テニス教室において練習生の打ったボールがコート脇で待機していた別の練習生の顔面に当たり負傷した事例

2018.12.21 スポーツ中の事故

横浜地方裁判所平成10年2月25日判決

事案の概要

本件は、テニスの練習中に他の練習生の打ったボールを顔面に受けて負傷した原告が、右練習生及びテニス教室の指導コーチの雇用主に対し、不法行為(民法709条及び715条)による損害賠償を求めた事案です。

原告及び被告Yはいずれも被告会社が経営するテニスコートにおいて開かれていた被告会社主催のテニス教室の練習生でした。

原告は、平成元年ころからこのクラスに参加していました。

また、被告Yも約20年のテニス歴を有していました。

原告らが本件事故当時所属していたクラスは、被告会社主催のテニス教室の約1000名の練習生のうち最上位の約50名が参加する特別上級クラスであり、本件事故当日の練習に参加していたメンバーはその中でも最もレベルの高いグループであった。


平成6年2月16日当日の練習は午後7時15分から午後9時までの予定であり、Sコーチの立てた計画に従い、数種類の練習メニューをこなし、本件事故は練習も終わりに近づいた午後8時45分ころに発生しました。

本件事故当時は、Sコーチ及び原告、被告Yを含む7名の練習生が参加して、4名が順次ローテーションしながらコートに入り、Sコーチが練習生にボールを出し、これを練習生が打ち返し、そのボールを相手方コートの練習生がボレーで打ち返す方法による練習が行われていました。

原告は、当日の本件練習メニューにおいて被告Yの次の順番であったため、被告Yの後にその位置に入るため、本件ベンチに腰掛けて待機していました。

Sコーチは、当時原告が本件ベンチの位置にいたことを認識していましたが、被告Yはそれに気づきませんでした。

Sコーチは、この練習方法において、待機中の練習生の待機位置については特段の指示は出していませんでした。

待機中の練習生は、エンドラインの後方で待機するのが通例でしたが、中には他の練習生の練習を見るため、本件ベンチあるいは審判台の付近に来て待機する練習生もいました。

被告Yがボールをボレーで打ち返そうとしたところ、ラケットのフレームに当たり、ボールがそれて原告の顔面を直撃しました。

原告は、そのとき下を向いて自分のラケットのガットを調整しており、たまたま顔を上げようとしたとき、被告Yの打ったボールが(バウンドせず)原告の右眼球あたりを直撃しました。

このとき、Sコーチ及び被告Yは打球を目で追っていて、原告の顔面に当たるのを目撃しました。

原告自身は被告Yの打球は見ておらず、自分の顔面に当たった時点で初めてそれに気づきました。

原告は、本件事故により右眼球から出血し、救急車で病院に運ばれました。

裁判所の判断

Sコーチの過失について

裁判所は

Sコーチが原告に対し、本件ベンチで待機するよう指示した事実は認められないことから、争点は「原告が本件ベンチで待機していたことを認識していた同コーチが、その待機位置について適切な指示をすべきであったか」であることを示しました。

その上で、裁判所は

「そもそもテニス教室というのは、コート及びその周辺という限られた空間の中で、複数の練習生が技量の向上を目指して練習をするものであるから、練習に参加している以上、現にプレーをしている以外の練習生もボールの飛来する可能性のあるコート周辺で待機せざるを得ないことは当然である。」

として、

「各練習生は自ら適切な待機場所を選んで、自己の安全を確保し、かつ、プレーの妨げにならないように配慮すべき義務があるというべきである。」

と判示しました。

そして、裁判所は

「本件練習メニューは当日初めて行われたものではないから、原告自身もその練習内容については十分認識していたはずである上、自己のプレーの順番を待つ練習生がどの位置において待機するかはその練習生自身の判断と責任において決せられるべきものであって、現に練習を指導しているコーチはそのプレーにこそ細心の注意を払うことが要請されているのであるから、待機中の練習生の待機位置などについては、(ことに本件のような上級者クラスにおいては)各練習生自身が適切に対処するであろうことを期待してよく、(プレー中のコート内に立ち入るなど明らかに不適切な行為を発見したような場合を除き)事細かな指示を与えるべき注意義務はないというべきである。」

として、

「Sコーチが原告に対し、待機位置について格別指示をしなかったとしても、同コーチの過失を認めることはできない。」

と判断しました。

その結果、被告会社に対する使用者責任は認められないこととなりました。

被告Yの過失について

原告は、

「被告Yが原告の待機位置を認識した上、適切な対処(原告に適切な指示をする、練習を一時中断してもらう、あるいは危険のないようなプレーをする)をすべきであったのに、これを怠った」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「本来練習とは技量の未熟を前提とし、その向上を図るために行われるものであるから、ルールを遵守してまじめに練習に取り組んだ結果、ミスをしたとしても直ちに過失があるとはいえないことは明らかであり、被告Yにミスショットをしない(あるいは危険のないようにことさら弱いボールを打つ)注意義務があったなどとはいえないことは自明の理である(そのような義務を認めることは、練習という行為そのものを否定するに等しい。)。」

「本件事故当時、被告Yがふざけてショットしたり、コーチの指示に従わないなど、ことさら不適切な練習態度であったことをうかがわせる事実もない。」

「本件練習メニューが妥当なものであり、その際の待機位置については各練習生の判断に委ねられるべきものであったと解されることからすれば、仮に被告Yが当時原告の待機位置について認識していたとしても、自ら指導コーチに申出て練習の中断等の措置を採ってもらうべき義務があったとは認められないし、まして、練習生の一人に過ぎない被告Yが、同僚の練習生である原告に対して自らその待機位置などについて指示をすべき義務があったともいえない。」

として、被告Yの過失も認めませんでした。

危険の回避義務を負うのは被害者も同様である。

スポーツ競技の試合や練習は、その性質上、複数のプレイヤーが互いに交錯してプレイすることが避けられません。

その意味では、スポーツには一定の危険が常に内在するものといえます。

スポーツ中の事故については、この危険を回避する義務が主として誰にあるかが判断のポイントとなります。

例えば、学校における部活動などに対しては指導監督者の過失が肯定されることが多く、ゴルフなどの個人競技では当該プレイヤーの過失が肯定される傾向があります。

本件は、テニス教室に参加している各プレイヤーにはそれぞれ自己の判断と責任において危険を回避する義務があることを前提に、参加者の技量や経験、練習の態様などから指導監督者(本件でいうSコーチ)やプレイヤー(本件でいう被告Y)の他の参加者(本件でいう原告)に対する危険回避義務の範囲に一定の合理的な制限を加えたといえます。

このような事故を防ぐためには、被害者にも自己の判断と責任において危険を回避する義務があるということを自覚することが必要だと思います。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top