女子中学生が卓球部の部活動中に練習場である校舎4階の廊下の窓から転落した事故

2019.08.26 スポーツ中の事故

広島地方裁判所平成30年3月30日判決

事案の概要

本件は、町立中学校の女子卓球部に所属して練習をしていた生徒である原告が、女子卓球部の練習場となっていた校舎の廊下の開いた窓から転落し、外傷性くも膜下出血等の傷害を負った事故につき、女子卓球部の顧問であったA教諭が安全措置を講じる注意義務に違反し、校長及び教職員が安全教育を実施する注意義務に違反したため上記事故が発生したと主張して、国家賠償法1条1項による損害賠償を請求した事案です。

原告は、本件中学校の2年生であり(身長は148.8cm)、女子卓球部に所属していました。

女子卓球部の練習場所は、本件中学校の中央棟の4階廊下(廊下の幅は3900mm~4400mm)でした。

廊下には、上段の窓と下段の窓が設置されていて、上段の窓の下端は本件廊下の床面から2015mmの高さに、下段の窓の下端は本件廊下の床面から945mmの高さにありました。

下段の窓枠の寸法は、縦が970mm、横が950mm、幅が170mmでした。

廊下の窓には、当時、手すりや面格子などの転落を防止する器具は設置されていませんでした。

また、廊下には、当時、上段の窓を開閉するための踏み台等の器具は設置されていませんでした。

本件中学校の女子卓球部の顧問であったA教諭は、以前から、日常的に、廊下の上段の窓を開ける際、開いた状態にある下段の窓枠に上り、下段の窓枠の上に立った状態で上段の窓を開けていました。

下段の窓を閉めた状態で下段の窓枠に上がると、廊下側に転落するおそれがあるため、A教諭は、下段の窓を閉めた状態で下段の窓枠に上がることはありませんでした。

原告を含む女子卓球部員は、平成21年7月31日午前8時30分頃、卓球の練習をするために、廊下付近に集合しました。

A教諭は、原告を含む女子卓球部員に対し、廊下の上段の窓を2人1組になって開けることを指示しました。

なお、上段の窓を開けることの指示は、廊下内を換気し、生徒が熱中症に陥ることを防ぐことを目的とするものでした。

A教諭は、上記の指示をした後、部室に移動しました。

原告は、A教諭の指示の後、廊下の上段の窓を開けるため、下段の窓枠に上りました。

当時、下段の窓は開いた状態でした。

原告は、下段の窓枠に上った際に、バランスを崩してそのまま本件中学校の中央棟の4階から転落し、約10m下にあるコンクリート製の駐車場の屋根に衝突しました。

A教諭は、本件事故の発生直後、生徒から原告が転落した旨の連絡を受け、現場に赴きました。

本件中学校の教諭によって救急要請がされ、原告は、県立広島病院に救急搬送されました。

原告は、本件事故により、急性硬膜外血腫、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、両側血気胸、肺挫傷、骨盤骨折、胸椎骨折、左腎損傷等の傷害を負いました。

そして、原告には、①右眼失明、②左腎機能廃絶、③外傷性脳損傷及び高次脳機能障害の後遺障害が残存しました。

裁判所の判断

本件中学校の教職員の注意義務について

まず、裁判所は

「一般に、部活動の担当教諭は、教育活動の一環として行われる学校の課外の部活動においては、受け持つ生徒の安全を保護すべき義務を負うから、女子卓球部の顧問であるA教諭は、同部の活動を行う生徒に対し、生徒の安全にかかわる事故の危険性を予見し、当該事故の発生を未然に防止する措置を採るべき注意義務を負うと解される。」

と指摘しました。

そして、裁判所は、

  • 本件について窓枠の上に立って作業をすることは、窓枠の本来の用法に適合するものであるとは言い難い上、本件廊下の窓枠には手すりや面格子などの転落を防止する器具は設置されていなかったことからすると、下段の窓を開けた状態で下段の窓枠に上がろうとした場合、手で窓枠を確実につかみ、かつ、体勢を維持しない限り、足を滑らせたり、バランスを崩したりすることにより、本件廊下の外側に転落する危険性が高いということができる。
  • 生徒を指導する立場にあるA教諭でさえ、日常的に、本件廊下の上段の窓を開ける際は、開いた状態にある下段の窓枠に上って、上段の窓を開けていたこと、A教諭は、本件事故当日に女子卓球部員に対して本件廊下の上段の窓を開けるよう指示したことからすると、A教諭は、同部員が下段の窓を開けた状態で下段の窓枠に上る可能性が高いこと、ひいては、同部員が下段の窓枠に上った際にバランスを崩して本件廊下の外側に転落する危険性が高いことを具体的に予見することができたと認められる。

として、

「A教諭は、原告を含む女子卓球部員に対し、本件廊下の上段の窓を開ける指示をする際には、下段の窓を閉めた上で窓枠に上がるよう指導したり、脚立等の高所作業用の道具を使用するよう指導するなど、転落を防止する措置を採った上で作業をするように指示すべき注意義務を負うということができる。」

とA教諭の具体的な安全配慮義務の内容を指摘しました。

その上で、裁判所は

「A教諭は、女子卓球部員に対し、単に上段の窓を開けるよう指示したにとどまり、転落を防止する措置を採った上で作業するよう指示しなかったことが認められから、A教諭は上記注意義務に違反したということができる。」

として、A教諭の安全配慮義務違反を認定しました。

そして、裁判所は

「原告は、A教諭の指示に基づき、本件廊下の下段の窓枠に上ったところ、バランスを崩して転落したことからすると、A教諭の注意義務違反と本件事故との間には相当因果関係があることが認められる。」

として、本件中学校を設置する被告の国家賠償法1条1項による損害賠償責任を認定しました。

過失相殺について

被告は、

「原告には、窓枠に上るに当たって、窓の桟を持つなどしてバランスを維持し、バランスを崩した場合には、支えている桟を持った手に力を入れ、窓枠に手をかけるなどして、バランスの崩れを補正する義務があったにもかかわらず、これらの義務を怠った過失がある」

と主張しました。

しかし、裁判所は

  • 原告は、A教諭から上段の窓を開けるよう指示を受け、A教諭が上段の窓を開ける際に普段から行っているとおり、下段の窓を開けた状態で下段の窓枠に上ったに過ぎない。
  • 原告は、A教諭が普段から行っている行動を参考にして下段の窓枠に上ったと考えられるところ、原告は、本件事故発生当時、中学2年生であり、危険を回避するための判断能力を十分に有していたとまではいえない。
  • 身長が148.8cmと小柄な原告にとって床面から約94.5cmの高さにある下段の窓枠に上がることは容易とはいえないから、本件事故が発生したからといって、原告が下段の窓枠に上った際に窓の桟に手をかけるなどの体勢を崩さないための動作をしようとしなかったと推認することはできないし、他に、原告がこのような動作をしようとしなかったことを認めるに足りる証拠はない

として、

「本件事故について過失相殺をすることは相当でない。」

と判断しました。

子供は大人の真似をする

本件は部活動の練習中に起きた事故ではありますが、純粋なスポーツ事故ではありません。

しかし、あえて紹介させていただくことにしました。

本件は、事故発生前は顧問教諭が行っていたことを、中学生がそのとおりに行ったことで発生してしまった事故です。

事案の概要をご覧いただくとわかると思いますが、窓が開いている状態の窓枠に上がって作業することが危険であることは容易に想像がつきます。

しかも、それが4階という高所であれば、命の危険すらあることは明らかです。

しかし、それでも本件の事故は発生してしまいました。

それは、生徒が「いつも目の前で顧問教諭がやっていることだから、そのやり方が正しい」と考えたからに他なりません。

子供にとって、大人は手本です。

家庭であれば親が、学校であれば教職員が、子供にとっての手本なのです。

では、大人が子供の目の前で行っている言動が、子供にとってお手本となっていると胸を張って言えるでしょうか。

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