タンデムスカイダイビング中の女性が地上に落下して死亡した事故

2018.11.17 スポーツ中の事故

横浜地方裁判所平成21年6月16日判決

事案の概要

本件は、平成16年1月11日、Aが、被告との間で、タンデムスカイダイビングを体験することを内容とする契約を締結し、同日、被告のインストラクターであるBとタンデムスカイダイビングを行ったところ、パラシュートが開かないままA及びBが地上に墜落し、両名とも死亡したという事故について、Aの相続人である原告らが、本件事故によりAに生じた損害について、主催者である被告に対して上記契約の債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案です。

タンデムスカイダイビングとは、パラシュート装備を背負ったインストラクターが、スカイダイビング体験希望者(パッセンジャー)を後方から抱え込む形で二人一組で行うスカイダイビングのことをいいます。

タンデムスカイダイビングにおいては、通常、以下のとおりの順序で上空での飛び出しから地上への着地までが行われることになっています。

  1. インストラクターは、コンテナを背中に背負う形でパラシュート装備を装着し、自身の身体とパッセンジャーの身体とをハーネスで固定し、飛行機で上空に昇り、パッセンジャーを後方から抱え込むような体勢で高度約1万2500フィート(約3800メートル)の降下ポイントから飛び出す。
  2. インストラクターは、原則として、飛び出し後5秒以内に、減速傘ハンドルを投げ出し減速傘を展開させ、降下速度を減速させる。
  3. 飛び出してから最初の数十秒間は、減速傘のみが開いた状態で時速約200キロメートルでのフリーフォールによる降下を行う。
  4. インストラクターは、高度約4000フィート(約1200メートル)の地点でリリースハンドル(プライマリーハンドルないしセカンダリーハンドルの一方)を引き、主傘を展開させる。
  5. その後約4分間、パッセンジャーらは主傘に吊られた状態でゆっくりと空中遊泳をしながら降下し、目的地に着地する。

減速傘を展開した後に、何らかの事情により主傘が正常に展開しない場合には、インストラクターは、原則として、主傘収納部の蓋が開いた状態で、カットアウェイハンドルを引き、コンテナと主傘及び減速傘を切り離し、その後、リザーブリップコードを引き、予備傘を展開させて降下します。

また、主傘も予備傘も展開せず、高速で落下している場合においては、自動開傘装置(AAD)が作動し、これにより予備傘収納部の蓋が開き、誘導傘が飛び出し、予備傘が引き出され展開するようになっています。

Aは、平成16年1月11日、「タンデムジャンプお申込書」を被告に提出して、本件契約を締結しました。

Aにとって、本件ダイビングが初の体験タンデムスカイダイビングでした。

Aは、Bをインストラクターとしてタンデムスカイダイビングを行うこととなり、パラシュート装備を装着したBとハーネスで身体を固定し、飛行機で上空に昇り、同日午前10時30分ころ、高度約3800メートルの降下ポイントで、Bと共に飛行機から飛び出しました。

本件ダイビングによる降下中、減速傘ハンドルは投げ出されたものの、その後、主傘がコンテナから出ることはありませんでした。予備傘ピンが抜かれたことにより、誘導傘が飛び出し、予備傘も予備傘袋に入った状態でコンテナから引き出されたものの、誘導傘ブライダルと減速傘ブライダルとが絡んだため、予備傘が正常に展開することはなく、予備傘袋からも出ないままでした。

その結果、A及びBは、高速で地上に墜落し、共に死亡しました。

裁判所の判断

被告が負担する債務の内容について

本件では、まず、被告が負担する債務の内容が問題となりました。

この点について、裁判所は

「タンデムスカイダイビングは、パラシュートが正常に展開しない場合にはほぼ確実に死亡又は重大な傷害結果が生じる高度の危険を伴うものであるところ、被告は、体験タンデムスカイダイビングとして、これを全くスカイダイビングを体験したことのない者に対して一般向けのレジャーとして提供していたものであって、このようなレジャーは、命を賭してまで体験タンデムスカイダイビングをしようとする人はそれほどいるものではないと考えられるから、その安全性が確保されていることを一般向けに表示することなくして、一般向けのレジャーとして成り立ち得るものではなく、被告が、体験タンデムスカイダイビングの参加者を募集するに当たって、その危険性について特段触れていないこと自体、その安全性が確保されていることを黙示的に表示しているといえる。」

「パッセンジャーであるAとしても、タンデムスカイダイビングが、上空からパラシュートのみを頼りに落下してくるスポーツであるから、パラシュートが正常に展開しなければ死亡事故につながることを認識しつつも、これが専門の事業者から一般向けに提供されているものであり、かつ、パラシュートの操作等も全てプロのインストラクターが行うことになっている以上、死亡したり重大な傷害を負ったりすることなく、安全に地上に戻ってこれることは当然のことと信頼して、体験タンデムスカイダイビングに参加したものと推認される。」

「そして、体験タンデムスカイダイビングの性質と、本件契約を締結した際の被告の契約内容についての表示、及びAの合理的意思からすれば、被告による体験タンデムスカイダイビングに係る役務の提供にあたっては、少なくとも死亡等の重大事故につながるような墜落事故を発生させることなく安全のうちにタンデムスカイダイビングを終了させることが約束され、これが本件契約の内容として含まれていたものと考えるのが相当である。」

とした上で、

「本件契約においては、タンデムスカイダイビングという行為自体に生命身体という重大な利益に対する侵害の危険が内在していることを前提とした上で、そうであるからこそ、契約当事者間においては、そのような利益を侵害しないことが役務提供契約の大前提とされていたと解され、また、契約の履行過程の全ての局面ないし危険を専門的知識、技術及び人材等を有する被告ないしそのインストラクターが支配し、Aとしては被告ないしそのインストラクターを信頼し、生命身体という重大な利益を完全に被告側に委ねていると解されるのであって、このような本件契約の特質にかんがみると、契約当事者の合理的意思に基づいて、また、社会的に当然に期待される役務提供の内容として、被告は、本件契約により、Aに対し、生命身体に重大な支障を生じさせることなく安全のうちにタンデムスカイダイビングを終了させる債務を負っていたものと解するのが相当である。」

と判断しました。

被告の債務不履行を理由とする損害賠償責任について

裁判所は

「被告は、本件契約に基づいて、Aに対し、生命身体に重大な支障を生じさせることなく安全のうちにタンデムスカイダイビングを終了させるという債務を負っていたにもかかわらず、インストラクターであるBを介したその役務提供の過程において、墜落事故によりAを死亡させるに至ったのであるから、被告には債務不履行が認められるというべきであって、原則として、これにより生じた損害についての賠償責任を負うべきことになる。」

としたうえで、

「もっとも、債務不履行の原因となった事項に関する危険が、本件契約によって被告に分配されているとはいえない場合にまで被告に損害賠償責任を負わせることは正当化できないというべきであるから、本件事故の原因が、契約当事者の予測の範囲を超え、また、被告によるコントロールの及び得ない事由によるものである場合や、AがBによる制御が不能なほどに暴れたなど債権者側に著しい帰責性が認められるような場合においては、不可抗力等を理由に被告は免責されるというべきである。」

との判断基準を示しました。

そして、免責事由の存否に関する立証責任について、裁判所は

「債務不履行の事実が認められる以上、債務者は原則として損害賠償責任を負うべきであって、免責が認められるのは例外的な場合に限られるというべきであるから、本件契約の債務者である被告が抗弁として免責事由の存在についての主張立証責任を負うものと解するのが相当である。」

としました。

以上のもとに、裁判所は、パラシュートが開かなかった原因は不明であるとしたうえで、

「本件事故は、主傘ピンの不具合ないしBの不適切なパラシュート操作に端を発するものであるというべきところ、上記原因は、本件契約の債務者である被告においてこれらを十分想定することができるものであり、前者に関しては被告において適切な人材を用いて適切に組み立てを行うことなどによって、後者に関しては被告の被用者であるBが適切な操作をすることによって、十分に危険の回避が可能であったというべきであるから、これらの事由により本件事故が発生したことについて被告が免責される余地はないというべきである。」

と判断し、

「被告は、Aに対し、本件契約の債務不履行を理由とする損害賠償責任を負うというべきである。」

と結論付けました。

原因不明の事故について損害賠償責任を認めた珍しい判決

本件では、事故の原因となったパラシュートが開かなかった理由は「不明」としたにもかかわらず、スカイダイビングの主催者に債務不履行に基づく損害賠償責任を認めました。

一般に、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには、債権者(被害者)は、債務者(加害者)の注意義務違反の内容を具体的に指摘して主張し立証しなければなりません。

そして、その主張・立証が認められなかった場合には、損害賠償請求が認められないことになります。

ところが、本件では、裁判所は、主催者の債務を「Aに対し、生命身体に重大な支障を生じさせることなく安全のうちにタンデムスカイダイビングを終了させるという債務」としたうえで、「墜落事故によりAを死亡させるに至ったのであるから、被告には債務不履行が認められるというべきであって、原則として、これにより生じた損害についての賠償責任を負うべきことになる。」と判示しました。

このような判断は、主催者の結果責任を認めたものと評価することができます。

非常に珍しい判断であるといえます。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top