小学生が水泳授業中に逆飛び込みを行いプールの底に頭部を激突させて負傷した事故

2020.05.19 スポーツ中の事故

松山地方裁判所平成11年8月27日判決

事案の概要

本件は、原告が、松山市立小学校の水泳の授業中にプールサイドから逆飛び込みを行い、水底に頭部を衝突させて第5頸椎骨折、頚髄損傷の傷害を負った事故につき、担当教諭には事故の発生を未然に防止すべき注意義務等に違反した過失があったとして、被告松山市に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めた事案です。

原告は、本件小学校6年3組の児童でした。

本件小学校における6年生の水泳実技授業は、6年2組の担任兼体育主任であるB教諭を中心に他の担任教諭4名が児童の指導にあたる5クラス(生徒数172名)合同による形式をとっていました。

原告は、小学1年時よりスイミングクラブに入会し、同クラブの16級からスタートし、9級の項目であるクロールの判定テストにおいて、正式スタートができると認定され、本件事故時においては課題が個人メドレーである2級に進級していました。

また、原告は、平成4年9月に行われたクラス対抗リレーでも小学5年3組女子部のアンカーに起用され、逆飛び込みで入水したこともあり、逆飛び込みによってプールの底に頭部を打ったり鼻を擦ったりした経験はありませんでした。

平成5年7月16日の第5時限目午後1時55分ころ、本件プールにおいて、B教諭を中心とする担任教諭の指導のもと、6年生の全クラス合同による水泳の授業が開始され、全体でターンの練習等が行われた後、午後2時35分ころから、本件プールを5つの区域に分けてクラス別の指導が行われることになりました。

A教諭は、プールサイドから6年3組の指導を担当することになり、6年3組の児童に対し、更にターンの練習を行わせた後、授業の終了間際になって、児童らをプールサイドに上げ、「苦手な泳ぎを練習しなさい。」と指示を出しましたが、その際、特に、スタートの練習を口頭で禁止することはしませんでした。

A教諭の指示の後、6年3組の児童は、再びプール内に入り、それぞれ泳ぎの練習を始めましたが、その状況は、潜ったり、飛び込んだり、プールサイドで休憩したりするなど、統一がとれた状態ではありませんでした。

A教諭は、プールサイドから児童らの状況を見ていましたが、6年3組の児童である乙山と丙野から飛び込みの指導を求められたことから、両名に対し、まず、プールサイドから足飛び込みを行わせ、一旦プールサイドに上げて、足や手の動かし方を説明した後、2回目の飛び込みを行わせ、さらに、3回目の飛び込みを行わせました。

原告は、プール内で6年3組の児童である丁山と「何をしようか。」などと話をしていましたが、プールサイドから飛び込む同級生がいたことから、「飛び込んでいいんかな。」、「見あいこみたいな感じで飛び込みをしようか。」などと話し、丁山と交互に飛び込みを行うことにしました。

そこで、まず、原告が、乙山らが飛び込んでいるプールサイドから、プール内の児童がいない空間を見つけて逆飛び込みを行い、次いで、丁山が同様に飛び込みを行い、プール内で互いに「どうだった。」、「良かったよ。」などと話しましたが、A教諭から何の注意も受けなかったことから、さらに、「もう1回飛び込む。」「じゃあ、飛び込もうか。」などと話し、原告が、1回目とほぼ同じ位置(水底からの高さ1.28メートル)から逆飛び込みを行ったところ、本件プールの底に頭部を激突させ、その結果、第5頸椎骨折、頸髄損傷の傷害を負いました。

裁判所の判断

A教諭の過失

裁判所は、

「本件事故は、6年生全体による練習が終わってクラス別の指導に移行し、A教諭が、6年3組の児童に対し、ターンの練習という具体的な課題を与えた後、「苦手な泳ぎを練習しなさい。」などと指示して自主的な泳ぎの練習を行わせていた際に発生したものであるが、このような自主的な練習を行わせる場合、担当教諭には、水泳の授業が直接児童の生命・身体に対する危険を包含していること、特に、小学6年生という危険に対する判断能力の未熟な低年齢の児童を指導していることに鑑み、やや解放的になる児童の心理状況をも考慮し、クラス全体の児童の動静を絶えず確認し、安全確保のために十分な配慮を行うことが要請されていると解される。」

とした上で、

「A教諭は、乙山と丙野から飛び込みの指導を求められるや、自ら飛び込みの方法を説明しながら両名に飛び込みを行わせているのであるから、自主的な練習時間中に一層危険の内在する飛び込みを行わせること自体の是非はともかく、一部の児童に飛び込みを行わせる以上、自らの指導監督の及ばないところで他の児童が飛び込むことのないよう絶えず確認し、事故の発生を未然に防止すベき注意義務を負っていたというべきである。」

と判示しました。

そして、裁判所は

「A教諭は、プールサイド上において、クラス全体の児童の動静を確認するのに何ら支障がなかったにもかかわらず、乙山と丙野の指導のみに注意を奪われ、原告及び丁山等が飛び込みを行っていることを看過し、これを制止しなかった結果、自らの指導監督の及ばない状況のままで、原告が本件逆飛び込みを行って本件事故が発生したのであるから、前記注意義務違反を免れることはできず、本件事件の発生につき過失かあったと認められる。」

と判断し、

「本件事故は、A教諭が、その公権力の行使にあたる職務の執行につき、過失により惹起したものであるから、被告は、国家賠償法1条1項に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償する責任があるといわなければならない。」

と結論づけました。

過失相殺について

裁判所は、

  • 原告は、本件事故当時、小学生とはいえ6年生であり、一応の事理弁識能力は有していたと推認される
  • 小学校1年生のときからスイミングスクールに通って(本件事故当時は2級)、既に逆飛び込みを履修しており(9級進級時)、逆飛び込みによってプールの底に頭部を打ったり鼻を擦ったりした経験がないことからすると、逆飛び込みには相当習熟していたと推認される
  • 本件事故が飛び込みの練習時間中に発生したものではなく、原告が他の児童の行動に触発されたとはいえ、A教諭の具体的な指示がない状況において、自らの判断で本件逆飛び込みを行った
  • 原告は、本人尋問において、本件逆飛び込みの状況につき、1回目と同じように普段どおりに飛び込んだ旨供述しているが、原告の本件受傷の部位・程度、前記逆飛び込みの習熟の程度等からすると、普段どおりの逆飛び込みの方法により本件事故が発生したとは考え難い
  • A教諭は、本件事故直後に保健室で救急車の到着を待っている際、教頭に対し、原告が急な角度で入水するところを見た旨供述し、証人尋問においても同様の証言をしている
  • 乙山は、本件事故から1週間後に行われた事情聴取の際、教頭やA教諭らに対し、原告が「飛び上がって飛び込むのを見て、自分のところにぶつかってくると思って避けた。」旨供述し、証人尋間においても、原告が飛び上がっているところを見た旨証言している

などを総合すると、

「原告は、高めに飛び上がり、普段よりも急な角度で入水し、本件プールの底に頭部を激突させたものと推認される。」

と事実認定しました。

その上で、裁判所は

「原告の年齢、泳力、原告がA教諭の具体的指示のないまま本件逆飛び込みを行ったこと、原告の本件逆飛び込みの態様等原告の過失相殺において糾酌すべき事情と被告側の前記認定の本件小学校における水泳実技指導、A教諭の過失の内容、程度等を総合考慮すると、本件事故における原告の過失割合は、4割とするのが相当である。」

と判断しました。

自由な時間・自主的な練習こそ注意が必要

本件事故は、担当教諭が自主的な練習を行わせている際に発生したものですが、このことが担当教諭の注意義務の捉え方や、原告の過失相殺において斟酌すべき事情として考慮されました。

小学校における水泳の授業では、予定されていた練習が一通り終了した後、残り時間を利用して児童に自由に練習させることがあります。

本件事故もそのような場面で発生したものですが、この「自由な時間」「自主的な練習」だからこそ未成熟な小学生の場合には事故が発生しやすいものと考えられます。

事故を未然に防ぐためには、このような「自由な時間」「自主的な練習」こそ児童の安全に十分な注意が必要であると思います。

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