スキー滑降中にスノーボードで滑走してきた被告に衝突されて受傷をした事案

2019.01.24 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成19年9月14日判決

事案の概要

本件は、苗場スキー場ゲレンデでスキー滑走中、スノーボードで滑走してきた被告と衝突して受傷した原告が、被告に対し、損害賠償を請求した事案です。

平成17年2月22日朝、原告は、当時11歳の長男と当時9歳の長女と原告の友人の4人で苗場スキー場に行き、原告の子供らを午前、午後のスキー講習のレッスンに参加させ、短く、スピードが出ないファンスキーを借りて、無理をしないスキーを楽しんでいました。

子供らの午後のレッスンが午後3時半まであり、その解散場所が苗場プリンスホテル新館前の第1ゴンドラ乗り場であったことから、原告らは、余裕を持って午後2時半ころ、筍平ゲレンデを「らくらくコース」、「わくわくコース」を経由して下り、午後3時過ぎころ、集合場所とした第1ゴンドラ乗り場を目指して、「初級者・ファミリー練習ゲレンデ」に向かって本件事故現場にさしかかりました。

原告が滑降してきたコースは、初級者向けの緩やかな勾配のコースでした。

原告は、リフト「第5高速」とリフト「第2ロマンス」の間のエリアを滑降し、その後、リフト「第2ロマンス」がかなり高い位置に架設されているので、その下を滑走することが可能であり、コースが明確に分けられていたわけでもなかったため、続いて、上記リフトの下を通って、「初級者・ファミリー練習ゲレンデ」に向かおうとしました。

本件事故現場は、斜度約10度のなだらかなエリア内にあり、原告が斜面を横切る方向に滑走していたため、原告自身の進路の傾斜は、より緩やかでした。

被告は、平成12年ころ、スノーボードのインストラクターの仕事を始め、平成14年ころ、JSBAのB級の資格を取得し、平成16年12月から、アルバイトのスノーボードインストラクターとして働いていました。

本件当日は、受講者がいなかったため、他のインストラクター2人とスノーボードで滑っていました。

本件事故前、被告ら3人は、リフト「第2高速」で「男子リーゼンスラロームバーン」の始点に登って、そこから滑降を始め、「男子リーゼンスラロームバーン」と「女子リーゼンスラロームバーン」の合流点やや下まで下りて一旦休憩し、その後、被告以外の2人は、リフト「第4ロマンス」に沿って下りていき、被告は、リフト「第2ロマンス」、リフト「第5高速」、リフト「第5ロマンス」等を横切って、「アニマックススノーランド」に向かうべく、滑降を始めました。

「男子リーゼンスラロームバーン」は、斜度が最大32度、平均26度の急勾配のモーグルバーンであり、被告らが一旦休憩した後に被告が滑降を始めたコースも、原告が滑降していたコースに比べて急勾配でした。

被告が休憩後滑降を始めた初めのころ、被告が上記急斜面を滑降しているのを原告は向かって左上方遠方に認めましたが、そのときは、かなり距離が離れており、原告は、被告との衝突など予測していませんでした。

当時、原告と被告との位置関係は、間に視野を妨げる障害物はなく、相互に見通せる位置関係にありました。

被告は、右足を前に左足を後ろにして、身体が進行方向に対して左側を向く体勢でスノーボードを履き、進路の右側に対する注意を怠ったまま滑降し、速度が出てきたため、制動をかけるべく左足を前方に出して身体が進路前方を向いたとき初めて、原告が自己の進路前方に向かって滑走しているのを認めました。

被告が原告に気付いたときには、既に原告との距離が約10mしかありませんでした。

被告は、急制動したものの停止することができず、そのまま、滑走中の原告の左背部に激突し、原告を転倒させました。

原告は、被告が急制動をかけた音で初めて気付きましたが、なすすべもなく被告に衝突され、斜め右前方に跳ね飛ばされて、前頭部から斜面に転倒しました。

原告は、本件事故により、第7頚椎椎体骨折、頭部打撲、胸椎捻挫等の傷害を負った。

裁判所の判断

被告の責任について

裁判所は、

「スキー場においてスノーボードあるいはスキーで滑降する者は、自分が滑降して行こうとする進路、すなわち、下方の滑走者等の状況や自己の予定進路に向かってくる可能性のある滑走者等の存否、その動静等に随時注意を払い、他人との接触ないし衝突を回避することができるように速度、進路を選択して滑走すべき注意義務があるというべきである。」

とした上で、

「被告は、スノーボードを履いて高速度で滑降していたのに、上記注意を怠り、自己の予定進路に向かってくる原告の存在に気付かないまま漫然と滑降を続け、原告の直近約10mの距離まで近づいて初めて原告の存在に気付き、急制動したものの及ばず原告に激突したものであって、民法709条により、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。」

と判断しました。

過失相殺について

裁判所は、

「本件事故は、直接的には、被告による前方不注視による無謀な滑走によって引き起こされたものであるが、その背景には、被告が同行していた他のインストラクターのように斜面下方にリフトに沿って降りるのでなく、隣接するコースを順次横切って「アニマックススノーランド」に向かおうとしたこと、これに対し、原告も、子供らのスキー教室の解散場所であった第1ゴンドラ乗り場を目指して、リフトの下を滑走して、隣の「初級者・ファミリー練習ゲレンデ」に向かおうとしたこと、そのため、原被告それぞれが進もうとした方向が交叉することとなり、それぞれが相手方の進路を横切ることとなって、本件事故現場で衝突するに至ったという事情が認められ、原被告それぞれが上記のような変則的なコースをとらず、コース下方の平坦なところまで一旦滑降した後、横方向に移動すれば、滑降する領域が交叉することはなかったと認められるところである。」

とした上で、

「原被告が上記のような変則的な方向にそれぞれ進んだことは、それ自体が注意義務に反するものとまではいえないものの、他人の進路を横切ることになる危険性、ひいては他人と衝突する危険性を増大させる行動であるから、当然、進入しようとするコースの状況に特に注意を払い、他の者の動静に目を配りつつ滑走すべき注意義務が特に現実化していたといわなければならない。」

としました。

そして、裁判所は

「被告は、前方不注視のまま原告の進路に向かっていったものであり、その注意義務違反は顕著なものがある。」

としたのに対し、原告について、

「一般的には、下方をゆっくり滑走しているスキーヤーにとっては、上方から滑降してくる者の動静に注意すべき義務はないというべきである」

としつつ、

「原告は、上記のとおり他人が滑降してくる可能性のあるコースを横切って滑走しようとしていたのであり、また、一旦、遠方とはいえ、左上方に被告が高速で滑降してくるのを認めたのであるから、時に被告の方向にも注意を向けるべき注意義務があったというべきである。」

として、

「以上の事情を比較考量すると、原告の過失は1割、被告の過失は9割と判断するのが相当である。」

と判断しました。

下方を滑降していた場合でも動向によっては過失相殺が認められる

スキー場で発生した滑降者同士の接触事故についての最高裁判決でも示したように、スキー場における衝突事故については、

「スキー場において上方から滑降する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものというべきである」

との最高裁判例により、上方から滑降する者の過失を認定することが多いといえます。

しかし、だからといって、下方を滑降していた者には過失が全くないとはいえません。

本件のように、他人が滑降してくる可能性のあるコースを横切って滑走しようとするなど、下方を滑降していた者の動向によっては衝突事故の原因として認定されて過失相殺の対象となることがあります。

スキーやスノーボードを少しでも楽しみたいという気持ちは理解できますが、衝突事故を未然に防ぐという観点からは、衝突事故の原因となるような行動は慎むべきであると思います。

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