スノーボードのレッスン受講中に別のスノーボードで滑降してきた一般客と衝突した事故

2018.12.16 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成27年9月17日判決

事案の概要

本件は、原告が、平成22年3月22日、被告株式会社Y2の運営する本件スキー場において、被告Y2の主催するスノーボードスクールでスノーボードのレッスンを受講している最中に、ゲレンデ上方からスノーボードで滑降してきた一般客の被告Y1と衝突する事故が発生したことについて、

  1. 被告Y1には、原告との接触、衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務に違反した過失がある、
  2. 本件スクールのインストラクターには、レッスン受講生と一般客との接触事故を未然に防ぐ注意義務に違反した過失がある、

と主張して、被告らに対し、共同不法行為(被告Y2については使用者責任)に基づき、損害賠償を求めた事案です。

原告は、本件事故当時は、本件スキー場において本件スクールのスノーボードのレッスンを受講していました。

被告Y1は、本件事故当時、本件スキー場においてスノーボードで滑走していた一般客でした。

被告Y2は、スキー及びスノーボード等の技術指導や、遊戯施設、体育施設、文化施設等の経営などの事業を目的とする株式会社であり、新潟県南魚沼郡に所在する本件スキー場を運営し、本件スキー場において本件スクールを主催していました。

原告が受講した平成22年3月22日午後からの本件スクールのレッスンは、上級者向けのものであり、Aがインストラクターとなって、原告を含め2名が受講しました。

レッスンの目的は、主にミドルターンないしロングターンの際の視線の送り方を習得することにあり、まず、Aが滑走して見本を示した後、Aの合図により、受講生が順次、Aの滑走したコースをたどるようにして滑走し、Aが待機している場所の付近に停止し、そこでAから指導や説明を受けることとされていました。

本件スクールのレッスンでは、通常であれば、ゲレンデの片側半分程度を使用することとされており、そのため、ゲレンデ端から滑走を開始して、数回ターンを繰り返した後、開始地点と同じ側のゲレンデ端で停止して集合することとされていました。

しかし、本件事故当時は、本件ゲレンデの中腹の右端付近に、スキーのレッスンを受講中の団体が存在し、7〜8名の人だまりがありました。

そのため、その上方にいたAは、滑走終了地点をゲレンデの右端付近に設定した場合には受講生に転倒や衝突の危険性があると判断して、滑走終了地点を右端ではなく左端付近とすることとし、滑走を開始してターンを繰り返した後、左端付近に停止しました。

本件スクールのレッスンにおいては、インストラクターが受講生の周囲の安全を確認した上で受講生に合図を送り、受講生はこの合図を確認した後、自らも周囲の安全を確認して滑走を開始するよう指導されており、本件でも、Aは、自身の滑走後、滑走開始地点にいる原告の周囲及び滑走コースの安全を確認した上で、原告に対して滑走開始の合図を送りました。

原告は、Aの合図を確認した後、周囲を確認して本件ゲレンデの下方に向かって滑走を開始しました。

原告は、Aが手本として滑走したコースをたどるように滑走したため、本件ゲレンデの右端の滑走開始地点から、ミドルターンないしロングターンを数回繰り返しながら、左端の方向に向かって滑走しており、被告Y1との衝突直前は、体の前面を本件ゲレンデの下方に向け、背面を本件ゲレンデの上方に向けていました。

他方、被告Y1は、原告よりも上方から、細かいターンを繰り返しながら、原告の滑走速度よりも相当速い速度で滑走していましたが、自分から見て左下方約13mの地点を右側に向かってゆっくりと滑走している原告を認め、衝突の危険を感じて急停止を試みたものの、間に合わず、原告にその背部から衝突しました。

被告Y1が原告の存在を認識した地点から衝突地点までの距離は約14.4mでした。

Aは、1地点から滑走し始めた原告が2地点に至った頃に、A地点に被告Y1がいるのを認識し、原告が3地点、同被告がB地点にそれぞれ至った頃、衝突の危険を感じて「危ない」と叫びましたが、(×)地点において原告と同被告が衝突しました。

以上の位置関係は、A地点からB地点までの距離は50m以上、2地点から3地点までの距離は10数m程度でした。

裁判所の判断

被告Y1の過失について

被告Y1は、

「本件事故当時、通常のスノーボード客と比較して特に速い速度で滑走していたわけではないし、スノーボードはスキーとは異なり、ゲレンデ下方に死角が生じることがあるから、ゲレンデ上方の滑走者が一方的に注視義務、結果回避義務を負うものではなく、自身が一方的に過失を負うわけではない」

と主張しました。

これに対し、裁判所は、

「一般に、スキー場のゲレンデにおいて上方から滑降する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うと解するのが相当である(最高裁平成7年3月10日第二小法廷判決・裁判集民事174号785頁参照)。」

と最高裁判例を引用した上で、

「被告Y1は、細かいターンを繰り返しながら、原告が2地点から3地点まで10数m滑走する間に、A地点からB地点まで50m以上滑降したものであり、これらの距離関係や、同被告が原告の存在を認識してから衝突までに約14.4m滑走していることなどに照らしても、同被告は相当速い速度で滑降していたことが認められる。

また、スノーボードでターンを繰り返しながらゲレンデを滑降する場合、滑走者の背部には死角が生じるが、ターンをするごとに身体の向きが変わり、死角が生じる方向も変わることが認められるから、スノーボードで上方から滑降してくる者は、そのような死角が生じることを前提にして、当該死角が生じる方向を事前に確認したり、身体や顔の向きを変えたりするなどして、周囲の動静に注意を払い、これに応じて自己の進路や速度を選択することは可能である。」

とし、本件について

「これに対して、被告Y1は、相当速い速度でゲレンデ中腹付近まで滑降し、原告との距離が約13mに至ってようやく自分から見て左下方を右方向にゆっくりと滑走する原告を認め、衝突の危険を感じて急停止を試みたものの間に合わず、原告にその背部から衝突したのであるから、同被告においては、原告との衝突を回避することができる段階で原告の存在を認識することが可能であったと認められ、下方を滑降している原告の動静に注意して衝突を回避することができる速度及び進路を選択する注意義務に違反したものといわざるを得ない。」

として、

「被告Y1には、本件事故の発生について過失が認められる。」

と判断しました。

被告Y2の責任について

原告は、

「本件スクールのインストラクターであるAには、指導に適切な場所や時間帯を選択し、適切な練習内容の指示、指導を行う注意義務に違反した過失があり、被告Y2は使用者責任に基づく損害賠償責任を負う」

と主張しました。

これに対し、裁判所は、

「本件スクールでは、通常、ゲレンデの片側半分程度を使用して、滑走開始地点と終了地点とをゲレンデの同一側の端に設定して滑走することとされていたが、本件事故当時は、Aらのいた本件ゲレンデの右側下方にスキー客の団体がおり、これらの者との接触や衝突を避けるため、Aは、滑走終了地点を開始地点の右端とは反対側の左端に変更して滑走することとしたというのであり、このような事情からすれば、Aは、受講生の安全に配慮して、生じ得る衝突事故を可能な限り回避する措置として、滑走終了地点を本件ゲレンデの左端に設定したものであって、その判断が不適切であったとまでいうことはできない。」

「そして、Aは、まず、自らが手本となる滑走をした後、周囲の安全を確認した上で、原告に対して滑走開始の合図を送ったものであるが、Aが被告Y1の存在に気付いたのは、原告が滑走を始めて2地点を滑走していた頃であって、その時点では、同被告はAから約80m上方のA地点を滑走していたもので、原告との距離は相当離れていたのであるから、Aが原告に滑走開始の合図を送った時点では同被告は更に上方を滑走していたものと認められるのであるし、同被告がA地点に至った後も、同被告が衝突を回避することのできる進路や速度を選択することなく、そのまま原告に衝突することを予測することはできなかったといえ、Aの受講生に対する安全の配慮が不十分であったとまでいうこともできない。」

とし、

「その他、Aに原告が主張するような注意義務に違反したような事情は認め難く、Aに本件事故の発生について過失があったと認めるには足りない」

として、原告の主張を排斥しました。

その結果、裁判所は

「原告の被告Y2に対する請求は理由がない」

と判断しました。

過失相殺について

被告Y1は、

「原告には、本件ゲレンデを横切るに際して、ゲレンデ上方から滑走してくる他の滑走者との衝突の危険が生じないように、その存在を確認しながら滑走する態様をとっていなかった点で、少なくとも3割の過失がある」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

「原告は、被告Y1がA地点からB地点まで50m以上滑降した間に、2地点から3地点まで10数m程度しか移動しておらず、同被告から見てもゆっくりとした速度で滑走していたというのであるし、原告は、Aの滑走開始の合図を受けて、Aの指示の下、Aが手本として滑走したコースをたどるようにして滑走していたものである。」

「そして、被告Y1は相当速い速度で滑降し、原告の背部に衝突したこと、原告が本件ゲレンデにおいて著しく不相当な滑走をしていたと認めることはできないことなど、本件事故の態様等に照らせば、原告がスノーボードの上級者であったことを考慮しても、原告にその上方から滑降してきた同被告との衝突を予測してこれを回避する行動を執らなかったことをもって原告に過失相殺の対象となるような落ち度があるということはできない」

として、被告Y1の主張を排斥しました。

「やるべきことをやった」と評価されれば過失は認められない

本件の裁判例では、本件事故に関するインストラクターの過失については認められませんでした。

それは、端的に言えば、「インストラクターとして、受講生の安全に配慮して、生じ得る衝突事故を可能な限り回避する措置を採った」との評価を受けたことを意味します。

スポーツ事故に関連する裁判では、事故の発生についての関係者の過失が争点になります。

その場合、原告(被害者)側は、「誰が、どのような措置を採っていれば、事故を未然に防ぐことができたか」という観点から、当事者のうち、誰にどのような過失があったのかを具体的に検討することになります。

他方で、過失を問われた当事者は、当該事故の際、具体的に何をしたのかという点を主張することになります。

それら双方の主張を踏まえて、裁判所は、過失の有無を判断することになります。

その場合、裁判所は、「当事者はやるべきことをやったのであり、それでもなお事故が発生したとしても、過失はない」との評価をすることがあります。

本件におけるインストラクターの過失に対する裁判所の判断は、まさにそのような評価がなされたものであるといえるでしょう。

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