水泳教室に参加した練習生が水泳中に熱中症に罹患して死亡した事故におけるNPO法人の責任

2018.12.18 熱中症・自然災害

大阪地方裁判所平成29年6月23日判決

事案の概要

本件は、平成25年8月14日、原告A(父)・原告B(母)の子である亡Cが、被告NPO法人が開催し、当時の代表者であった被告Eが指導を担当した水泳教室において、練習中に意識を消失し、緊急搬送先の病院で死亡した事故について、

  • 主位的には、被告Eが亡Cの体調を管理すべき注意義務等に違反したために亡Cが死亡した
  • 予備的には、仮に上記注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係が認められないとしても、亡Cが死亡しなかった相当程度の可能性を侵害された

などとして、被告NPO法人については特定非営利活動促進法8条・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条又は債務不履行に基づき、被告Eについては不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案です。

亡Cは、平成元年生まれの男性で、生後9か月時に結節性硬化症と診断され、同疾患によって併発する自閉傾向・中等度精神遅滞等の精神障害があり、平成22年9月7日に精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令6条3項所定の障害等級1級と記載された精神障害者保健福祉手帳の交付を受けました。

被告NPO法人は、平成18年6月に設立された特定非営利活動法人です。

被告NPO法人は、特定非営利活動に係る事業として、

  1. 障害者に対するスポーツのインストラクト事業
  2. 障害者及びそれらに係る者のストレス緩和のための各種教室・講座開催事業
  3. スポーツに関する各種イベントの企画・運営・管理事業
  4. スポーツ教室等への指導者の派遣及び選手育成事業

を行っており、障害者に対する水泳教室や剣道教室を開催していました。

なお、被告NPO法人は、プールを所有しておらず、市町村等が設置・管理するプールを利用するなどして上記水泳教室を開催していました。

被告Eは、平成25年8月当時、被告NPO法人の代表者であり、被告NPO法人が開催する有償の水泳教室の指導者であって、平成18年6月から同水泳教室の指導を行っていました。

被告Eは、一般財団法人日本スイミングクラブ協会のA級インストラクターの資格を有しており、平成10年頃に公益財団法人日本障害者スポーツ協会公認の上級障害者スポーツ指導員の資格を取得しました。亡Cは、平成19年頃、被告NPO法人が開催する水泳教室に入会しました。被告Eは、亡Cが水泳教室に入会した当初から、亡Cの指導を担当していました。被告Eは、平成23年1月16日、大阪障害者スポーツ指導者協議会が主催する、発汗時の脱水とその対処法についての知識の取得を目的とする研修会に参加しました。被告Eは、平成25年当時、暑熱環境下での運動に際して熱中症の発症に注意しなければならないこと、水泳は発汗量が多い運動であるため水分補給が特に重要であること等の知識を有していました。

被告Eは、平成22年頃から練習中にため息をついた練習生に対して50円の罰金を課していたところ、平成25年1月頃には「金ブタのルール!」という題の紙を練習生に渡すなどして、練習生に対し、「無理」、「しんどい」等の「マイナスの言葉」を用いた場合には50円、「無断欠席」、「無断遅刻」には200円の罰金をそれぞれ課していました。

平成25年は例年にない猛暑で、同年7月下旬~8月下旬にかけて、降水量も少なく、気象庁も「高温注意情報」を発表し、新聞やテレビにおいても熱中症への注意が呼び掛けられていました。

亡Cは、同月8日午後6時頃~午後8時頃、被告NPO法人がFアリーナのプールで開催した水泳教室に参加しました。

上記水泳教室が開催されていた時間帯のFアリーナのプールは、室温が約34.5℃、水温が約31.5℃でした。

亡Cは、同日、被告Eの指導の下、ウォーミングアップとして200mを約5分間かけて泳ぎ、次に、クロールで100mを10本泳ぐ練習(2分間で1本泳ぎ、余った時間は休憩することができる。)、その次に専門種目(亡C及びIの専門種目はバタフライ)で100mを10本泳ぐ練習(約2分間で1本泳ぎ、余った時間は休憩することができる。)を行うなど、合計4500mの距離を泳ぎました。

同日の水泳教室には、元高校体育教師であるPコーチが参加し、Pコーチが上記練習メニューを考案しました。

練習生は、同日、上記練習メニューを十分にこなすことができませんでした。

亡Cは、同月10日午前10時40分頃~午後1時頃、被告NPO法人がFアリーナのプールで開催した水泳教室に参加しました。

上記水泳教室が開催されていた時間帯のFアリーナのプールは、室温約34.5℃、水温約31.5℃でした。

被告Eは、同日の水泳教室において、遅刻してきたIを叱責して、同日午後0時30分頃、練習に立ち会っていた原告Bにその後の練習の監督を依頼し、上記水泳教室に参加していた練習生を残してその場を立ち去りました。

亡Cを含む練習生は、同月12日、被告Eに対して土下座をしました。

被告NPO法人が開催する水泳教室は、例年、8月14日頃には開催されていませんでしたが、亡Cが同月17日になみはやマスターズ水泳選手権(健常者と障害者が一緒に泳ぐ大会)に出場する予定であり、Iも同日からINAS(アイナス:国際知的障害者スポーツ連盟)がニューカレドニアで開催する大会に出場する予定であったことから、同月14日、Fアリーナにおいて本件水泳教室が開催されました。

亡Cは、同日の朝、体調に変わったところはなく、職場を出て同日午後6時頃にFアリーナのプールに到着した際にも、少なくとも外観上、体調不良は認められませんでした。

本件水泳教室(指導担当者は被告E)には、亡Cの他に、練習生として、G、H、Iが参加しており、練習生の親として原告らとHの母であるJが練習に立ち会っていました。

亡Cは、本件水泳教室に参加した練習生の中で、Gに次いで泳力がありました。

同日午後6時頃のFアリーナのプールは、外気温が約37.2℃、室温が約36.0℃、水温が約32.0℃でした。

また、Fアリーナのプールでは湿度が計測されていませんでしたが、同プールが温水プールであること、同じく温水プールであるNプールの平成25年8月1日、2日、4日、9日の湿度が60~70%であったことからすれば、同月14日のFアリーナのプールの湿度も相当程度に高かったものと推測されました。

被告Eは、本件水泳教室の練習メニューを決める際、Fアリーナのプールの水温が他のプールと比較して高めに設定されていること、室温が高いことを認識していました。

被告Eは、本件水泳教室において、Pコーチが後日練習に参加した際に練習生が練習メニューをこなすことができるようにするため、平成25年8月8日に練習生がこなすことができなかった練習メニューを行わせることにしました。

被告Eは、本件水泳教室において、水分補給を禁止することはなく、水分補給をするように声を掛けることはありましたが、休憩をするための時間を設けるなどの措置はとっていませんでした。

亡Cは、本件水泳教室において、被告Eの指導の下、ウォーミングアップとして200mを約5分間かけて泳ぎ、次に、クロールで100mを10本泳ぐ練習(2分間で1本を泳ぎ、余った時間は休憩することができる。)、その次に専門種目(バタフライ)で100mを10本泳ぐ練習(2分間で1本を泳ぎ、余った時間は休憩することができる。)を行いました。

被告Eは、亡C及びIが専門種目(バタフライ)の6~7本目を泳いだ辺りで、亡C及びIに対し、リズムが遅いのでフォームを修正するようになどと言って、プールサイドでシャドーストロークを行うように指示しました。

亡C及びIは、被告Eの上記の指示に従い、プールサイドでシャドーストロークを行いました。

被告Eは、G及びHが専門種目の10本目をスタートした時点で、亡C及びIに対し、シャドーストロークを中断してバタフライで100mを泳ぐように指示しました。

Iは、被告Eの上記指示を受けてすぐに準備を始めました。

これに対し、亡Cは、被告Eの上記指示を受けたにもかかわらず、近くに置いてあったボトルからスポーツドリンクを少し飲んだ上で、プールサイドに設置されていたウォータークーラーで水を飲むなどしていました。

その後、原告Bは、コースに戻ってきた亡Cに対し、「Iはもう行ったで。」などと声を掛けました。

亡Cは、原告Bの呼び掛けには反応せず、プールに入り、被告Eから指示されたバタフライではなくクロールで泳ぎ始めました。

被告Eは、亡Cが指示した泳法とは違う泳法で泳ぎ始めたことを受け、原告Bに対し、「あれっ、発作かな。」などと言いました。

これに対し、原告Bは、亡Cが指示された泳法で泳ぎ始めた原因がてんかん発作だったかどうかは分からなかったため、明確な回答はせず、「いつもより速い」などと言いました。

亡Cは、プールの対岸でターンして合計100mを泳いだ辺りでプールの中にいた練習生に止められ、プールサイドに引き上げられました。

亡Cは、プールサイドに引き上げられた際、意識がなく、仰向けに寝て、肘のところで手を90度くらい曲げ、足を伸ばし、小刻みに震えるような様子でした。

プールサイドに横たわっている亡Cに対し、原告Bは、亡Cの顔の近くで亡Cの体を触りながら「C、C、大丈夫。」などと声を掛け、被告Eは、けいれんがてんかん発作によるものであると考え、亡Cの胸と腕をさするなどしており、原告A及びJは、亡Cの足をさするなどしていました。

また、原告Bは、亡Cに対し、スポーツドリンクを飲ませようとしましたが、亡Cがむせたため、スポーツドリンクを飲ませることはできませんでした。

なお、被告Eは、亡Cの体温の確認などは行いませんでした。

亡Cがプールサイドに引き上げられた直後(平成25年8月14日午後6時58分頃)、Fアリーナの監視員が、原告らに対し、救急車を呼ぼうかなどと声を掛けました。

これに対し、原告Bは、ちょっと待ってくださいなどと発言しました。

その後、被告Eは、Fアリーナのコーチ室に行き、同日午後7時頃、救急搬送が依頼されました。

救急隊は、平成25年8月14日午後7時9分頃、亡Cが倒れている現場に到着しました。

救急隊が現場に到着した際、亡Cは、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)300(刺激をしても覚醒しない状態で、痛み刺激に全く反応しない状態)で、プールサイドに仰向けの状態で横になっており、けいれんが認められました。

亡Cは、平成25年8月14日午後7時13分頃、救急車に乗せられ、同日午後7時33分頃、K病院に搬送されました。

亡Cは、K病院に搬送されるまで、JCS300の状態でけいれんが継続しており、搬送中の体温は39.5℃、K病院搬送時の体温は41.9℃でした。

亡Cは、同日午後7時44分頃、心停止となりました。

亡Cは、平成25年8月14日午後7時43分頃、K病院において、血液検査を受けました。

本件血液検査の結果は、次のとおりであった。

  • NA(血清ナトリウム:脱水症状の有無の検査に有効な指標)150mEq/l(基準範囲:134.5~148.4mEq/l)
  • AST(肝機能障害の有無の検査に有効な指標)64u/l(基準範囲:7~38u/l)
  • LDH(肝機能障害の有無の検査に有効な指標)300u/l(基準範囲:101~202u/l)
  • Cr(CRE:腎機能障害の有無の検査に有効な指標)2.3mG/Dl(基準範囲:0.75~1.24mG/Dl)
  • CK(CPK:筋原性酵素)611μ/l(基準範囲:50~200μ/l)
  • Dダイマー(血液凝固異常の有無の検査に有効な指標)1.16μG/ml(基準範囲:0~0.72μG/ml)

亡Cは、平成25年8月14日午後8時21分、死亡しました。

U医師は、平成25年8月15日午前8時10分頃、担当警察官から依頼を受け、亡Cの解剖を行いました。

U医師は、上記解剖の結果、亡Cの直接死因はてんかん重積症であると判断しました。

裁判所の判断

被告Eの体調管理についての注意義務違反について

裁判所は、以下の事実を認定しました。

  • 被告Eは、平成10年頃に上級障害者スポーツ指導員の資格を取得し、平成18年6月頃から障害者の参加する水泳教室の指導を担当しており、平成25年当時、暑熱環境下での運動に際して熱中症の発症に注意しなければならないこと、水泳を行うに当たっては水分補給が特に重要であること等の知識を有していた。
  • 平成25年は例年にない猛暑で、同年7月下旬~8月下旬にかけて、降水量も少なく、気象庁も「高温注意情報」を発表し、新聞やテレビにおいても熱中症への注意が呼び掛けられていた。そして、本件水泳教室の練習環境は、外気温が37.2℃、室温が36.0℃、水温が32.0℃であり、湿度も相当高かった。水泳指導教本では、屋外プールでの競技について、プールの水温と気温の合計が65℃以上であれば、競技を行う環境としては「不適(日射病や熱射病に注意)」とされており、プール室温とプール水温の合計が68℃になる本件水泳教室の環境は、競技に近い強度の水泳の練習を行うには適さない環境であったといえる。
  • そして、被告Eは、平成25年8月14日のFアリーナのプールの水温が他のプールよりも高く設定されていること、同日の室温が高かったことを認識していた。
  • 亡Cの大会でのタイム(100mバタフライで1分17秒)等からすると、本件水泳教室で実施された本件練習メニューは、亡Cにとって練習強度が相当高いものであったことを推認することができる。被告Eは、本件練習が亡Cにとって練習強度が相当高いものであったことを認識していた。
  • また、被告Eは、平成25年1月頃から、被告NPO法人が開催する水泳教室の練習生に対し、「金ブタのルール!」と題する罰金の制度を課しており、同年8月10日には、遅刻してきた練習生を叱責して、水泳教室の監督を原告Bに任せてその場を去り、同日、原告Bを含む練習生の親に対し、コーチを辞めることも考えていること等を記載した電子メールを送信した。亡Cを含む練習生は、同月12日、被告Eに対し、土下座をして、コーチを続けてもらえるように懇願した。以上の事実を総合すれば、本件水泳教室において、亡Cを含む練習生は、被告Eの指示に異議を述べたり、指示された練習の途中で適宜休憩したりすることなどはし難い状況であったことを推認することができる。
  • そして、平成25年当時、一般に、熱中症の危険性が認識され、熱中症予防のための「熱中症予防運動指針」が示され、練習生に適宜休息をとらせて自由に水分補給をすることができる環境を整えることの重要性が認識されるなどしており、特に、障害者スポーツ指導においては、練習生に対して具体的な指示を出して休息させることの重要性が指摘されていた。

以上の事実等に照らし、裁判所は、

「本件水泳教室において精神障害者である亡Cの指導に当たっていた被告Eは、本件水泳教室の指導に当たり、亡Cに対し、その生命・身体の安全を確保するよう配慮すべき義務の一環として熱中症予防に努めるべき注意義務を負っており、具体的には、一定時間ごとに強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとるべき注意義務を負っていたというべきである。」

とした上で、

「それにもかかわらず、被告Eは、本件水泳教室において、一定時間ごとに亡Cを含む練習生を強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっておらず、上記注意義務に違反した。」

と判断しました。

なお、原告らは、

「本件水泳教室の練習環境等からすれば、被告Eは、本水泳教室において、通常よりも軽度の練習にとどめるべき注意義務を負っていた」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

  1. 亡Cが平成25年8月8日に本件水泳教室とほぼ同じ練習環境で本件練習メニューの練習を行っていたこと
  2. Fアリーナのプールは同月14日の時点で水温・室温の表示はされておらず、被告Eは、本件水泳教室の練習メニューを決める際、Fアリーナのプールの水温が他のプールと比較して高めに設定されていること、室温が高いことを認識していたことにとどまること
  3. 本件水泳教室開始時、亡Cの体調に特段の異変が認められなかったこと
  4. 同月8日にこなすことができなかった本件練習メニューを再度行うことによって亡Cを含む練習生の泳力強化を図るという目的それ自体は、不合理なものとはいい難いこと

に照らせば、

「被告Eが本件水泳教室において本件練習メニューを実施したこと自体は、法的な注意義務に違反したとまではいえない。」

と判断しました。

被告Eの救護処置についての注意義務違反について

原告らは、

「被告Eは、亡Cがプールサイドに引き上げられて意識がない状態でのけいれんが認められた時点で、亡Cが熱中症を発症していることを疑い、速やかに救急搬送を依頼した上で、適切な応急処置を行うべきであった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

  • 亡Cは、平成23年以降、被告NPO法人が開催する水泳教室において、複数回てんかん発作(主として脱力発作であると思われる。)を起こしており、練習中に指示を聞かなくなったり、泳法が途中で変わったりすることがあった。そして、本件水泳教室において亡Cが被告Eの指示とは異なる泳法で泳ぎ始めたこと等は、従前のてんかん発作の症状と一部共通するものであるといえる。
  • 原告らは、本件水泳教室で亡Cに認められたけいれんの態様がてんかん発作におけるけいれんの態様とは異なるものであった旨主張するが、一般に、けいれんの態様の違いによってその原因を判断することは必ずしも容易ではなく、本件の現場において、亡Cのけいれんがてんかん発作によるものか熱中症によるものかを見分けることは困難であったといえる(現に、原告Bも亡Cの救急搬送を一度断っている)。

として、

「本件の現場における判断として、被告Eが亡Cのけいれんがてんかん発作によるものであると考えたことはやむを得ないというべきである」

と判断しました。

また、裁判所は

「被告Eは、亡Cがプールサイドに引き上げられてから約2分後に救急搬送を依頼し、亡Cがプールサイドに引き上げられてから約10分後には救急隊員が現場に到着したのであるから、相応の対処をしていたといえる。」

と判断しました。

以上より、原告らの上記の主張は排斥しました。

因果関係について

亡Cの死因について

裁判所は

  • 亡Cは、けいれんを起こす直前、わざわざ遠くのウォータークーラーまで水を飲みに行ったり、被告Eの指示と異なる泳法で泳ぎ始めたりするなどしたが、これらの事情は、せん妄状態や奇異行動といった熱中症の前駆症状であった可能性がある。
  • 本件血液検査の結果、肝機能異常(AST、LDHが基準値よりも高い値を示している。)、腎機能異常(Crが基準値よりも高い値を示している。)、CK及びDダイマーが基準値よりも高い値を示していることが認められ、これらの所見は、重症度Ⅲ度の熱中症の典型的な所見であるといえる。
  • 本件水泳教室の練習環境及び練習メニューは、熱中症を誘発しやすいものであったといえる。
  • てんかん重積症の予後因子として、てんかん重積症の原因(急性脳炎や脳症であること)、発作持続時間(少なくとも45分間以上発作が持続したこと)等があるところ、亡Cは急性脳炎や脳症を発症しておらず、けいれん発生から50分足らずで心停止に至ったという経緯からすれば、てんかん重積症が直接死因とは考え難い。

として

「以上の事情等を総合すれば、亡Cの死因は熱中症であったことを推認することができる。」

と判断しました。

これに対し、被告らは、

「亡Cの死因はてんかん重積症である」

と主張し、死体検案書及びU医師作成の回答書にはこれに沿う記載がありました。

しかし、裁判所は

  • 上記死体検案書及び上記回答書は、亡Cに普段からけいれん発作が認められていたことを前提としているところ、亡Cに普段からけいれん発作が認められていたという事実はない。
  • 仮にてんかん重積症が亡Cの直接死因であったとすると、本件血液検査の結果が熱中症の典型的な所見であったことやけいれん発生から50分足らずで心停止に至ったことを合理的に説明することができない。

として、

「上記死体検案書及び上記回答書の上記記載部分を採用することはできず、他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。」

と判断し、被告らの上記の主張は排斥しました。

因果関係の有無について

原告らは、

「練習生に強制的に給水させるなどの措置をとることが熱中症予防に有効であることが一般に認識されていることなどからすれば、仮に、被告Eが、本件水泳教室において、亡Cに対し、一定時間ごとに強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっていたならば、亡Cが熱中症を発症することもなく、亡Cが死亡することもなかった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

  • 一般に、強制的に給水させることは熱中症予防のために有効な方策の1つではあるものの、熱中症発症には練習環境や運動強度も関係しており、強制的な水分補給によって確実に熱中症を回避することができたとまではいい難い。
  • 本件で、亡Cには、突如としてせん妄状態や奇異行為が認められ、その直後に意識がない状態でのけいれんがあり、そこから50分足らずで心停止に至っている。このような熱中症の急激な発症・進行からすれば、仮に、被告Eが、本件水泳教室の練習環境下において本件練習メニューを実施する中で、練習生を強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっていたとしても、亡Cの熱中症の発症及び死亡を回避することができたことが高度の蓋然性をもって認められるとはいい難い。

として、

「被告Eの前記注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係は認められない。」

と判断しました。

相当程度の可能性の侵害の有無について

裁判所は、

「本件水泳教室に練習生として参加した精神障害者である亡Cの生命・身体の安全は本件水泳教室の指導を担当していた被告Eにその大部分が委ねられていたものといえることに照らせば、被告Eは、本件水泳教室において、亡Cに対し、亡Cの生命・身体を保護すべき注意義務を負っていたというべきである。」

とした上で、

「上記のような被告Eと亡Cとの関係、特に被告Eの専門性、亡Cの被告Eに対する依存性等に照らせば、被告Eが適切な熱中症対策措置を講じていたならば亡Cがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性は、法律上保護される利益であるということができる。」

としました。

そして、裁判所は

「一般に、強制的に給水させることは、熱中症予防のために有効な方策の1つであるとされており、熱中症予防に一定の効果が認められている。

上記の知見を前提にして前記認定事実、特に亡Cがプールに戻る直前の状況等を総合すれば、仮に、被告Eが、本件水泳教室において、亡Cに対し、一定時間ごとに強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっていたならば、亡Cがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったことを推認することができる。」

として、

「被告Eの前記の注意義務違反により亡Cがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が侵害されたというべきである。」

と判断しました。

過失相殺について

被告らは、

「仮に、被告Eに注意義務違反があるとされる場合であっても、原告らの過失を考慮して、損害賠償の額が定められるべきである」

と主張しました。

実際に、原告らが練習生の親として本件水泳教室に立ち会って本件事故及びその前後の状況を目撃していました。

しかし、裁判所は、

「本件水泳教室においてどのようにして練習生に休憩させるかなどの事項は、専ら本件水泳教室の指導を担当した被告Eが検討・判断すべきことであるといえることに照らせば、原告らが本件水泳教室に立ち会っていたこと等から直ちに過失相殺を認めることは相当でない。

また、その他諸般の事情を考慮しても、過失相殺を認めるべき事情は認め難い。」

として、被告らの上記の主張は排斥しました。

高等裁判所での和解成立

報道によると、平成30年12月12日、大阪高等裁判所において、注意義務違反と死亡との因果関係を認めた上での和解が成立しました。

大阪高等裁判所は、被告Eの過失と亡Cの死亡との因果関係を認める見解を示したうえで、双方に和解するよう促したということです。

そして、被告Eが自らの過失により熱中症になって死亡したことを認め、被告NPO法人が和解金を支払うことなどで和解が成立しました。

そして、被告Eは和解の席で亡Cの両親である原告らに謝罪したということです。

亡Cの母親は取材に対して

「息子は帰ってきませんが、和解でようやく顔向けできます。水泳中に熱中症で命を落とす危険があるということを知ってもらいたい」

と話したとのことです。

より多くの方にこの事実を知っていただくために、本件裁判例を紹介したいと思います。

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