高校生が水泳の自由練習中にプールに飛び込んでプールの底に頭部を衝突させ頚髄損傷した事例

2018.10.12 スポーツ中の事故

大分地方裁判所平成23年3月30日判決

事案の概要

本件は、県立高校の生徒であった原告が、水泳実習における自由練習中に、スタート台からプールに飛び込んだところ、プールの底に頭部を衝突させ、頚髄損傷の傷害を負い、第7頚椎節以下完全四肢麻痺等の後遺障害が生じたとし、担当教諭に指導上の注意義務違反があったと主張して、被告県に対し、安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠償を求めた事案です。

裁判所の判断

安全配慮義務について

裁判所は、まず安全配慮義務について

「学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負っており、危険を伴う技術を指導する場合には、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務があるところ(最高裁昭和62年2月6日第二小法廷判決・集民150号75頁参照)、水泳授業が、死亡や重篤な障害が残る傷害事故等を生じる危険性を有するものであることからすれば、本件授業を担当したA教諭らにおいて、上記のような一般的な注意義務を負っていたことは明らかである。」

としました。

その上で、A教諭らに具体的な注意義務違反があるか否かを検討しています。

危険性周知徹底ないし飛び込み禁止指導義務について

裁判所は、

「高等学校の水泳授業を担当する教諭は、前記のとおりの飛び込みの危険性等に照らせば、水泳授業の開始等に当たり、生徒に対し、飛び込みの危険性を説明したうえ、むやみに飛び込むことを禁止指導すべき注意義務があるというべきである。」

とした上で、

「B教諭は、生徒対象のオリエンテーションにおいて、助走や回転を加えて飛び込んだり、頭から飛び込んだりするとプールの底で頭部を強打し頚椎や脳に大きな傷害を負うことがあるため、プールへの飛び込みは原則として禁止とすることなどを説明し、A教諭は、これを受け、本件授業を含む各水泳授業の冒頭で、生徒らに対し、許可なくプールに飛び込むことがないように注意指導を行い、ウォーミングアップ等、生徒が一斉にスタートする練習において、スイミングスクール等の経験者や事前に申入れをした生徒につき、習熟度に応じて適宜飛び込みを許可するほかは、一律にこれを禁止していたのであるから、B教諭及びA教諭に、上記注意義務に違反する過失があるということはできない。」

と判断して、原告が主張した「危険性周知徹底ないし飛び込み禁止指導義務違反」はないものと判断しました。

監視ないし危険行為制止義務について

もっとも、裁判所は

「前記認定の本件事故当時の水泳事故の状況、A教諭が立ち会ったオリエンテーションの内容等に加えて、A教諭は、かねてから、B教諭より、指導に従わない生徒が多い旨の忠告を受けていたうえ、飛び込みを禁止していたにもかかわらず、本件事故直前の個別練習中に、A教諭の目を盗んでプールに浮かべられたビート板に向かって飛び込んだ生徒もいて同教諭はこれを目撃していたことに照らせば、A教諭は、自己がプールの監視を解けば、生徒が開放的になって事前の禁止事項を守らず、危険な態様でプールに飛び込むなどして、頚髄損傷等の重大な事故を起こす危険性があることを十分予見しえたというべきである。

したがって、A教諭には、上記事故を防止するために、プールサイドで継続的に生徒らを監視するとともに、危険行為に及ぶ生徒を発見した場合には、これを制止すべき注意義務を負っていたと認められ、A教諭においてプールサイドを離れなければならない事情がある場合には、それが短時間であったとしても、監視を解く前に、生徒らに対しあらためて飛び込み等の危険行為を厳重に禁止したり、あるいは臨時の監視係を置くなどして、事故を未然に防止するための措置を講じるべき注意義務があったというべきである。

しかるに、A教諭は、自由練習を指示した後、生徒らがもはや危険な行為に及ぶことはないと軽信し、特段の措置を講じることなく、シャワー室に行ってシャワーの水を止め、排水溝にたまったゴミを取り除く作業を開始したというのであり、その間、監視のない状況となったプールサイドにおいて、原告を含む生徒数名が危険な飛び込みをした結果、本件事故が生じたものと認められるから、被告の履行補助者であるA教諭には、上記注意義務に違反した過失があるといわざるを得ない。」

と判断した上で、

「そして、A教諭が生徒らに対する監視を解かず、あるいは上記のような措置を講じていれば、本件事故が生じていなかったことは前記認定の事実に照らせば、容易に推測できる。

そうすると、被告には、安全配慮義務違反があったというべきであり、被告は、原告が被った損害について賠償すべき義務を負うことになる。」

として、原告の主張する「監視ないし危険行為制止義務違反」を認めました。

過失相殺について

他方で、裁判所は、原告について

「原告が成人に近い判断能力を有する高校3年生であり、生徒対象のオリエンテーションを受けながら、スタート台付近では深さ約1.2メートルしかないプールに助走をつけたうえで頭から水面に対し、垂直に近い形で飛び込んだ場合、プールの底に頭部を衝突させるなどして、頚髄損傷の傷害を負うことは容易に予見しえたこと、原告は、A教諭により許可のない飛び込みを禁止されていたにもかかわらず、A教諭が附属棟に入り、同人の監視が届かなくなったことを見計らって、上記のような危険な態様での飛び込みを始めたこと等の事情に鑑みると、原告にも重大な過失があったことは明らかである。」

とした上で、

「以上の事情に加え、本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告の過失割合を7割と認めるのが相当である。

と判断しました。

多発しているプールへの飛び込み事故

プールへ飛び込んだだけでけがをするのか?という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

しかしながら、実際には、プールへの飛び込み事故は多発しており、裁判で争われているケースも相当数存在します。

もっとも、裁判をする前に示談で解決しているケースや、そもそも損害賠償を請求していないケースも存在すると考えられるため、発生件数はもっと多いものと思われます。

飛び込み事故に関しては、本件のような教員の安全配慮義務違反が争点になったものだけでなく、プールに瑕疵があったとして営造物責任が問題になったケースもあります。

本件では、教員の安全配慮義務違反が認められましたが、他方で、生徒が指導に従わなかったことにも問題があったとして、7割もの過失相殺が行われました。

事故による後遺症は非常に重いものですが、その7割は生徒自身の自己責任によるものだと判断されたわけです。

生徒はちょっとした悪ふざけのつもりだったかもしれません。

しかし、そのちょっとしたことで重い後遺症を抱えながらの生活を余儀なくされてしまいます。

プールへの飛び込みを決して甘く見てはならないということを認識していただければと思います。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top