スキー教室に参加した児童がそり遊び中に崖下に転落して死亡した事故に関する主催者の責任

2018.12.05 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成12年7月4日判決

事案の概要

本件は、原告ら夫婦の長男であるX1及び次男である原告X2が被告主催のスキー教室における夜間のそり遊びに参加した際、そりに乗ったまま崖下に転落して亡X1が死亡し原告X2が重傷を負った事故につき、そり遊びの実施に関して被告の従業員に過失があったとして、民法715条及び709条に基づき、被告に対し、損害の賠償を求めた事案です。

被告は、従業員である甲野を総括責任者、乙山を企画担当者として、平成8年3月26日から同月28日にかけて、児童を対象として、本件スキー場で本件スキー教室を実施することを企画し、参加者を募集しました。

本件スキー教室には、主催者側から甲野、乙山、被告の従業員であるK並びにアルバイト学生等からなる引率者11名が引率及び指導に当たりました。

本件スキー教室には、Xら兄弟を含む児童30名(五歳児から中学生まで)及びその保護者4名が参加しました。

当時、亡X1は小学五年生(11歳)、原告X2は小学三年生(9歳)でした。

Xら兄弟を含む本件スキー教室の参加児童らは、午後3時ころ、宿泊先であるA旅館に到着し、午後4時ころ、本件ゲレンデにおいて、スキーの板合わせを行ったうえ、スキー技術のチェックを受けるため、スキーにより滑走しました。

参加者らは、午後6時ころ、A旅館の食堂において夕食を取り、その席上において、乙山が参加者らに対し、午後7時から予定されていたナイターそり遊びの集合時間と注意事項を伝えました。

前年度のスキー教室において被告が実施したそり遊びにおいては、その滑走場所は、本件ゲレンデのうち、A別館の玄関照明及びロッジ杉の木の照明が届く範囲である、A別館及びロッジ杉の木前とされていましたが、本件そり遊びにおいては、甲野及び乙山等本件引率者の間において、滑走場所の範囲について打ち合わせがされておらず、乙山は、本件そり遊びの注意事項として、そりで滑走する場所の範囲について何らの指示もしませんでした。

また、そりが一人乗りであることやブレーキのかけ方等そり遊びについての基本的な事項の説明もしませんでした。

本件そり遊びに参加する児童らは、午後7時20分ころ、A別館前に集合し、本件引率者に引率されて、本件ゲレンデに到着しました。

到着後、甲野及び乙山が、本件ゲレンデのA別館北角において、スタッフの注意に従うよう注意しながら児童らにそりを配布しました。

配布したそりは、ブレーキやハンドル装置のない、一人乗りの簡易そりでした。

本件引率者は、参加児童らが受け取ったそりで滑走を始める前においても、そりで滑走する場所の範囲について何らの説明をしませんでした。

また、本件引率者は、前年度に実施したそり遊びの際には、そりで遊ぶ場所の範囲を、本件ゲレンデの東西方向についてはA別館前からロッジ杉の木前にかけて、斜面となっている南北方向については同所から本件ゲレンデ西側に設置してある第一ロマンリフトの山麓駅付近までと指定し、この範囲の四方の角等の雪上に懐中電灯を置き、参加児童らに明確に示しましたが、本件そり遊びにおいては、このような措置を取りませんでした。

また、参加児童らが本件ゲレンデのリフト山麓駅付近よりも上方に行かないよう、監視する人員を配置するなどの措置も取りませんでした。

多くの児童は、本件引率者からそりを受け取ると、本件ゲレンデのうち、A別館の玄関照明及びロッジ杉の木の照明の光が届いて明るくなっていた、A別館前及びロッジ杉の木から、リフト山麓駅付近までの範囲で滑走して、そり遊びをしていました。

Xら兄弟は、同じ班に所属する他の5人の児童らとともに、その範囲を超えて、本件ゲレンデをリフト山麓駅付近より更に上方まで上っていき、午後7時35分ころ、亡X1のそりに二人乗りをして、その場所から加速した状態で、本件ゲレンデの最下段と本件スキー場第二駐車場の境界付近に設置してあった照明灯の方向に約234メートル滑降し、本件ゲレンデの最下段に設置してあった防護ネットを越えて、そこから崖下11.9メートルの右駐車場に転落しました。

本件事故によって、亡X1は、頭部打撲によるくも膜下出血による急性脳腫脹により間もなく死亡し、原告X2は、頭部顔面外傷、胸腹部打撲、左中足骨骨折等により、全治2月の傷害を負いました。

なお、本件そり遊びが実施された当時は、夜間であり、外気が冷え込んでいたため、本件ゲレンデは雪面が凍結してアイスバーンのような状態となっており、極めて滑りやすくなっていました。

裁判所の判断

被告の過失について

裁判所は、

「本件スキー教室の参加者は五歳から中学生までの児童であり、一般に小学生以下の児童は突発的な行動を取りやすく、そりの滑走による危険についての認識や判断能力が十分でないから、本件引率者としては、本件ゲレンデでそり遊びを実施するに当たっては、前年度のスキー教室におけるのと同様に、そりで滑走する範囲を傾斜の緩い場所であるA別館の前からリフト山麓駅までの範囲に限定し、これを児童らに明確に指示するとともに、現場においても右の範囲を雪上に見やすい標識等を設置するなどして示し、かつ、児童らが右の範囲を超えてリフト山麓駅付近よりも上方に行かないよう、監視する人員を配置する等の措置を講じ、もってそりの滑走による不測の事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったものというべきである。」

と引率者としての注意義務の内容を示した上で、

「しかしながら、本件引率者は、そりで滑走する範囲を右のように限定して児童らに指示することをせず、参加児童らが本件ゲレンテのリフト山麓駅付近よりも上方に行かないよう、監視する人員を配置するなどの措置を何ら取ることなく、右のような危険のある本件ゲレンデにおいて漫然と参加児童らにそり遊びを行わせたものであるから、本件引率者には、右の注意義務を怠った過失があるものというべきである。」

と引率者の過失を認め、使用者である被告の損害賠償責任を認めました。

過失相殺について

他方で、被告は、

「本件事故の発生についてXら兄弟にも過失があり、損害額の算定に当たってはこれを斟酌すべきである」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

  •  Xら兄弟は、本件事故発生の前年である平成7年に被告が主催した冬のスキー教室に参加した経験があるが、そり遊びの経験としては亡X1において、4歳の時にホテルの斜面に一度行ったことがある程度であった。
  • 亡X1は、本件スキー場へ向かうバスの中で、原告X2に対して「そり遊びは上の方から滑るんだ。」と述べたほか、A旅館の食堂において、Xら兄弟が所属していた班の全員で夕食を取っていた際、「上の方まで行ってみよう。」と発言した。この席において、Xら兄弟を含む班の児童7人は、本件そり遊びの際、本件ゲレンデの斜面の上の方へ登ってから滑り出すことを相談した。
  • 本件引率者の1名は、Xら兄弟を含む児童7人が本件ゲレンデのリフト山麓駅から数えて三番目のリフト支柱の東方の本件ゲレンデ中段付近にいて、さらに上方に登って行くのを認め、「あまり上に行くと危ないよ。」と声を掛けたが、右児童らは、そのまま行動を続け、一方、右引率者も、右児童らの行動をそのまま放置し、これを安全な場所に連れ戻すなどの措置を取らなかった。
  • 児童らのうち1人は、本件ゲレンデを上る途中、周囲の暗さのため「怖いからもう止めよう。」と言ったが、児童らは、前記の位置からやや上方まで上ると、東方に向けて斜面に対して平行に歩いて停止した。原告X2は、斜面を上る際、持っていたそりを手放して斜面の下方に流してしまっていたため、亡X1は「一緒に乗って滑ろう。」と言い、Xら兄弟はそりに二人乗りをして、本件ゲレンデと駐車場の境界に設置してある照明灯の方向に向けて滑走し、本件事故が発生するに至った。
  • Xら兄弟とともに斜面を上った小学五年生の児童は、Xら兄弟が滑走した直後に、同じ方向に向けて、Xら兄弟が滑り出した位置よりもやや上方から滑走した。その際、児童は、滑走中スピードが出すぎたことから、そりから両足を出して雪面に接触させ、これによりブレーキをかけながら滑走した。

ことを認定した上で、

「Xら兄弟は、本件事故の発生直前、高速で滑るために意識的に本件ゲレンデの斜面の上の方へ登って滑り出したものであり、また、一人乗りのそりに二人乗りしたものであって、これらの行動も本件事故の発生に寄与していたことが認められる。」

としつつも、

「しかしながら、Xら兄弟は、本件引率者から、そりが一人乗りであることやブレーキのかけ方等のそり遊びにおける基本的な知識や、雪面が凍結していて滑りやすく、下に崖がある等の本件ゲレンデの危険な状態について何らの情報提供も受けていなかったものである。

他方で、本件引率者には、本件事故発生当時、本件ゲレンデがそり遊びをする児童らにとって極めて危険な状況にあったものであったにもかかわらず、そりで滑走する範囲を限定して児童らにこれを指示することをせず、監視する人員を配置するなどの措置を何ら取ることなく、本件ゲレンデにおいて漫然と参加児童らにそり遊びを行わせたという重大な過失があるのであって、右の諸点に被告が児童を対象とするスキー教室を開催すること等を業とする会社であり、本件引率者はその従業員等であること、Xら兄弟は、その年齢や経験に照らしそりの滑走による危険についての認識や判断能力が十分でないと考えられ、被告及び本件引率者としては、この点を十分考慮に入れたうえで本件そり遊びの実施について児童の安全確保のための万全の方策を講ずべきであることをも考慮すれば、Xら兄弟の前記行動について過失相殺における過失があるものと評価し、損害賠償額の算定についてこれを斟酌するのは相当ではないものというべきである。」

として、被告の主張を排斥しました。

児童を対象とするスポーツ教室の主催者としての注意義務

一般に、スキー教室を実施する際には、主催者としては、十分な事前の調査と計画、適切な指導、事故が発生した場合の対応措置を講ずるなど万全の配慮をすべき義務があると解されています。

特に、児童を対象とするスキー教室においては、不慣れと技術の未熟さから、児童がコースを外れて滑走して転落したり、滑走する児童同士が衝突したりする危険性が高いので、主催者としては、このような危険を防止するため、会場の下見、児童に対する事前の指示・注意、スキー中の監視体制の整備などについて高度の注意義務が課せられていると解されています。

このような考え方は、スキー以外のスポーツであっても、児童を対象とした教室の主催者には当てはまるのではないでしょうか。

児童がスポーツ教室に通う場合、児童がそのスポーツに不慣れであったり、技術が未熟であったりすることに変わりはありません。

児童同士が接触・衝突したりすることもあるでしょうし、身を守るための行動を十分にとれないという場合もあるでしょう。

そういう意味では、他のスポーツ教室であっても、児童に対する事前の指示・注意や、事故を防止するための監視体制の整備などについては高度の注意義務が課せられているといえます。

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