高校生が水泳授業中に逆飛び込みをしてプール底に頭部を強打し死亡した事故

2019.12.16 学校行事

東京地方裁判所八王子支部平成15年7月30日判決

事案の概要

本件は、原告らの子であるXが被告東京都の設置・運営する本件高校に入学し、第1学年に在籍していたところ、平成11年6月28日水泳の授業中にスタート台から逆飛び込みスタートをした際、本件高校に設置されたプールの底に頭部を衝突させ、頸椎粉砕骨折、頸髄損傷の傷害を負い、同年7月9日死亡したことにつき、原告らが民法415条ないし国家賠償法1条1項に基づき、被告に対し、損害賠償を請求した事案です。

Xは、小学校1年生であった平成元年7月から小学校2年生であった平成2年9月まで週に1回スイミングスクールに通っていたほか、小・中学校の授業で水泳指導を受けていましたが、本件高校に入学する以前に、逆飛び込みの指導を受けたことはありませんでした。

Xは、平成11年4月に本件高校に入学し、第1学年2組に在籍していました。

本件高校では、水泳の授業が、1学年から3学年まで3年間を通じて、水泳の技能を習得するとともに、水の安全についての知識や技術を身につけ、生涯にわたって水泳に親しむことができる態度や能力を養うことを目標として行うこととされていました。

平成11年度体育科授業計画では、1学年男子については、6月から9月まで、クロール・平泳ぎの技術を習得させること、水泳の特性を理解し、安全に留意しながら活動する態度を育てることを目標として、水泳授業が行われることになっており、具体的には、1学年男子の6月の授業は水慣れ、平泳ぎ・クロールの練習、泳ぎ込み、飛び込み技術のチェックが授業内容とされ、各人の泳力・飛び込み技術をチェックした上で、9月から各人の泳力に応じて、指導することになっていました。

スタートについては、生徒の能力に応じて段階的に取り上げる内容とされ、生徒個々の能力などを把握した上で安全を確認し指導するものと確認されており、具体的には、6月の段階では、2学期からの練習に向けて飛び込み技術をチェックすることとされており、生徒の飛び込みの技能がどの程度のものであるかを把握するため各自の能力に応じて飛び込みを行わせ、2学期には、飛び込みの危険性を説明した上で、プールサイドから各自の能力に応じて、腰掛け、立て膝、しゃがみこみ、中腰等の練習を行い、飛び込み技術を習得させるという計画でした。

6月28日、Y教諭は、午前8時40分ころプールサイドで出席点呼を行い、泳法各自自由で25メートル2往復を8本(800メートル)泳ぐことを説明しました。

授業参加者は、午前8時50分ころ準備運動をし、プールサイドから入水しました。

午前9時ころ、Y教諭は、生徒に、5コースから出発して、8コースまでの間を泳法自由で2往復する(100メートル)、それを1本として8本泳ぐこと、1本目はプール内からスタートし、2本目からは、飛び込める者は飛び込んでスタートすること、スタートするときには前後の者の安全に注意することを指示しました。

Y教諭は、1本目の100メートルを泳ぎ終え、午前9時11分ころ、生徒に後ろからついてくるようにいい、自ら5コースのスタート台から飛び込んで手本を示し、2本目の100メートルをクロールで泳ぎ始めました。

Y教諭の後に続いて、3人の生徒が1人ずつスタートしました。

Xは、午前9時13分ころ、Xの次の順番であったAに対し、「B(Xよりも先にスタートしていた)に追いつくから見てて」と言って、5コースのスタート台にのぼりました。

Xは、スタート台に両足を乗せ、腰を曲げて上半身を折り、両手を足下に伸ばした姿勢で構え、手を下から上に振りだして、スタート台を蹴り出しましたが、それまでのテストや授業でXが行っていた飛び込み方(フラットスタート)よりも、前方斜め上に向けやや高く飛び出し、頭を下向きにして、深く潜るような姿勢で、南側端壁から3メートルくらいの地点に入水しました。

入水角度が大きかったため、水しぶきが余り上がりませんでした。

Xは、入水後、プール底に頭部を衝突させ、第五頸椎粉砕骨折及びこれによる頸髄損傷の傷害を負い、入水した地点付近に、うつ伏せのまま手も足も脱力した状態で浮いてきました。

Xの次の順番で、Xの飛び込む様子を後ろで見ていたAは、Xの異常に気付き、すぐにプールに飛び込んでXのところに行き、Xを仰向けにして、体を支えました。

Y教諭は、本件事故の発生時、2本目の100メートル泳を生徒の先頭で、南側(スタート側)に向けて6コースの中央付近を泳いでおり、Xのスタートを見ていませんでしたが、異変に気付き、Aの後からXのもとに向かいました。

Xが体が動かないので支えるように訴えたので、Aら生徒とY教諭がXの頭部と背中の下側に手を入れて支え、プール内を移動し、Xをプールサイドに上げ、仰臥位にさせて毛布で保温しました。

Xは、同日午前9時56分ころ、救急車で搬送されて病院に到着し、同日入院しましたが、その後、喀痰、発熱及び乏尿等の症状が出現しました。

同年7月5日に第五頸部骨折箇所のプレート固定及び気管切開術を受けましたが、多臓器不全となり、十二指腸に穿孔が見つかり、手術を施行したものの、高カリウム血症、腹膜炎、敗血症などに罹患し、入院中の同月9日、穿孔性腹膜炎を直接の死因として死亡しました。

裁判所の判断

裁判所は、

  • プールにおける逆飛び込みの練習には、頸椎・頸髄損傷等の重大な結果を生じる事故を招く危険性があり、東京都教育委員会の発行する「体育活動に起因する事故防止の手引き高等学校編(平成2年3月)」(なお、上記手引きは各学校に配布され、教員間での回覧に供せられる類の資料である。)においても、逆飛び込みをしてプール底に頭部を衝突させた事故の具体例を紹介するとともに、指導上の配慮事項として、「逆飛び込みによる事故が多くみられ、最重度の障害や死亡に繋がる可能性が高い傾向にある。水深の浅いプールで授業や部活動を行う場合、特に注意が必要である。」旨指摘されている。
  • 頸椎・頸髄損傷をきたす恐れのある飛び込み動作としては、構えから飛び出しまでの間については、走り飛び込み、高所よりの飛び込み、障害物等に足をとられての飛び込み、蹴りの力が弱いこと、飛び出し角度が大きいこと(上向き、下向き)などが、空中姿勢については、空中位置が高いこと、腰部が強く屈曲していることなどが、また、入水からストロークまでの間については、入水地点が近いこと、入水角度が大きいこと、入水後の身体の反りや手首の返しが不十分なことなどが挙げられている。
  • 特に、パイクスタート(スタート台から高めに飛び上がり、空中で一度えび形の姿勢となってから、上体を水面の一点に押し込むように入水する方法)は、初心者や一般の者が行う必要のないものであり、まして浅いプールで行えば、入水角度が大きいだけに危険性が高いものである。
  • そこで、飛び込み事故を防止するための方策としては、指導者において、生徒らに対し、飛び込んだ際に入水点が近かったり、入水角が大きかったりすると、水底で頭部を打つ可能性があり、場合によって頸椎・頸髄損傷をきたす危険性があることなどを事前に十分説明すること、飛び込み技能の基本を事前に説明・指導した上、水中での動作練習から始め、プールサイドからの飛び込み練習、次いでプール端壁立ち上がりから、そして、最終的にスタート台へと段階的に発展させるなど段階的に指導すること、各泳者の体格や水泳技術の習得度に即した個別的指導を行うこと、飛び込み動作を観察・監視し、上記のような危険な動作がみられる場合には、それを指摘・注意し、是正させ、安全で正しい飛び込み技術を習得させるよう指導することが重要であるとされる。
  • 特に、上記のとおり、パイクスタートは、浅いプールで行えば入水角度が大きいだけに危険性の高いものであるから、これを安全に行うようにさせるためには、入水後の身体の反りや手首の返しなどの練習を積ませるとともに、入水時に両腕を頭の先にしっかりと伸ばして頭部を保護する姿勢をとらせることが必要であるとされている。
  • 本件当時使用されていた文部省の発行にかかる学校体育実技指導資料である「水泳指導の手引き(平成5年5月)」においても、スタート技能の指導は、個人の能力に応じた段階的な取扱いを重視し、教師の指導に従って実施すべきこと、水深や水底の安全を確かめ、入水角度に注意するなど、安全に配慮した慎重な指導が大切であること、スタートの際に深く入水し過ぎて水底に頭部を打つなどして大きな事故になる例が見られるので、指導者はもとより生徒にもこのことを理解させること、スタート台からのスタートは個人の能力に応じて行わせることとし、特に水深に留意して行わせること、入水点がプールサイドに近すぎると水に深く入る危険があるので、遠いところに入水点をおき、空中で体が水面と並行に近い姿勢を経てから、手先、頭の順に浅く入水し、入水後は素早く手先を上方に向けて水面上に出るように指導すること、上記スタートの習得のため、水中から始めて後にプールサイドからの飛び込みへ、また、低い姿勢での飛び出しから徐々に高い姿勢での飛び出しへといったように段階的に指導すべきことが指摘されている。

などの事実を踏まえ、

「学校の水泳授業において逆飛び込みスタートを取り上げるについて、担当教諭には、生徒らに対し、逆飛び込みには深く水に入ってプール底に頭部を衝突させ、場合によっては頸椎・頸髄損傷をきたす危険性があることを事前に十分説明し、安全な飛び込み方を説明するとともに、上記のような危険性のある動作を具体的に説明して禁止し、安全な飛び込み方法を各生徒の能力に応じて段階的に指導して、事故の発生を防止し、生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務があるというべきである。」

と、担当教諭の安全配慮義務の具体的な内容を指摘しました。

その上で、裁判所は、

「Y教諭は、本件事故発生当時、本件プールは無人の状態において満水時より水位が約4センチメートルないし5センチメートル下がっていたと推認され、満水時より飛び込みによるプール底への頭部の衝突の危険性が増していたにもかかわらず、生徒らに対し、走り飛び込みや宙返りなどの危険な飛び込みをしないこと、飛び込みを行う際は、前後の安全に十分に配慮し、前の生徒かスタートしたら必ず5メートル以上の間隔を空けることとの注意を与えたのみで、逆飛び込みには、深く水に入ってプール底に頭部を衝突させ、頸椎・頸髄損傷をきたす危険性があることについては何ら説明せず(なお、本件高校における第1学年男子の平成11年度体育科授業計画では、飛び込みスタートの危険性や各生徒の能力に応じた段階的指導は2学期に行うこととされていた。)、また、飛び込み方法についても、生徒らを集めて、飛び込みの手本であるとして、初級者向け、中級者向け、上級者向けの3通りの飛び込み方を自ら飛び込んで示し、各自の能力に応じてこの中のどの形で飛び込んでもよい、飛び込みのできない生徒は自分の能力に応じてスタートすればよいと指示するのみで、深く水に入りすぎる危険性のある動作を具体的に説明して禁止するなどの措置はとらず、かえって、上級者向けのスタート方法として、入水角度が大きく深く水に入りすぎる危険性の高いパイクスタートに近い飛び込み方を示していたのであるから、Y教諭には、上記保護義務を怠った過失があるといわざるを得ない。」

として、Y教諭の過失を認定しました。

そして、裁判所は、

「本件事故は、Y教諭の上記過失により、Xが逆飛び込みの危険性や深く水に入りすぎる危険性のある動作を回避することを十分認識しないまま逆飛び込みスタートをしたため、パイクスタートに近い飛び込み方をする結果となり発生したものと認められる。」

とY教諭の過失と結果との因果関係を認めた上で、

「本件事故は、Y教諭の上記保護義務違反によって生じたものであると認められるところ、国家賠償法1条1項にいう公権力の行使には、公立学校における教師の教育活動も含まれると解されるから、被告は原告らに対し同法1条1項に基づく損害賠償責任を負うものというべきである。」

と結論づけました。

逆飛び込みの危険性を生徒に理解させるべき

上記のとおり、裁判所は、担当教諭の注意義務の内容として、

「学校の水泳授業において逆飛び込みスタートを取り上げるについて、担当教諭には、生徒らに対し、逆飛び込みには深く水に入ってプール底に頭部を衝突させ、場合によっては頸椎・頸髄損傷をきたす危険性があることを事前に十分説明し、安全な飛び込み方を説明するとともに、上記のような危険性のある動作を具体的に説明して禁止し、安全な飛び込み方法を各生徒の能力に応じて段階的に指導して、事故の発生を防止し、生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務があるというべきである。」

と指摘しました。

私としては、このような説明を事前に行っておくだけでも不十分であると思っています。

本件をはじめとして、逆飛び込みによる事故はこれまでにも多数発生していることや、死亡や重篤な後遺障害といった重大な結果を招いていることについてもきちんと説明することで、生徒に対し、自分自身の生命や身体を守るために必要なことを理解させるべきだと思います。

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