公立高校水泳部の自主練習中、逆飛び込みをした部員がプールの底に頭を打ちつけて負傷した事故

2018.12.02 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成16年1月13日判決

事案の概要

本件は、東京都立X高等学校の水泳部の部員であった原告が、部活動後の自主練習の際、同校に設置されたプールの飛び込み台から逆飛び込みを行ったところ、プールの底に頭部を衝突させ、頸髄損傷等の傷害を負い、両上・下肢の機能に後遺障害が生じたことにつき、同校の校長及び水泳部の顧問教諭らに指導上の注意義務違反があったとして、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を求めた事案です。

原告は、平成10年4月、高校1年生の時に、主に体を鍛える目的で、友人の甲山とともに、X高校の必修クラブ(週1回授業の一環として行われるもの)の水泳クラブに入部し、高校2年生に進級してからは、課外クラブ(入部が義務でないもの)の水泳部に入部しました。

原告、スイミングスクール等に通った経験はなく、学校の授業程度でしか水泳の経験がなかったため、水泳の技能は低く、必修クラブに入部した時には、連続して25メートルを泳ぐことができませんでした。

原告は、本件事故当日ころには、連続して50メートル程度を泳げるようになっていました。

本件事故当時、水泳部の部員数は4人であり、水泳部の練習は、プールが使えない時期はウエイトトレーニングを行い、プールが使える時期はビート板を使ったキック、クロールの手の掻きを練習するプル、普通に泳ぐ形を、セット数を決めて繰り返すのが主でした。

特に年間の指導計画等はなく、原告は、他の部員より技能が劣っており、顧問教諭らも原告の水泳の技能が低いことを知っていたことから、ほかの部員とは別のメニューで練習を行うことにしていました。

原告は、冬川教諭から個別に指導をうけるなどして、主にクロールのフォームについて指導を受けていました。

練習は顧問の立ち会える日に行われていましたが、必ずしも練習開始から終了まで顧問が立ち会っているわけではありませんでした。

原告は、本件事故当日以前、逆飛び込みについて顧問教諭らから指導を受けたり,事故の危険性について説明を受けたことはありませんでした。

本件事故当日は、夏川教諭が練習に立ち会い、9月の大会に向けて、ターンの練習や逆飛び込みによるタイム測定等を行いました。

原告もスタート台から逆飛び込みを行いました。

このとき、原告は腹打ちをしていました。

夏川教諭は、原告らが逆飛び込みをするのを見ていましたが、逆飛び込みに関する事故の危険性や逆飛び込みの基本動作などについて、特に注意や説明はしませんでした。

練習の終了後、夏川教諭は、水泳部員全員をプールサイドに集合させ、「明日は飛び込みスタートとターンの練習を行う。」と告げました。

原告と甲山は二人で居残って逆飛び込みの練習をしようと思い、夏川教諭に対し、原告と甲山の二人が居残り練習をすることを申し出ました。

これに対し、夏川教諭は、居残り練習の内容や逆飛び込みについて特に注意や指示を与えることなく、居残り練習を許可しました。

原告は、甲山とともに本件プールに残り、それぞれ逆飛び込みの練習を行いました。

その際、夏川ら顧問教諭の練習への立会いはありませんでした。

居残り練習の1回目の飛び込みの際、原告は、腹打ちをしなかったので、うまく飛び込めたと思い、次も同様の飛び込み方をしようと考えました。

2回目の飛び込みの際、原告は、プールの底に指を擦り、次いで頭部を衝突させました。

原告は、本件事故当日、都立病院で手術を受け、同病院に同日から平成12年5月9日まで入院しました。

その後、原告は、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院に同年5月9日から平成13年5月21日まで入院し、この間、平成13年2月28日に「頸髄損傷による両上肢機能障害(1級)、両下肢機能障害(1級)」の障害につき、症状固定の診断を受けました。

原告は、上記後遺障害のため、自力で立つことも歩行も不可能であり、首から上と介具を用いてわずかに手を動かせるのみの状態となりました。

裁判所の判断

顧問教諭の過失について

裁判所は、

  • 逆飛び込みによる事故の危険性は低いとは言えず、ふざけたり、特異な飛び込み方をした場合に限らず、普通に技術の上達を目指す段階でも起こりうること
  • 事故により重大な障害を負う結果になることも少なくないこと
  • 夏川教諭は、前任校において、逆飛び込みの事故で下半身麻痺の障害を負った事例について聞いていたのであり、また、本件事故以前より、文部省や東京都により飛び込みの際に発生する事故の危険性と安全対策について周知徹底するよう措置がとられていたこと

を踏まえ

「夏川教諭は、本件事故当時、前記のような逆飛び込みにかかわる事故の危険性につき認識し得たと認められる。」

とした上で、

「夏川教諭は、水泳部の顧問教諭として、逆飛び込みの危険性について正確な認識を持ち、逆飛び込みの練習をする際には、部員らに逆飛び込みによる事故の具体例を示すなどしての危険性を周知させ、入水角度が深くなりすぎないように指導するなど、危険な飛び込み方をしないよう注意を促すべきであったし、特に、逆飛び込みに関する知識・経験が乏しい部員が逆飛び込みをする場合には、逆飛び込みの基本動作などを十分に指導し、安全に関する指導が十分に行き届いていない場合には、顧問教諭が立ち会って監視するなどして、事故防止に努め、生徒の安全を保護すべき一般的注意義務があった。」

と注意義務の内容を示しました。

また、裁判所は

「本件事故は、課外のクラブ活動の居残り練習の際に発生した事故であるところ、このような課外のクラブ活動は、本来は生徒の自主性に委ねられるべき部分が大きく、まして本件のような居残り練習においては顧問教諭における時間的制約なども勘案すると、一般的には顧問教諭の立会による指導までは予定されていないし、そこまですべき義務はないというべきである。

しかしながら、具体的状況の下で事故発生の危険性を予見することが可能な場合には、顧問教諭は、前記安全保護義務に照らし、上記のような居残り練習の場合といえども練習に立ち会うか、それに代わる適切な措置をとるべきである。」

との見解を示しました。

そして、本件について、

  • 本件事故当日の練習中に、原告を含む水泳部員らは逆飛び込みの練習を行っており、夏川教諭もそれを見ていたこと
  • 夏川教諭は、明日もスタートの練習をすると告げていたこと

からすれば、

「同教諭は、甲山と原告が居残り練習を申し出た時点で、原告が引き続き逆飛び込みの練習をすることは予見できたというべきであり、前記のような原告太郎の技量、経験及び本件事故当日に同教諭が原告に対し特に安全指導や注意喚起をしていないことからみて、原告が顧問教諭の立会指導なしに逆飛び込みの練習をすれば未熟な飛び込み方法により事故が発生する危険性があることも認識可能であったと認められる。」

として、

「したがって、このような状況の下においては、夏川教諭は、原告の居残り練習に立ち会ってさらに監督指導するか、若しくはそれができないとしても原告に対し、逆飛び込みの練習を禁止するか、少なくとも、逆飛び込みの事故について余り深い角度で入水しないことや入水後に指先を上向きにすることなどを具体的に示して、事故防止に関する注意を促しておくべき注意義務があったと言える。

それにもかかわらず、夏川教諭は、原告に対し、逆飛び込みの事故の危険性や基本動作の留意事項について注意を促したり、立会いのない飛び込みを禁止するなどの措置を一切行わないまま、練習を許可し、プールから立ち去ったのであるから、同教諭には、水泳部顧問教諭として上記注意義務に違反した過失があったと認められる。」

と夏川教諭の過失を認め、

「したがって、被告は、国家賠償法1条1項に基づき、原告に対して損害を賠償する義務を負う。」

と判断しました。

過失相殺について

他方で、裁判所は

  • 原告は、本件事故当時高校2年生であり、相当の事理弁識能力を有していたと認められること
  • 本件は、部活動後の自主練習中の事故であり、相当程度生徒の自主性が尊重されるべきである反面、生徒としても自ら事故に対する注意を払う必要があったというべきであること
  • 逆飛び込みは、ある程度水泳の技術を身につけた者が競泳の練習として行うことが多いのは公知の事実であり、原告は、自らの技術を考慮して、逆飛び込みの練習をする前に、自ら夏川教諭や甲山らに聞くなどして逆飛び込みの基本動作を教わったり、場合によっては習得が不十分なうちは、教諭の立会いのない場での逆飛び込みの練習を控えるなどし、原告自身で事故防止に努めることも可能であったこと

等の点からみて、

「原告にも、本件事故を回避すべき注意義務があったというべきである」

とした上で、

「原告は、夏川教諭らから逆飛び込みの基本動作等を一切習うことなく、技術の不十分なままに教諭らの立会いのない居残り練習の時間に逆飛び込みの練習を行っているのであるから、原告には本件事故発生に関し、過失があったと言わざるを得ない。」

と原告の過失を認定し、

「原告の上記過失と、夏川教諭の過失、本件事故の態様等の本件の事実関係を勘案すると、原告の過失割合は4割と認めるのが相当である。」

と判断しました。

顧問教諭の注意義務は練習後の自主練習にも及ぶ

本件は、自主練習における顧問教諭の立会義務を否定した上で、自主練習に際して尽くすべき教諭らの注意義務について論じ、教諭らの注意義務違反を認めました。

他方で、自主練習の事故であることを過失相殺の事情として大きく斟酌しました。

このことは、生徒の自主的活動である部活動の全体練習終了後の自主練習であっても、事案によっては顧問教諭の安全配慮義務が及んでいることを示しています。

部活動における練習だけでは物足りず、練習終了後に自主練習に励む部員も少なくないと思います。

その際に事故にあってけがをしたとしても、自己責任だと考えて(もしくは自己責任だと言われて)、何らの補償も求めず泣き寝入りしているケースもあるのではないでしょうか。

心当たりのある方はぜひご相談ください。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top