授業としてのソフトボール試合に審判をしていた小学生がファウルチップのボールが左眼に当たって失明した事故

2018.11.09 スポーツ中の事故 学校行事

浦和地方裁判所平成4年4月22日判決

事案の概要

原告は、本件の事故前に、左眼角膜裂傷及び外傷性白内障により甲病院を受診し、切嚢術や左眼水晶体吸引術(水晶体の除去)の手術を受け、左眼は無水晶体眼となっており、本件事故当時その硝子体は液化していました。

そのため、原告は、本件事故当時、左眼の視力が裸眼で0.02(コンタクトレンズ使用による矯正視力1.0)でした。

原告は、本件事故当時、Y教諭が担任をしていたA小学校6年1組に在籍していましたが、生徒の中で野球がはやっていたことから同組の学級会で野球大会をしようとの議題が出されました。

そして、女子生徒もいたことから最終的にソフトボール大会を行うことに決められ、学級会では、さらに、試合のルール、運営等について、

  • 男女混成チームを4つ作ること
  • 用具は生徒が持ち寄り、ボールは硬式用テニスボールを使用すること
  • 打者が女子生徒の場合には投手は男子生徒の場合よりもホームベース寄りの位置から打ちやすい球を投げること
  • 審判を置くこと
  • 審判その他の役割は生徒が各自分担して行うこと
  • 審判については攻撃側のチームの打順の遠い生徒が交替でこれにあたること
  • Y教諭はオブザーバーとして全体を把握すること

等が決められました。

その際、防護マスクを準備することが議題に上りました。

当時、A小学校にはソフトボールクラブがあり、クラブ用の防護マスクも備えつけられていましたが、本件事故当時、Y教諭は、ソフトボールクラブの存在は知っていたものの、マスクが備えつけられていたことまでは知りませんでした。

そして、Y教諭は、普段行われているソフトボールゲームにおいて防護マスクは邪魔だということで着用しないことの方が多かったことから、用具持ち寄りの方法による本件試合についても「慣れたところでやった方が良い。」と判断し、防護マスクを準備するまでの必要性は認めませんでした。

原告は、学級会の時間帯に硬式用テニスボールを使用したソフトボールの決勝戦で眼に砂、埃等が入ることからコンタクトレンズを外して主審を行っていました。

そうしたところ、ファウルチップした打球が原告の左眼を直撃しました。

なお、当時の投手は、少年野球をやっており速い球を投げる男子生徒であったこと、打者は女子生徒であったので投手と本塁との距離は少年野球のそれよりもかなり短いものであったうえ、投手は上手から投球していたこと、現場にいた生徒は、Y教諭に対して、自分は避けることができたが危なかった旨話していたことなどから、ファウルチップの勢いはかなり強いものと考えられました。

Y教諭は、事故発生前に、本件試合において投手の生徒が上手からボールを投げていたこと及び原告が審判を行っていたことを見ていながら、投手の生徒に対して上手からの投球を止めるように指導するとか、マスク着用その他の注意をしませんでした。

原告の左眼は本件事故後約2か月して網膜全剥離となり、その3日後には裂孔が見つかって、三度に及び手術を受けたものの光覚が残されただけで、視力回復、矯正は不可能な状態となって失明しました。

裁判所の判断

Y教諭の過失について

裁判所は、Y教諭が防護マスクを準備せず、着用させなかった点について

「下手投げであったとしても硬式用テニスボールは、ソフトボールに比べて重さは軽いか小型でしっかり手で握ることかできるために速めの投球ができることやファウルチップの中には、投球がハットの芯に当たらず、速度を変え、回転を増して直線的に審判を直撃するものもあることは容易に想定できるのであって、しかも、本件でY教諭は、本件試合の参加者中に眼鏡やコンタクトレンズを装着している生徒が数名いたことを知っていたのであり、これらの生徒が審判を行う可能性のあることも充分知っていたのであるから、同教諭は、防護マスクを着用せずに審判をしている生徒の眼に硬式用テニスボールが当たれば目に傷害を負う危険性かあることは充分予見できたということができる。」

「そして、本件事故当時、A小学校にはソフトボールクラブがあったことはY教諭も認識していたのであるから、防護マスクを準備することも充分可能であったということができる。」

「したがって、Y教諭は、本件試合に際して審判をする生徒の受傷を避けるべく、防護マスクを用意して着用させるなどして防護について特別に配慮すべき注意義務を負っていたものであり、同教諭には右注意義務に違反した過失があるというべきである。」

と判断しました。

また、投手の生徒の上手投げをやめるように指導を行わなかった点についても

「Y教諭は、本件事故直前に、投手の生徒が上手からボールを投げており、それだけボールの勢いが増し、傷害の危険性が高まっていたことや原告が審判をしていたことを直接に認識していたにもかかわらず、同教諭は、上手投げを止めさせるなどの措置をとらず、一時現場を離れるなどしているのであるから、同教諭には、その時点で、投手の生徒に上手投げを止めるように指導すべき注意義務に違反した過失も認めることかできる。」

と判断しました。

その結果、裁判所は

「Y教諭の教師としての職務遂行について過失があったことは明らかであるから、被告は、国家賠償法1条1項により、Y教諭の右行為によって被った原告の損害について賠償すべき責任がある。」

として、原告による損害賠償請求を認めました。

過失相殺

被告は過失相殺事由として、

「原告は本件事故時無水晶体眼であり、コンタクトレンズも装着していなかったのであるから、そもそも審判をするべきでなかったこと」

を主張しました。

この点について裁判所は、

「原告は、本件事故当時、コンタクトレンズを装着していなかったため、裸眼視力が左右で大きく異なり(右眼1.2、左眼0.02)、ボールの遠近感などを把握するのには充分な状態ではなく、咄嗟の反射的回避行動の前提となる投球から打撃までのゲームの進行やボールの動きを認識するに欠けるところがあったもの(何人もファウルチップの直撃は完全には回避できないとしても)と認められ、また、原告は、当時、小学校6年生であり、未だ判断能力が充分に備わっていたとは必ずしもいえないものの、野球一般の知識は備えていると認められ、しかも、軟式野球の経験もあり、これに類したソフトボールにおいても防護マスクを着用しないままで審判をする場合には、ファウルチップのボールが顔面に当たる危険性が高いという程度のことは充分に理解したうえで行動できる年齢にあったということができ、かつ、本件事故当時、投手の上手投げによりボールの速度が増し、右危険性が更に高いことも理解していたものと認められる。」

とした上で、

「原告がコンタクトレンズを装着せず、防護マスクを着用しないまま審判をし、上手投げによるゲームを他の生徒と共に続けていた際に発生した本件事故については原告にも過失があったものとして過失相殺を認めるのが相当である。」

とし、原告が負担すべき過失割合について

  • Y教諭は担任教師として指導者であったのであるから、その過失は重大であるといえること
  • 本件事故時において原告のほかに審判を行おうという生徒がいなかったこと
  • 原告が医師から受けた生活上の注意は眼に砂、埃が入っても眼を擦らないようにするといった程度のものであったこと

などを考慮し、他方、原告の年齢その他前判示の諸般の事情を考慮し、

「過失相殺割合は2割とするのが相当である。」

と判断しました。

学校行事での事故は体育祭・運動会に限らない

本件は、小学校における学級会といういわばレクリエーションとして行われたソフトボールの試合中に起きた事故でした。

学校でのスポーツ事故というと部活動での練習や試合中の事故がありますが、部活動の場合には相応の安全対策がとられているのが一般的です。

これに対して、レクリエーションの場合には、日常的に行われているわけではありませんし、想定できる事故を踏まえた安全対策が十分に検討され実施されているとは限りません。

本件のように、小学生が意見を出し合いながら行事をやろうという姿勢は評価されるべきだと思いますが、安全対策について十分だといえるかどうかの判断はやはり大人である教諭が行うべきであるといえます。

防護マスクをしないで審判を行うなどということは、通常では考えられません。

その意味では「普段行われているソフトボールゲームにおいて防護マスクは邪魔だということで着用しないことの方が多かったことから、用具持ち寄りの方法による本件試合についても『慣れたところでやった方が良い。』と判断し、防護マスクを準備するまでの必要性は認めなかった」という点は、あまりに稚拙だといわざるを得ないと思います。

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