テニスコートのネットを張るためのハンドルが中学生の顔面に衝突し歯を破折した事故

2020.05.26 スポーツ中の事故

宮崎地方裁判所平成31年2月1日判決

事案の概要

本件は、中学生であった原告が、本件中学校の軟式テニス部の部活動中に、テニスコートのネットを張るためのハンドルが顔面に衝突し、上下の前歯4本を破折する傷害を負った事故について、同部の顧問であった教員等に生徒に対する安全配慮を怠った過失があるとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を請求した事案です。 

原告は、本件中学校に1年生の女子生徒として在籍しており、本件中学校の課外クラブである女子軟式テニス部に所属していました。

被告教員Aは、本件中学校の教員であり、テニス部の顧問を務めていました。

Bコーチは、本件中学校から委託を受け、テニス部の指導監督を行っていました。

テニス部の部員は17名で、原告と同じ1年生部員のほか、上級生の部員が所属していました。

テニス部では、宮崎県西都市内所在の本件コートにおいて活動することがありました。

本件コートのネットの支柱には、ネットを張るためのネット巻き器(本件器具)が取り付けられていました。

本件器具はネットを巻き上げるためのフック付の軸、ハンドル、歯車やストッパー等により構成されていました。

本件器具の正しい使用方法は、ネットのワイヤーを軸のフックに引っ掛け、ストッパーを歯車に噛ませるようにしてかけた上で、ハンドルを回して、ネットを巻き上げるというものであり、仮に、ストッパーをかけないままハンドルを回すと、何らかの理由でハンドルから手が離れた場合に、ハンドルが高速で逆回転して、周囲にいる者に衝突する危険がありました。

テニス部に所属していた部員は、主に、Bコーチから指導を受けていたところ、Bコーチが来る前に、ネットを張るなどの準備を行っていました。

部員は本件コートでネットを張る際、2人1組で作業を行っており、具体的には、1人がストッパーを歯車に噛ませずに手で持ち上げておき、もう1人がハンドルを回してネットが張れた状態になったところで、最初の1人が持っていたストッパーを歯車に噛ませてネットを固定するという方法を採っていました。

平成28年1月30日、原告は、同じ1年生部員とともに、上記の方法によりネットを張っていたところ、ハンドルの反発力に耐え切れず、ハンドルから手を離してしまい、その結果、ハンドルが高速で逆回転して、原告の顔面に衝突しました。

本件事故により、原告は、上顎の中切歯2本及び下顎の中切歯2本を破折しました。

裁判所の判断

被告教員の注意義務違反について

本件では、

「被告教員A及びBコーチは、原告に対し、本件器具の正しい使用方法及び誤った方法で使用した際の危険性を指導すべき注意義務に違反し、その結果、本件事故が発生した」

という点について、訴訟の当事者双方に争いはありませんでした。 

過失相殺について

裁判所は、

  • 原告は、本件中学校に入学後まもなくにテニスを始めたが、テニス部が本件コートを使用するのは、夏休み等の長期休暇を除けば週5日のうち1日程度であり、それ以外で使用する本件中学校のコートには本件器具とは異なって巻上時の逆回転の危険性がないタイプのネット巻き器が取り付けられていたこと
  • 被告教員A及びBコーチは、本件事故当時所属していたテニス部の部員に対し、本件器具の正しい使用方法及び誤った方法で使用した際の危険性について指導したことがなかったこと
  • 本件コートにおいては、本件事故当時に所属していたテニス部の部員は上級生を含めて、本件方法によりネットを張っており、原告もこれに倣って、本件方法によりネットを張っていたのであって、その危険性を指摘する者はいなかったこと
  • 本件中学校において、近年、本件方法が原因の事故は発生していなかったこと

を認定しました。

その上で、裁判所は、

「本件器具でネットを張る行為は、方法を間違えば怪我をする可能性を有する危険な部類に属する行為といえるから、本件中学校の課外クラブであるテニス部においても、教員や指導の委託を受けたコーチらが十分な指導を行った上で、生徒に行わせるべきであった。

そして、本件事故は、軟式テニス自体に内在する不可避の危険が現実化したものではなく、本件器具を正しく使用することにより容易に回避できたものである。

それにもかかわらず、被告教員A及びBコーチは上記指導を行っておらず、上級生を含めて本件方法でネットを張り、その危険性を指摘する者もいなかったことなどを考えると、長期間にわたって指導が行われていなかったことがうかがわれる。」

として、

「以上からすれば、被告教員AやBコーチの指導について、相応の過失があったことは明らかである。」

と判示しました。

一方、裁判所は

  • 本件器具は、ストッパーを歯車にかみ合わせたままハンドルを回してネットを巻き上げても、ストッパーが上にずれて次の歯車とかみ合うため、逆回転を防止できる仕組みとなっているが、これを教えられることなく、本件器具の形状を見ただけで理解するのは容易ではない
  • 原告は、本件中学校に入学してテニスを始めたものであり、本件コートでは、上級生を含めて本件方法でネットを張っており、その危険性を指摘する者もいなかった

とした上で、

「本件事故までに入学後約9か月が経過していることなどを考えても、中学1年生である原告が、自らその危険性に気付いて本件方法を改めなかったとしても、むしろやむをえないというべきであって、これが明らかな過失であるとはいえない。」

として、

「本件において過失相殺を行うのは相当でない。」

と判示しました。

教員の過失と損害についての因果関係を争わなかったことについて

本件では、「被告教員A及びBコーチは、原告に対し、本件器具の正しい使用方法及び誤った方法で使用した際の危険性を指導すべき注意義務に違反し、その結果、本件事故が発生した」との点について、被告は争いませんでした。

そのため、本件での争点は、過失相殺と損害のみでした(なお、損害の判断については割愛しています)。

一般に、スポーツ中の事故において大きな争点となるのは、加害者側の過失(義務違反)についてです。

この点について訴訟当事者の双方から主張立証を行うことになり、この点が訴訟の帰趨を左右するといえます。

しかし、本件では、教員の過失(義務違反)について被告が争わないという姿勢を示したことにより、訴訟にかかる期間を短縮することにつながり、早期解決を図ることができたと考えられます。

本件訴訟の被告は宮崎県内の地方公共団体ですが、教員の過失と、損害との因果関係を争わなかったという点については、評価できると考えています。

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