y1教諭らは、原告を含めた児童らが安全に同技の完成度を高めることができるよう、児童らの習熟度が進んでいない段階では補助を付さない一斉練習を行うべきではなかったにもかかわらず、段階的な練習によって各グループの完成度を確認することもせずに、本件5人技の採用が決定された後、同年5月14日、15日のわずか2日間の練習の後、同月19日に一斉全体練習を行った。」

としました。

この点、被告は、

「原告らのグループを含め、組体操に参加していた児童らは3人補助倒立を問題なく行うことができていたから、それを土台の上で行うにすぎない本件5人技も問題なく演技することが可能であり、原告の属するグループも同様であった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

  • 3人補助倒立は中央の児童が地面に立って行うものであって、同児童自身がバランスを保たなければならない負担がないのに対し、本件5人技は安定性が確保されていない土台の上で倒立役児童の足をつかまなければならないという違いがある。
  • また、3人補助倒立の場合には倒立役児童は中央の児童の位置を直接確認して、自らが手を付く位置を調整できるのに対し、本件5人技の場合には、中央の児童が土台の上に乗っているため倒立役の児童は中央の児童の位置を直接確認することができない。
  • さらに、本件5人技の場合には、土台の上に乗る分、中央の児童は地面から高い場所に位置することとなり、3人補助倒立に比べ相対的につかむべき倒立役児童の足の位置も変わってくる。

として、

「このように、3人補助倒立と本件5人技との間には、無視できない相違点があり、3人補助倒立が問題なく行えたのであるから本件5人技の一斉練習も相当であったという被告の主張には理由がない。」

と被告の主張を排斥しました。

以上より、裁判所は

「本件の転落事故については、指導教諭らに上記の各安全配慮義務違反を認めることができ、被告は原告に対して損害賠償義務を負うものと解される。」

と結論づけました。

過失相殺について

被告は、原告が、

  1. 自らが不安定なままの状態で倒立する児童に声をかけたこと、
  2. 転倒の際、倒立した児童の足を最後までつかんで離さず、両手を使って有効な防御、回避措置をとらなかったこと

を根拠として、相当の過失相殺が認められるべきであると主張しました。

しかし、裁判所は

「仮に前記1及び2の事情が認められるとしても、小学校の正規の授業時間中で教諭の指導監督下にあり、もともと危険な本件5人技の中央の役を割り当てられていたことを前提にすれば、本件事故当時わずか11歳の小学校児童であった原告に対し、一斉練習が行われている中で、土台の安定性を確認し、倒立の指示を出すべきか適切な判断をし、倒立児童とともに転倒するさなかに適切な防御措置をとることを要求するのは、無理なことであるといえる。」

として

「したがって、組体操中の原告の行動をとらえ、被害者の過失と評価することはできず、過失相殺を肯定することはできない。」

と判断しました。

組体操の事故はピラミッドだけではない。

運動会や体育祭で実施される組体操の事故という場合、ピラミッドにおける事故を思い浮かべる方が多いと思います。

しかし、実際には本件のようにピラミッド以外の技であっても事故は発生しています。

それは、本件のように、簡単な技の組み合わせを組み合わせれば技が完成するという安易な考えで指導に当たった結果だと考えられます。

技が変われば難易度も危険性も高まることは自明です。

組体操は基本的に困難で危険な行為であるということを自覚して指導に当たるべきだといえます。

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