組体操の練習時間中に肩車をしてもらって落下し両下肢機能全廃等の後遺障害が残った事故

2019.12.05 学校行事

福岡地方裁判所小倉支部平成23年4月26日判決

事案の概要

本件は、福岡県立高校に在籍していた原告が、体育大会で演じられる組体操の練習時間中に肩車をしてもらっていたところ、落下して首を強打したために第5頚椎脱臼骨折を生じ、これによって両下肢機能全廃等の後遺障害が残ったことにつき、原告並びにその両親が、その落下事故が起きたのは高校の教員が肩車をやめさせなかったことが原因であるなどと主張して、被告福岡県に対し、国家賠償法1条1項の責任又は債務不履行責任に基づいて損害賠償を求めた事案です。

原告は、本件高校に2年生として在籍していました。

平成18年6月26日、本件高校は、総務会議において、平成18年度における体育大会の方針及び内容を決定しました。

7月10日、B教諭は、他の教員に対し、「福岡県立A高等学校 平成18年度 創立90周年記念体育大会実施要項(案)」と題する書面を手渡して、「組体操での補助に必ず付いてください。」などと発言しました。

7月13日、B教諭は、応援団のリーダーや生徒役員、3年生担当の教師に対し、

  1. タワーにおいて上になる生徒が落下しないよう補助を付けること
  2. 生徒のみで組体操の練習をしないこと
  3. 教師が必ず組体操の練習に付くこと
  4. 生徒のみで勝手に授業時間外に組体操の練習をしないこと

を注意しました。

7月20日、本件高校は、体育館において、全生徒と平成18年度体育大会結団式をしました。

その際、B教諭は、全生徒に対し、「事故、けが等がないように。」などと発言しました。

8月24日、本件高校は、正課授業として、同年度の体育大会の全体練習を開始しました。

その間、B教諭が、全生徒に対し、「リーダーの指示をしっかりと聞くように。」、「勝手な行動をとらないように。」などと発言しました。

8月30日、B教諭は、生徒のリーダー及び全職員に対し、「平成18年度体育大会練習計画 8月31日(木)」と題する書面を手渡しました。

この書面には、「怪我等安全面に注意して行う。」、「教師が必ず付くこと。」などと記載されていました。

8月31日、本件高校は、組体操の練習を初めて行いました。

組体操委員長の生徒は、6限目の練習に先立って、柔道場に集まった76名の男子生徒に対し、ブリッジ、タワー、電柱の順に練習を行う旨を告げ、また、「気を付けてやれよ。」などと発言しました。

柔道場においては、D教諭、E教諭、F教諭、G教諭、H教諭、I教諭の各教師(以下「D教諭ら6名」という。)が、男子生徒76名の指導監督を担当していました。

こうして、76名の男子生徒の一部は、ブリッジの練習を開始することにしました。

組体操委員の生徒は、ブリッジの練習の直前にも、76名の男子生徒に対し、「けがをしないように。」、「無理だと思ったら下ろしていい。」旨を話しました。

ブリッジの練習後、組体操委員長の生徒は、Cと原告を含む一部の生徒に対し、タワーの担当に選んだことを伝え、これらの者の了承を得ました。

こうして、Cと原告を含む一部の生徒は、タワーの練習を行いました。

その後、3年生が1、2年生に対し電柱の見本を示し、さらに、1、2年生の一部が電柱の練習を行いました。

他方、2年生の一部は、電柱の担当ではなかったところ、そのうちの1人が、原告らに対し、C(身長180cm余り、体重100kg前後)を持ち上げる話を持ちかけました。

これを受けて、Cと原告らは、肩車をして遊びました。

具体的には、Lが、Cを肩車しようとしたところ、できなかったのに対し、原告(身長165cm余り、体重69kg弱)は、Cを肩車することができ、また、Mも、Cを肩車することができました。

その際、D教諭ら6名のうち、D教諭・F教諭・H教諭はこれを認識し、E教諭も、電柱の練習を行っている者以外の2、3年生の中にじゃれ合っている者がいるのを認識していました。

しかし、電柱の練習の方が気になり、誰も原告らを注意しませんでした。

その後、Cと原告らは、いったん、肩車をやめましたが、原告は、Cに対し、再度、肩車をしてほしいと要望しました。

これに対し、Cは、疲労から「ちょっときついからやめよう。」などと伝えました。

しかし、原告はこれに応じませんでした。

こうして、Cは原告を肩車することにしました。

なお、原告は、Cが原告の足の間に頭を入れた際、「後ろからおりるから。」などと言いました。

原告は、Cが立ち上がった後、Cの肩の上から背中を合わせるように体を後方に反らし、そこから腹筋を使って体を起こそうとしましたができず、後方の畳の上に落下して首を強打しました。

他方、D教諭ら6名のうちF教諭を除くD教諭・E教諭・G教諭・H教諭・I教諭の5名は、電柱の練習を行っている1年生のペア4組のうちの1組がふらついていることを認め、これを注視し、また、F教諭はトイレに行っていました。

原告は、医師の診察を受けて第5頚椎脱臼骨折と診断され、緊急手術を受けました。

原告は、両上肢機能の著しい障害及び両下肢機能全廃が生じ、平成19年4月6日、その症状が固定し、同年5月21日、障害名につき第5頚椎脱臼骨折による両上肢機能の著しい障害、両下肢機能全廃、等級につき1級と記載された身体障害者手帳の交付を受けました。

裁判所の判断

D教諭ら6名の過失について

まず、裁判所は、

「組体操は転落等の危険が内在する競技であり、特に電柱は上記のような危険を伴うから、教師としては、電柱の練習をしていてふらついている者がいれば、そちらを注視することになり、他の者に対する監督が疎かになるのは自明である。

そうすると、待機中の者が気が緩んで教師の監督なしに自主練習をしたり、ふざけて競技内容に関連する行為をしたりする事態が生じるおそれがあることも自明である。」

「そして、組体操は前記のとおり転落等の危険が内在するものであるから、適切な監督なしに自主練習したり、ふざけて関連する行為をしたりすることになれば、生命、身体に危険が生じ得ることは予見することができるといえる。」

として、

「したがって、危険を内在する組体操を指導する教師としては、待機中の者がこのような事態に陥らないようにして生徒の生命、身体の安全に配慮する義務、具体的には、待機中の者がそのような行為をしないよう指示し、そのような行為をしている者があれば、中止させる義務があるというべきである。」

と判示し、また

「そのためには、教師らの一部の者は待機中の者を監視するよう役割を分担することも必要となる。」

と判示しました。

この点について、被告は、

  1. 待機中の者に対しては、注意義務の程度が軽減される
  2. 肩車は身体に直接的な損傷を与える行動とはいえない
  3. 原告らは既に高校生であり、当該行動の持つ危険性を十分に予測し得るだけの成長を遂げているから、教師らは、肩車をしているのを認識したからといって、それ以上、監視・監督をする義務はなかった

と主張しました。

しかし、裁判所は、

  1. 待機中の者は気が緩んで自主練習や競技内容に関連する行為をふざけて行うおそれがあることは前示のとおりであり、組体操が転落等の危険を内在する競技であることからすると、教師としては、待機中の者がそのような行為をしないよう指示し、そのような行為をしている者があれば、中止させる義務があるというべきである。
  2. 肩車は身体に直接的な損傷を与える行動とはいえないとの主張についても、適切な方法で行えば、電柱等に比べると転落するおそれは少ないかもしれないが、男子高校生の体重を考えると、ざわついた雰囲気の中で行えば、集中力が低下してバランスを欠いたり、ふらついたときに近くの者に接触し転倒したりすることも想定することができる。
  3. 原告やCは高校2年生であったが、それなりの思慮分別を備える一方、血気盛んな年頃でもあって、自己の運動能力を誇示したり、試してみたいとの欲求にかられたりしても不思議ではない。本件高校の教師は、このような男子高校生の実態を認識していたはずであり、このような実態に応じた安全配慮義務を負うというべきである。

として、被告の主張をいずれも排斥しました。

以上より、裁判所は、

「本件高校の教師であるD教諭ら6名は、待機中の生徒が自主練習をしたりふざけて競技内容に関連する行為をしたりしないように指示し、そのような行為をしているのを認識すればこれを中止させる義務を負うところ、D教諭ら6名の大部分の者が、待機中の生徒がこうした行為をしていたことを認識していたのに、漫然とこれを放置して誰もこれを中止させず、本件落下事故が発生したときには、電柱の練習でふらついている者を注視して、誰も原告が体を後ろに反らし、転落するのを見ていなかったというのであるから、D教諭ら6名は、上記注意義務に違反したものといわざるを得ない。」

として、教諭らの安全配慮義務違反を認定しました。

因果関係について

次に、安全配慮義務違反と結果との因果関係について、被告は、

「原告が意図的に体を後方に反らせるなどということは通常はあり得ず、特別の事情であって、本件高校の教師らは原告とCが二人で肩車をした場面を見ておらず、原告が体を後方に反らした場面は全く認識していないのであるから、本件落下事故を具体的に予見できる可能性はなかった」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「そもそも、原告とCが本件落下事故直前に二人で肩車をした場面をどの教師も見ていないこと自体が注意義務に違反した行為であるから、そのことをもって具体的結果の予見可能性がなかったといい得るかはさておくとしても、前記のとおり、原告やCは高校2年生であったが、血気盛んな年頃でもあって、自己の運動能力(原告は、かねてから無茶をする生徒ではなかったが、いわゆるバック転をすることはできた。)を誇示したり、試してみたいとの欲求にかられたりしても不思議ではなく、本件高校の教師は、このような男子高校生の実態を認識していたはずであるから、意図的に体を反らせることも予見可能の範囲内に含まれるというべきである。」

として、被告の主張を排斥し、教諭らの安全配慮義務違反と結果との因果関係を認めました。

過失相殺について

裁判所は

「本件落下事故は、原告が意図的に体を反らしたことによって発生したものであり、そのような行為が危険を伴うものであることは、当時高校2年生であった原告には十分認識可能であったと認められる」

として、

「本件落下事故による原告の損害額を算定するに当たっては、原告の過失を7割と認めるのが相当である。」

と判示しました。

組体操の危険性を生徒に理解させる必要がある

組体操における事故が頻発していることについては多くの方がご存知だと思います。

しかし、「知っている」というのは、あくまでも教員などの学校関係者や、組体操における事故に関心のある保護者等だけではないでしょうか。

つまり、実際に組体操を行っている児童・生徒は、その危険性をどの程度認識し、理解しているでしょうか。

本件は、裁判所も認定したように、被害生徒がふざけていたことも原因です。

もしこの生徒が組体操の危険性や、事故が発生した場合の生命・身体に対する深刻な影響などについてきちんと理解していたならば、このようなふざけるような行動をとったでしょうか。

私としては、組体操の危険性を最も理解しておくべきなのは、教職員ではなく、また保護者でもなく、実際に組体操を行う児童・生徒なのではないかと思います。

そして、この点については、本件におけるB教諭のように口頭や文書で注意喚起するだけでなく、本件のような実例をきちんと説明した上で、実施するべきだと思います(なお、私自身としては、組体操を実施すること自体に反対であることを付言しておきたいと思います)。

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