高校の水泳授業中に潜水をしていた生徒が溺水しその結果死亡した事案

2020.06.18 学校行事

大阪地方裁判所平成13年3月26日判決

事案の概要

本件は、被告が設置する高校の水泳授業において潜水で水泳中に溺水し、その後救急先の病院で死亡した生徒の両親である原告らが、担当教諭らの注意義務違反により死亡事故が引き起こされたものであるとして、在学関係に基づく安全配慮義務違反ないし国家賠償法1条1項の過失責任に基づき、被告に対し損害賠償を求めた事案です。

Xは、平成8年9月当時、被告が設置する本件高校の2年3組に在学していました。

Y教諭は、本件事故当時、本件高校の保健体育科教諭であり、Xら本件高校の女子の水泳授業の指導にあたっていました。

本件高校では、女子の水泳授業を2組合同で実施し、これを4班に分け、主に班別のグループ学習を行っており、Xは、当時、2年3組3班に属していました。

また、そのカリキュラムには、クロール、平泳ぎ、背泳の競技に加え、横泳ぎ、潜水をも導入し、いずれも、評価対象種目とされていました。

平成8年度の2年生女子は、期末までに、クロール、平泳ぎ、背泳については、それぞれ75メートル2本、合計6本のタイム測定を計画的に行い、横泳ぎはそのフォームにつき担当教諭の評価を受けることがその課題とされ、潜水は、自由練習中に潜水距離につき、自己の記録を更新することができれば、適宜、Y教諭に自己申告することとされていました。

本件事故当日は、男子は第1ないし第4コースを使って一斉授業が、女子は8班に分けて、第5ないし第9コースを使ってグループ別授業がそれぞれ実施されました。

夏休み後2日目の水泳授業に当たる本件事故当日は、自由練習日に充てられる予定でしたが、Y教諭は、2年生女子のカリキュラムの1つであるクロール、平泳ぎ、背泳の各75メートル2本、合計6本のタイム測定を余裕を持って行いたかったこと、既に7月中に、タイム測定に備えた練習時間を十分に確保できたことなどを考慮して、タイム測定も行うこととしました。

当日は、2組1班、2班、3班が第5・第6コースを、3組1班、2班、3班が第7・第8コースを、2組及び3組の各4班が第9コースを、それぞれ使用することとされました。

Y教諭は、午前8時45分ころ、生徒らを集合させ、グループ内でクロール、平泳ぎ、背泳の中から種目を選択して2回のタイム測定を行うこと、残りの時間で各自横泳ぎ、潜水を練習すること、横泳ぎは、第9コースでY教諭がフォームを検定するから、検定を受けたい者は申し出ること、潜水は各自潜水できた距離を自己申告すること等、当日の授業実施内容を説明しました。

8時50分ころ、生徒らは、ウォーミングアップとして、25メートル2本を順次自由な泳法で泳ぎ、Xも平泳ぎを2本泳ぎました。

9時ころ、見学者が各々計測者となって、タイム測定が開始されました。

Xは、1本目をクロールで、2本目を平泳ぎで泳ぎ終え、各々のタイムをY教諭に報告してから、9時15分ないし20分ころに、Aにゴーグルの使用法を教えたり、第9コーススタート地点に座り休憩を取っていましたが、まもなく、BやCに対して、潜水をするなどと告げて、第8コーススタート地点から潜水を始めました。

この時刻は9時20分ないし25分ころでした。

Xは、潜水を比較的得意な種目としており、以前の水泳授業では、25メートル2本ないし3本を潜水することが頻繁にあり、Xが30ないし40メートルほど潜水できると記憶している生徒もいました。

Xが潜水を始めてから、第8コースでは、Dが、9時25分ないし30分ころに背泳のタイム測定を始めましたが、Xの動向は、第8コースから潜水で泳ぎ始める姿をB、Cに目撃されたのを最後に、明確には確認されることはありませんでした。

Y教諭は、授業開始後、見学者から各々の見学理由を聴取し、タイム測定が始まってからは、生徒数名に、コースロープの取り付けを指示して、第9コース横のプールサイドあたりで、各々の生徒からタイムの報告を受け、それを記帳していました。

9時20分過ぎころ、タイム測定を行う生徒が少なくなり出したのを見たY教諭は、生徒たちに、1本しかタイム測定を行っていない者はもう1本タイム測定を行うように催促しました。

その後、Y教諭は、第9コース横プールサイドほぼ中央で、第9コースで横泳ぎを行う5名の生徒の指導を行い、しばらくしてから、第1ないし第4コースで水泳の授業を受けていた男子生徒らが授業を終えてプールから上がり始めるのを認めました。

Y教諭が、プールに設置されている大時計でその時間を確認したところ、ちょうど9時30分ころでした。

Y教諭は、そろそろ、女子も授業を終了せねば、と考えましたが、ちょうどその時、指導を受けていた生徒が、「(横泳ぎを)見てください。」と声をかけてきたため、引き続き、Y教諭は横泳ぎの指導を続けることにしました。

まもなく横泳ぎの指導を終えたY教諭は、まだタイム測定を行っている生徒がいるのを認め、すぐには授業終了の指示を出さずに、スタート地点フェンスあたりのベンチ横に体調が悪いために座り込んでいた生徒の様子を見に行きました。

そして、Y教諭は、9時33分ないし34分ころ、授業の終了を指示するため、生徒らに、「上がりなさい。」と声をかけました。

生徒らがプールから上がり、プール全体の見通しがよくなったその時、Y教諭は、第8コースのスタート地点から8メートルほど離れた地点で、Xがスタート地点の方に頭を向け、うつ伏せで両手を下に曲げた状態で水中に浮かんでいるのを認めました。

Y教諭は、Xの姿を認めるや、同人が溺水に至っているものとは思わず、生徒らに、「あの子何やってんねん。」「潜水かいな。」「潜水長いな。」等と話していましたが、Xが一向に動かないことを見て、異常を察知し、生徒らに、Xを直ちに引き上げるよう指示しました。

Y教諭は、プールサイドまで引き寄せられたXの胸をプールサイドから抱えて、他の生徒たちに手伝わせながらXを水から引き上げました。

Y教諭は、Xに対し、「おいおい」と声をかけるなどしましたが、既に、Xには呼吸も脈もみられない状態であることを認め、Xの顔半分を覆っていたオレンジ色のものが混じった白いぬめりを拭い、さらに、Xの口の中に指を入れてこれを掻き出しました。

次に、Y教諭は、Xをうつ伏せにしてその背中を強く叩きましたが、反応がありませんでした。

そこで、Xを再び仰向けにして、心臓マッサージを5回ほど試みた後、マウスツウマウスによって、人工呼吸を試みました。

9時39分ころ、養護教諭が到着し、吉田隆教諭も加わって、Xに対し、心臓マッサージ、人工呼吸が行われました。

9時41分ころ、本件高校に救急車が到着し、救急救命士は、Xに対し、器具を用いた心肺蘇生を開始しましたが、Xの心肺は停止したままでした。

そこで、救急救命士は、9時56分ころ、千里救命救急センターにドクターカーを要請しました。

10時17分ころ、医師が到着し、Xにカテコラミンを注射し、ようやくその心拍動を再開させました。

Xは、10時52分ころ、千里救命救急センターに搬送された後、集中治療室で治療を受け、一時は蘇生しました。

しかしながら、Xは事故時、既に10分以上にわたり、無酸素ないし低酸素、虚血状態にあったため高度の心筋傷害を負っており、その後も脳症で経過し、9月12日に死亡しました。

裁判所の判断

安全配慮義務違反の有無について

まず、裁判所は、潜水の危険性について、

水泳には、気管内に水を誤って吸引するなどの原因によって、意識が喪失し、溺水(溺死)に至る危険性が伴う。

加えて、無理な息こらえや過換気を伴いがちな潜水にあっては、血液中の酸素濃度が低下することによって、意識が喪失し、意識喪失において生じる呼吸の反射によって自ずと気管内に水を吸引し、溺水に至る危険性、殊に、息こらえの前に過換気をすることによって血液中の二酸化炭素濃度が低下し、呼吸飢餓感のないまま血液中の酸素濃度が低下して意識が喪失し、もがくこともないまま溺水に至る危険性(ノーパニック症候群)も、報告されているところである。

これらからすれば、潜水は、一般的に危険を伴う水泳の中でも、特に危険度の高い種目であるといえる。

と判示しました。

その上で、裁判所は、

「以上のような潜水の危険性にかんがみれば、学校側は、潜水を授業として実施するにあたっては、生徒に対し、事前にこの危険性及び安全な潜水法を周知させた上で潜水の授業に臨ませ、かつ、授業中においても、潜水の上記危険を念頭に置いて、異常が生じた場合には直ちにこれを救助し得るよう監視すべき安全配慮義務が課されているというべきである。」

との判断基準を示しました。

そして、本件高校においてなされた潜水授業実施状況について

  • Y教諭は、平成8年度の水泳授業に当たって、例年どおり、第1回目の水泳授業前に、口頭で、2年次の目標(種目、内容、評価について)の伝達、授業の進め方、形態の説明(グループ分け、グループ学習の仕方、班ノートの記入について)、見学の仕方、補習、準備運動について説明するとともに、飛び込みに対する注意や体調の悪いときは指導教官に申し出ることなどの注意を記載した「必読-水泳の授業に関する注意事項」と題する書面を配布し、その記載内容に沿った説明をしていたが、他方、潜水の危険性については、殊更言及することはしなかった。
  • 本件高校は、女子の水泳授業のみに潜水を採り入れ、潜水距離及びフォームを評価の対象とし、これを①一斉練習及びグループ別練習からなる練習期間、②グループごとに行われる距離測定(検定)、③個々人が手の空いている間に行う自由練習の3つの態様に分けて実施していた。夏休み以後のタイム測定期間においては、各々が課題を消化した後の残り時間に潜水の自由練習を行うこととされ、Y教諭は、潜水の自由練習は何回でも挑戦してよい、その練習において潜水距離の自己記録を更新すれば、その記録を最高記録として自己申告してもよいと指導していた。Y教諭は、日頃から、一般の女子が泳げる潜水距離の限界は25メートルであると認識してはいたものの、生徒らに対し、最低限12.5メートルは潜水するよう指導する一方、潜水距離を25メートルに限定するよう明示的に指導することはなく、このため、生徒間においては、自然と距離を更新しようとの意識が生じがちであり、生徒の中には25メートル以上潜水し、これをY教諭に話した者もいたが、Y教諭は、これを聞き流すにとどまり、このことから、生徒が潜水の距離を伸ばそうと25メートル以上泳ぐことの可能性があることを想定して格別の指導をすることもなかった。また、Y教諭は、当初は、潜水の自由練習は第9コースを使用して行うよう指導していたものの、次第に、生徒の多くは、各々の課題を終えると、第9コースに移動することなく、自分が与えられたコースで潜水の自由練習を行うようになった。しかし、Y教諭は、このような状況になった後、生徒らに対し何らの注意を与えることもしなかった。

との事実認定をもとに

「Y教諭は、潜水の自由練習をさせるにあたって、潜水者と監視者のマンツーマンの形態でこれを行わせたり、あるいは、コースを限定してこれを行わせる等の監視体制は一切採用しておらず、グループ内の相互監視体制、すなわち、グループ内で泳いでいれば、異常があった場合直ちに他の生徒が発見し得るであろうという程度の監視体制を採っていたにすぎないことになる。

しかしながら、このような監視体制は、本件のように潜水の危険性を生徒のみならず教諭すら十分に認識しないままに授業を実施していた本件のような状況にあっては、きわめて杜撰というべきであり、結局のところ、潜水授業を実施するについて必要な何らの監視体制も採っていないに等しいと評価せざるを得ない。

このことは、現に、本件でも、数人の生徒が、Xらしき人物が第8コースに沈んでいるのを見かけていながら、潜水をしているのだろうとしか気にかけていないこと、Y教諭自身、Xを見かけるや、「あの子、潜水長いな。」などと、Xが異常事態に陥っていることを全く想定していないかのような発言をしていることからも明らかである。」

とし、

「潜水の上記の危険性にかんがみれば、自由練習であると否とを問わず、Y教諭は、潜水の危険性を十分考慮した安全配慮の措置を採るべきであったといわなければならない。

殊にY教諭にあっては、潜水した距離を評価の要素とし、正式な検定に加え、自由練習中に潜水距離が更新できたら、それも自己申告させて評価対象にするとの方針で授業に臨んでいたこと、さらに、事実上、潜水距離に制限を設けず、むしろ潜水可能距離をできるだけ伸ばすような指導をしてきたのであり、自由練習時にも、生徒らが、無理な息こらえや過換気をしがちであることは、Y教諭としても十分了解できたはずであって、かかる場合に、自由練習であるからといって、教諭の注意義務か軽減される理由がないことは明らかである。

ところが、Y教諭は、自由練習においては、上記のとおり、何らの安全配慮も採らずにいたために、結局のところ、Xの異常事態を授業終了間際の集合の指示時まで発見できなかったものであるといわざるを得ない。」

として

「してみると、生徒らの水泳の習熟度や、その理解度、生徒らの年齢を考慮に入れても、本件におけるY教諭らの指導内容は、水泳授業を実施する教諭としての生徒に対する安全配慮義務に違反していたというべきである。」

と判示しました。

因果関係について

裁判所は、

「Xは、9月5日午前9時25分ころまでには潜水を開始し、その後溺水したと認められるのであるが、Y教諭は、そのなすべき安全配慮義務を尽くさなかったために、生徒らに集合の指示を出した授業終了間際の9時34分に至るまで、プール内で溺水していたXを発見することができなかった。

Xは、発見された時点では、既に、心停止、呼吸停止の状態に陥っており、鑑定の結果によれば、溺水に至ってから10分以上もの間、無酸素ないし低酸素、虚血状態が続いていたために、高度の心筋傷害を来たし、肺水腫、肝不全、腎不全など多臓器不全に至り死亡したことが認められるのである。」

として

「これからすると、Y教諭は、上記安全配慮義務違反により、溺水したXを発見するのが遅れ、その結果Xは心肺停止に陥ったのであるから、結局、Y教諭の安全配慮義務違反とXの溺水及びその死亡との間には因果関係が認められることになる。」

と判断しました。

以上より、原告らの被告に対する損害賠償請求が認められました。

他の高校における監視状況との比較

本件では、大阪府下の公立高校に対して、潜水についていかなる安全配慮措置が採られているのかについて、本件高校がアンケートを実施していました。

その結果によれば、アンケート回答校118校のうち、

  • 潜水を一切採用していない高校は44校
  • 練習の中で潜水を採用している高校は55校
  • 評価の対象種目として採用している高校が12校(10パーセント足らずにすぎない)

ことが判明しました。

また、潜水を評価の対象種目として採用している12校のうち8校が、潜水実施における配慮状況について、それぞれ、

  1. 突発的な異状に備え、充分な監視下で行う。
  2. 必ず3人以内で泳がせ、全員の状況が把握できるように努めている。
  3. 教員が監視、生徒2人1組による監視。考えられる事故例について注意・説明。
  4. コース上に全員が顔を出してからでないと次のスタートをさせない。ハイパーベンチレーションの危険の注意。
  5. 教諭以外にコースに生徒1名をつけている。
  6. 2人ずつ泳がせ、泳法チェックできるようにしている。
  7. (潜水を)実施することを教諭に通告してから行う。実施コースは教諭が声かけをして他の生徒に注意を促す。
  8. 1人が上がったことを確認して次の人に実施させる。潜水技術とともに、特に安全性について説明して行っている。いかに安全に潜水をするかということも学習内容としている。

と、一般の水泳授業の監視に比べて、より監視体制を行き届かせるための配慮を講じていました。

「これらと比べても、Y教諭が採っていた監視体制は、潜水の評価種目とした場合の監視体制として、杜撰であったというべきである。」と裁判所も判示しています。

水泳については飛び込み事故に関する裁判例は多数存在しますが、潜水中の事故についての裁判例はあまり見かけません。

その意味では、潜水における安全配慮措置の実施にあたって参考にすべき事案だと思います。

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