地域の親善ソフトボール試合中に選手同士が衝突したことにより負傷した事例

2018.11.06 スポーツ中の事故

長野地方裁判所佐久支部平成7年3月7日判決

事案の概要

市立中学校グラウンドにおいて、ソフトボール協会主催の男女混合ソフトボール大会が開催されました。

この大会に、原告(女性)はAチームの、被告(男性)はBチームのメンバーとして出場しました。

このソフトボール大会は、男女とも40歳以上でなければ出場資格がなく、常時4名以上の女性が出場していなければならない規則となっており、盗塁やラフプレーも禁止されていました。

両チームは、同日午後7時から開始された第1試合で対戦しました。

原告は捕手の守備についていました。

この試合において、Bチームの打者がヒットを打ち、二塁走者であった被告が、三塁を回り、左足からホームにスライディングしました。

その際、原告が転倒し、左膝後十字靭帯断裂の傷害を負いました。

このときの原告の捕球体制については、原告・被告双方の供述のみならず、目撃者の証言もかなり異なっていましたが、間近で見ていた主審や三塁側ベンチから衝突の模様を見ていた原告チームの監督などの証言から、原告はホームベース上で、腰を落として捕球しようとしていたものと認定されました。

このような原告の捕球体勢に対し、被告は、原告の足と足の間に滑り込もうとして左足からスライディングしました。

この被告の行為が不法行為に該当するか否かが問題となりました。

裁判所の判断

裁判所は、まず、

「一般にスポーツ競技中の事故による負傷については、社会的相当性を欠くものではないとして違法性が阻却されることが多い。とりわけ、プロ野球や社会人野球、学生野球(ないしソフトボール)など、プロスポーツやそれに準ずるような質の競技であれば、違法性を認め得ないのが原則と思われる。けだし、そうした試合においては、出場選手の相互が肉体的に対等な条件下で、身体の激しい接触をも辞さないプレーをして得点を争うことが、言わば競技の本質上求められており、それ抜きではもはやスポーツとして成立し得ないことにもなるからである。またそうであるからこそ、そうした競技においては、負傷を可及的に回避するための防具の着用なども義務づけられているものと解される。」

としましたが、

「本件のソフトボール試合は、地域住民相互の親睦を目的とした催しであり、住民一般を対象とした男女混合の試合で、参加資格者は40歳以上の高齢者で、しかも、常時女性4名以上の出場が義務づけられるというものであったのである。このように高齢の一般人を対象とした、かつ男女という本質的に異なる肉体的条件下にある者を意図的に混在させたスポーツ競技においては、前述したようなプロスポーツやそれに準ずる競技の場合と異なり、勝敗を争ってプレーをする際に許容される行動の限度が、自ずから異なると考えられる。即ち、場合によっては得点を激しく競うことを犠牲にしても、試合開催の第一目的である相互の親睦という趣旨を尊重し、参加者の負傷や事故-ひとたびそれが発生すればそうした試合の趣旨が大きく損なわれることは明らかである-をできる限り回避すべく行動する義務が、社会通念として、参加者各人に課せられているというべきである。したがってこうした意味において、この種競技の際の負傷行為について違法性が阻却される余地は、プロスポーツなどの場合に比して狭いといわなければならない。」

と、本件のソフトボールの試合の特殊性を強調しました。

そして、裁判所は

「本件試合において被告は、ホームベース上で原告が捕球体勢をとっていることを十分承知の上で、ほとんどホームベースの幅程度しか開いていない原告の両足の間に片足をスライティングさせてホームへの生還を果たそうとしたものであり、それは、捕手をしていた原告との身体的接触がほとんど不可避なプレーであったと言える。

そしてさらに、

  • 被告が得点を得るべく可能な限りの速力で走り込んで行ったであろうこと

  • スライディングした足にはもちろん運動靴を履いていたこと

  • 被告は防具類をいっさい身に着けていなかったこと

  • 原告は女性であって男性である被告とは体格や運動能力にかなりの格差があったと考えられること

からして、被告のこのプレーは 原告に負傷を負わせる可能性が十分に考えられるかなり危険な行為であったと認められる。」

と判断しました。

その上で、裁判所は、

「得点の可能性はより低くなるにせよ、原告の身体との接触を回避しつつ手でホームベースにタッチすることを試みることも十分に可能であったと考えられ、かつ、被告がそのような行動をとったとしても、試合の興趣が格別損なわれるというものではなかったと思われる。したがって、前述した試合の趣旨にもかんがみれば、得点を得ようとするあまり、被告があえて選択した右の如き危険なスライディング行為に違法性阻却の余地を認めることは困難であると言わなければならない。」

と被告の行為が違法であること、さらには

「いかに得点の獲得に夢中になってのことであったとはいえ、被告の右行為態様からすれば、原告を負傷させるかもしれないことは予見可能であり、かつそれを回避することも可能であったと考えられるから、被告に過失があったことも優に認められると言うべきである。」

と被告の過失を認め、原告に対する不法行為責任を認めました。

レクリエーションだからこそ違法性が認められやすくなる

この裁判例が示しているとおり、一般にスポーツは出場選手の相互が肉体的に対等な条件下で、身体の激しい接触をも辞さないプレーをして得点を争うことが競技の本質上求められています。

したがって、一般的な競技中の事故による負傷については、社会的相当性を欠くものではないとして違法性が阻却されることが多いといえるでしょう。

これに対して、スポーツが親睦や親善を図るためのレクリエーションとして行われる場合、事故を起こして参加者がけがをしないように行動する義務が、社会通念として、参加者各人に課せられていると考えられます。

にもかかわらず、勝敗にこだわって行われたプレーによってけがを負わせたという場合には、そのプレーが当該スポーツの本質上求められているものであったとしても、違法性が阻却されないことがあり得るということを、この裁判例は示しています。

この裁判例を踏まえると、親睦や親善を図るためのレクリエーションの場として行われた場合であるほど、当該スポーツでは勝つためであれば当たり前ともいえるプレーであったとしても、違法性が阻却されないということになります。

つまり、レクリエーションの場としてスポーツが行われた際の事故の方が、不法行為に該当して損害賠償責任を負う可能性が高くなるということになります。

地域住民との間で親睦や親善を図るために各種スポーツが開催されると思いますが、そのようなときほど「親睦」「親善」の意味をよく考えてプレーすることが必要だといえるでしょう。

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