中学生が水泳部の練習中にフラフープの輪をくぐってプールに飛び込みプールの底に頭部を衝突させ負傷した事故

2018.11.20 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成13年5月30日判決

事案の概要

本件は、原告Xが、東京都中野区立A中学校の水泳部の練習中において、プールに飛び込んだ際に、プールの底に頭部を衝突させ、頸髄損傷の傷害を負った事故について、原告Xが、水泳部の顧問であったY教諭に安全配慮義務違反の過失があったなどと主張して、被告らに対し、国家賠償法に基づき損害賠償を求めた事案です。

原告Xは、小学校一年生のころから、週1、2回程度スイミングスクールに通い、コーチから、泳法について指導を受け、飛び込みの仕方についても、構え方や手首の返し方等の指導を受けていました。

原告Xは、平成6年4月にA中学校に入学し、課外のクラブ活動として、同校の水泳部に入部しました。

同年8月2日午前7時ころ、水泳部の生徒は、本件プールに集合し、コースロープを張るなどの練習の準備を行いました。

顧問のY教諭も、そのころ、本件プールに赴きました。

そして、生徒は、午前7時20分ころ、一年生の男子、二・三年生の男子、女子の三グループに分かれ、本件プールに入って、それぞれ異なるコースで練習を開始しました。

原告Xら一年生の男子のグループは、アップの後、コーチのZから指示を受けて、バタフライのキック及びプルの練習をしました。

その間、Zは、二・三年生の男子を指導し、Y教諭は、女子のグループが泳いでいた第七、第八コースで水泳を苦手とする女子生徒の指導をしていました。

もっとも、Y教諭は、一年生の男子のグループの様子も気に留めており、この日の練習を見に来ていた水泳部のOBに対し同グループの指導を依頼することにしました。

そして、これを受けた同OBは、同グループに対し、更にバタフライのコンビ、クロール、ダッシュといった練習をするよう指示しました。

同グループの生徒は、OBから指示された練習をし、それを終えた者から順にプールから上がり、本件プールの出入口付近に置かれていた赤色の台に座って休憩をとりました。

そのころ、女子のグループが休憩に入ったので、Y教諭は、同グループに対し前日と同じ内容の練習をするよう指示した上で、出張に出掛けるため、管理室の横の部屋で着替えをしました。

そして、Zに後を頼む旨を伝えた上、プールサイドを歩いて、プールの出入口に向かいました。

その際、Y教諭は、三年生の水泳部員のBが、二・三年生の男子は第三ないし第五コースで練習していたにもかかわらず、それに参加せずにプール内の出入口付近にある倉庫の前にいるのを見掛けました。

そして、出入口を通り、階段を上りながら、Bがなぜ練習に参加していないのか不思議に思い、注意しようかと考え、階段の所からガラス越しにBの挙動を見たものの、結局、一々注意することもないと考え、そのまま階段を上り、職員室に向かいました。

午前8時55分ころ、原告Xらが赤色の台に座って休憩をとっていると、Bが、倉庫に保管されていたフラフープを、本件プールの第一コースの側壁に設置された手すり付き梯子の所に持ち出して来ました。

このフラフープは、直径65㎝で、本件プールを利用していた中野区水泳協会が、障害児を水に慣らすための練習の際に水面に浮かせて使用するために、倉庫に保管されていたものであり、A中学校の水泳部の練習においては使用されていませんでした。

Bは、飛び込みの矯正練習としてフラフープを使ってするのが良い方法だと聞き、実際に前日の練習終了後三年生の一部の部員が試していたことから、倉庫からフラフープを持ち出したものでした。

そして、一年生の男子のグループを呼び寄せて、フラフープを使って飛び込みの練習をする旨を述べました。

これを受けて、一年生の男子生徒12名のうち8名が、この練習を行うことにしましたが、4名は加わりませんでした。

Bは、本件プールの最端部から約2mの位置のプールサイドに立ち、フラフープを、水面上、スタート台とほぼ平行に、水面と垂直よりもやや進行方向に傾けて立てる形で差し出しました。

そして、上記生徒8名が、スタート台からそのフラフープをくぐって飛び込むという練習を、原告Xから順にそれぞれ1回行いました。

原告Xは、このような飛び込みの練習をしたのは初めてでした。

原告Xは、1回目の時に、深く潜ってしまい、怖いと思ったことから、2回目の飛び込みに際しては、もう少し浅く飛び込もうと考え、Bに対し、フラフープの位置を少し高くするように頼みました。

そして、原告Xは、Bに対し、やはり少し下げるよう頼み、フラフープの高さを調整した上で、フラフープをくぐって飛び込んだところ、プールの底に頭部を衝突させ、第5頸椎を圧迫骨折し、頸髄損傷の傷害を受けました。

その結果、原告Xは四肢体幹機能障害を生じ、その後遺障害等級は1級と認定されました。

裁判所の判断

Y教諭の安全配慮義務違反の有無について

裁判所は、

「Y教諭は、出張に出掛けるため、プールサイドを歩いて、プールの出入口に向かった際、三年生のBが、二・三年生の男子は第三ないし第五コースで練習していたにもかかわらず、それに参加せずに出入口付近にある倉庫の前にいるのを見掛けた。そして、Bがなぜ練習に参加していないのか不思議に思い、注意しようかと考え、階段の所からガラス越しにBの挙動を見たものの、結局、一々注意することもないと考え、そのまま職員室に向かった。その際、Y教諭が、Bがフラフープを持ち出していたことを認識していたものと推認されるところ、そのフラフープは、倉庫に保管されていたものであり、A中学校の水泳部の練習においては使用されていなかったというのである。

このように、Y教諭は、水泳部員であるBが、参加すべき練習には参加せず、倉庫に保管され、水泳部の練習においては使用されていなかったフラフープを持ち出すという、水泳部の他の生徒とは明らかに異なる行動に出ていたことを認識していたのである。」

との事実認定をした上で、

「こうしたことに、もともと水泳は、時として、生命に対する危険を生ずるおそれもあるスポーツであることを併せ考慮すると、水泳部の顧問として当日の練習に立ち会い、Bの上記行動を認識したY教諭としては、Bに対し、上記行動を注意するなどした上で、持ち出していたフラフープの使用方を問い、その適切な使用方法を教示するか、事情によってはその使用を禁止するなどして、生徒が危険な行為に及んだり、生徒に危険が生じたりしないように、生徒の身体の安全に配慮すべき注意義務があったものというべきである。」

とY教諭が負っていた注意義務の内容を示しました。

そして、裁判所は

「ところが、Y教諭は、階段の所からガラス越しにBの挙動を見ただけで、Bに対し、上記の行動を注意したり、フラフープの使用方を問うこともなく、そのまま階段を上り、職員室に向かったというのである。

そうだとすれば、この点において、Y教諭には、上記で説示した注意義務に違反する過失があったというべきである。」

と判断しました。

この点に関し、被告中野区及び同東京都は、

「それまで水泳部の練習においてフラフープが使用されたことはなかったことから、Y教諭は、Bがそれを飛び込みの練習に使用するとは考えられなかったのであって、それを予測することは不可能であった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「そうだとすれば、なおさら、Bが水泳部の他の生徒とは明らかに異なる行動に出ていたことを認識していたY教諭としては、Bが持ち出していたフラフープの使用方に格別の注意を払うべきであったというべきである。また、水泳というスポーツが、時として生命に対する危険を生ずるおそれを内包しているものであり、現に、水泳事故等の防止に関し、平成6年5月18日文部省から『水泳等の事故防止について』との通知が出され、これを受けて、同年6月10日各学校に対し通知されたりしており、Y教諭もその通知を読んでいた。そして、こうした措置は毎年のように取られていたというのである。」

として、

「被告中野区及び同東京都の上記主張を採用することはできない」

と判断しました。

また、被告中野区及び同東京都は、

「本件事故は、原告Xの油断又は過失が原因となって生じたものであり、Y教諭の行為との間に因果関係はない」

と主張しました。

これに対しても、裁判所は

「Y教諭には、Bが持ち出していたフラフープの使用方を問い、事情によってはその使用を禁止するなどの注意義務を怠った過失が認められるところであり、本件事故は、原告Xが、そのフラフープをくぐって飛び込んだ結果生じたものであるから、Y教諭の上記過失と本件事故との間に因果関係があることは明らかである。」

として、

「被告中野区及び同東京都の上記主張も採用することはできない。」

と判断しました。

以上より、裁判所は、

「Y教諭には、その職務行為上の注意義務違反が認められ、本件事故と上記注意義務違反との間に因果関係が認められるというべきであるから、被告中野区には国家賠償法1条1項に基づき、被告東京都には同法3条1項に基づき、原告Xに生じた損害を賠償すべき責任がある」

と結論づけました。

過失相殺の可否及びその割合について

被告中野区及び同東京都は、

  • 本件飛び込みは、原告Xが自らの意思と判断により積極的に行ったものである
  • 本件事故は、原告Xが、フラフープの位置を高くするようBに求めたため、生じたものである
  • 原告Xは、飛び込みの危険性を認識し、飛び込みによる事故を回避できる能力を有していた

として、

「大幅な過失相殺が認められるべきである」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

  • 本件飛び込みは、三年生の部員であるBが、一年生の男子のグループを呼び寄せて、その持ち出したフラフープを使って飛び込みの練習をする旨を述べ、これを受けて、原告Xら一年生の男子生徒が行ったものであって、原告Xが自らの意思と判断により積極的に行ったものと評価することはできないというべきである。この点、本件事故日に練習に参加していた一年生の男子生徒12名のうち4名がその練習に加わらず、また、本件飛び込みは、参加した生徒を一巡した後の2回目のものであったことも認められるが、そうした事情は、フラフープを使った飛び込みの練習を強制されなかったことをうかがわせるにとどまるものであって、上記認定を覆すものではないというべきである。
  • 原告Xは、本件飛び込みに際し、Bに対し、フラフープの位置を少し高くするよう頼むなどして、自らフラフープの高さを調整したことが認められる。しかしながら、そうした調整、とりわけフラフープの位置を高くしたことが、本件事故に寄与したかどうか、また、寄与した度合いについては、必ずしも明らかでない。かえって、原告Xは、1回目に飛び込んだ時、深く潜ってしまい、怖いと思ったことから、本件飛び込みに際しては、もう少し浅く飛び込もうと考え、そうした行動に出た旨供述しているところであって、この供述は、当時の心境を語るものとして信用することができる。そうすると、原告Xは、本件事故のような事態が生じないよう、注意を払っていたものというべきである。
  • 原告Xは、小学校一年生のころから、スイミングスクールのコーチから、飛び込みの仕方について、構え方や手首の返し方等の指導を受けていたこと、フラフープをくぐって飛び込むという練習は、原告Xから順に行われたものであったことのほか、原告Xは、水泳については、同学年の者の中では相当高いレベルの技術を有していたことが認められ、飛び込みの危険性も認識し、それによる事故を回避できる能力を一定程度有していたものと推認される。しかしながら、原告Xは、本件事故時まで、フラフープを使った飛び込みの練習をしたことはなかったというのであるから、本件飛び込みの危険性を認識して、それによる事故を回避できる能力まで有していたかどうかは、明らかではないというほかない。

とし、

「こうしたところに加え、本件事故に関する一切の事情を総合考慮すると、他に特段の主張、立証がされていない本件においては、原告Xの損害額の算定に当たり、本件事故の発生について斟酌すべき原告Xの過失は認められないというべきである。」

として、

「被告中野区及び同東京都の前記主張は採用できない。」

と判断しました。

本件における特殊性

プールへの飛び込み事故については複数の裁判例が存在します。

それらは学校の授業中の事故であることが多いのですが、本件では部活動の練習中の事故であるという点で特殊だといえます。

また、本件では顧問教諭が指示した練習内容ではなく、上級生が下級生に指示した練習内容によって事故が発生しており、その点について顧問教諭の過失があったか否かが問われたという点でも特徴があります。

本件では、顧問教諭が上級生の行動を目撃しておきながら何ら注意・指導することがなかった点を問題視して、顧問教諭の注意義務違反を認定しました。

この結論自体は正当であると思いますが、もしこの顧問教諭が上級生の行動を目撃していなかったとしたら・・・と考えると、たとえ水泳部だからといっても、このような練習はやるべきではないということを周知していただきたいと思います。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top