県立高校テニス部の練習中に倒れて心停止となり重度の後遺障害が生じた事故

2020.07.21 熱中症・自然災害

大阪高等裁判所平成27年1月22日判決

事案の概要

本件は、県立高校のテニス部に所属していた原告が練習中に突然倒れて心停止に至り、低酸素脳症を発症して重度の障害が残ったのは、同高校のテニス部顧問の教諭の義務違反によるものであるとして、被告兵庫県に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

本件高校の教諭であり本件テニス部の顧問であったA教諭は、平成19年5月の連休の試合で3年生が引退した後の同月7日、原告をキャプテンに指名しました。

A教諭は、出張等の予定があって立ち会えない日を除き、原則として、本件テニス部の練習に立ち会っていました。

本件テニス部では、A教諭が、毎日の練習メニューを決め、メモに書いてキャプテンに手渡していました。

本件テニス部では、平日は毎日午後4時から6時30分まで練習が行われていましたが、本件事故当時、本件高校は校舎の耐震工事のため校内のテニスコートを使用することができず、同校から1.2キロメートルくらい離れた場所にある本件テニスコートを借りて、練習を行っていました。

本件テニス部では、同年5月8日から13日までは、毎日練習が行われました。

しかし、本件高校では、定期試験前1週間及び定期試験最終日を除く定期試験期間内には部活動を行わないことになっており、同年度1学期の中間考査の開始1週間前である同月14日から同月23日までの間は、練習は行われませんでした。

原告は、同月24日午前2時すぎに勉強を終えて就寝し、同日午前5時頃に起床して勉強した後、午前7時40分ころ家を出ました。

同日午前10時40分に全ての試験が終了しました。

原告は、テスト後の掃除が終了した後、自己のクラスの教室があった仮設校舎から別棟の管理棟内の職員室に行き、そこで、A教諭から当日の練習メニューに関するメモを受け取ると共に、当日の練習開始時間が午後零時から午後3時までと早くなったことについても指示を受け、そこから更に北側の北校舎内の1年生の教室に向かったり、もとの仮校舎に戻ったりして、本件テニス部の部員らに、練習開始時間が早くなったことを伝えました。

そのため、原告は、昼食を取るのに十分な時間がなくなり、弁当にあまり手をつけないまま本件練習をすることとなりました。

原告を含む1、2年生のテニス部員は、同日午前11時ころ、急いで着替えと昼食を済ませ、午前11時30分ころ、学校を出発し、本件テニスコートに向かいました。

この日、原告は帽子を被っていませんでした。

本件テニスコートにおける地上約1.5メートルの高さの温度は30度前後に達しており、コート地表面の温度はそこから更に10度前後高いものでした。

午前11時50分ころ、本件練習が始まりました。

まず、ウォーミングアップとしてランニングと体操を行った後、2年生だけが本件テニスコートに入り、コート内での練習を開始しました。

2年生の部員10名で、2面のコートを使用して練習しました。

2年生部員らの多くは、コート内に入った際、日差しが強く、暑いと感じ、口々に「暑いなあ。」などと言っており、本件練習によりかなりの発汗があった者もいました。

まず、2人1組になり、基本練習として、

①ボレー対ボレー

②ボレーしてショートテニス

③左足けんけんでショートテニス

④右足けんけんでショートテニス

⑤ショートテニス(サービスラインに立ってボールをワンバウンドで打ち合う練習)

⑥ストローク対ボレー(×2)(1人がネットにつき、1人がベースラインに立って、ストロークとボレーでラリーを続ける練習)

⑦ロブ対スマッシュ(×2)(1人がロブを上げ、もう1人がそれをスマッシュする練習)

を行いました。

上記①ないし⑦の練習は、それぞれ3分ずつ(ただし、上記⑥及び⑦については、交代してするため6分ずつ)行われました。

したがって、基本練習全体で少なくとも30分程度を要するものでした。

原告は、その練習の際、時間を計り、3分ごとに上記①ないし⑦の練習メニューを行うよう大きな声で指示を出しました。

なお、当日のメニューの種類については、A教諭から指示を受けた原告しか知りませんでした。

この練習が終了した時点でA教諭は出張に出発しました。

次に、午後0時40分頃から15分程度、8の字の手出しストロークを行いました。

この練習は、5人1組となり、2本のコーンをエンドラインに立て、1人が1、2秒程度のタイミングで手で球出しをし、打ち手の3人が球出しのタイミングに合わせて、サイドステップで8の字を描くようにコーンの周りを移動しながら、フォアとバックで球を打ち、残りの1人がコート外で素振り等をして待機し、20球ごとに球出し、打ち手、待機の役割を順番にこなしていくというものでした。

打ち手は常にサイドステップでの素早い動きを要求され、球出しや他の打ち手とのタイミングをずらさないように神経を使うため、かなり負荷のかかる練習でした。

加えて、当日はコート内に球拾いをする担当がいなかったため、より一層負担がかかるものでした。

午後1時頃から30分程度、ラリーを行いました。

1コート当たり5名ずつ、1コート内では2人組と3人組に分かれて、組んだ部員ら同士で、概ねコートの対角線上で、ストロークの打ち合いをするというものでした。

原則としてベースライン上で打ち合いますが、ロングクロスのみでなく、ショートクロスや、スライスの球を打つなどしました。

このラリーは続けるためのものではなく、実力が拮抗した者同士が組んで、相手に簡単には球を打たせないように打ち合うもので、実践的な練習でした。

原告は、実力が上位であったので、Kと2人組になってラリーを続けました。

原告は、このラリーの練習の頃からふらつくことがあり、球に追いつくのがやっとの状態となりました。

また、途中で、フェンスの方に行って跪き、かなりつらそうにしていたこともありました。

Kも、このラリーの練習の頃には、暑さと疲れのために相当しんどいと感じていました。

なお、原告は、このような2年生部員の練習に加え、時折、コート外にいる1年生部員に対する指導もしていました。

午後1時30分頃から30分程度、アプローチショットとボレーボレーを行いました。

6人1組となって、1人がコートサイドからサービスライン付近に手で球出しをし、残りの5人がエンドラインから走り込んでアプローチショットを打ち込むという練習であり、フォアハンドで打ち込むパターンとバックハンドで打ち込むパターンを7分半ずつ連続で行いました。

5人が連続して打たなければならないので、Kは息が上がってしまい、息苦しくなりました。

また、他の4名は、別のコートでネットを挟んで2人1組となってボレーボレー(ボレーの打ち合い)をしていました。

午後2時ころから、サーブレシーブ&ラリーを行いました。

練習内容は、2人がそれぞれのベースラインに立って、サーブを打ち、それをレシーブで返した後にラリーに移る、というものでした。

1コートあたり4人が入って練習をしますが、残りの2人はコート横の簡易ネットを使ってショートテニスをするというものでした。

原告は、この練習中にも、足元もおぼつかない感じで、周りの部員は、原告に「もうやめとき。」と言っていました。

また、その他の部員も、原告に対して、「休憩したほうがええ。」と言いました。

原告は、フェンスに倒れ込むようにして、1、2分だけ休みましたが、次のメニューの指示をし、メニューをこなしていました。

午後2時30分ころから、サーブ打ちっ放しを行いました。

練習内容は、4名程度がコートの一方のラインに立って、サーブを打ち込むというものでした。

原告は、この練習中、非常にしんどそうだったので、他の部員が「やめ。」などと言いました。

午後2時55分ころから、ランニングを行いました。

練習内容は、本件テニスコートの横にあるグラウンドをランニングするものでした。

原告は、走る前から疲れて苦しそうでしたが、「速くは走らないので、しんどかったら休んどく。」「ペースはゆっくり走ります。」と言って先頭を走り始めました。

実際のペースは、歩いても追いつけるくらいのゆっくりとしたペースでした。

2周目に入るときも、部員は「やめとき。」と原告に言いましたが、続けて走りました。

原告は、2周目の真ん中で「気分が悪い。」「お腹が痛い。」と言ったので、みんなで「無理せんとき。」と言ったところ、原告は歩き出しました。

そして、午後3時5分ころ、原告は、「しんどい、歩くわ。」と言った後、手をつかずに突然バタッと前に倒れました。

部員は、原告に声をかけましたが、反応がなく、身体が引きつけを起こしているような感じで、目は半開きでした。

原告は、初めはゼーゼーと呼吸していましたが、次に息がとぎれとぎれになり、少しの間、息をせず、たまに大きく息をし、「ウーン。」とうなるなどしました。

他の部員らが、グラウンドの横にある体育館に人を呼びに行き、通行人に「人が倒れている。」と声をかけたので、体育館の職員2人ほか数名の者がグラウンドに来ました。

その時、体育館からかけつけた者が、原告の靴、靴下を脱がし、タオルを頭の下にひきました。

倒れている原告に対し日が当たっていたことから、部員らは、そのそばに立って影をつくり、原告に日が当たらないようにしたり、タオル等であおいだりしました。

原告は、倒れた際、口(顎)付近を怪我したため、地面に血が広がっていました。

原告は、救急車に収容された後、心肺停止状態となりました。

原告は、低酸素脳症による遷延性意識障害により、意識レベルはJCSⅡ-20と低く、意思疎通の障害は最重度であり、また、四肢の随意運動はできず、全ての日常生活動作(ADL)について全介助を要し、重度の摂食・えん下障害により、経口摂取での栄養確保は難しく、食事は経管栄養による状態でした。

本件については、原告が倒れた原因が争点になりましたが、裁判所は、「原告は、本件事故当時、熱中症に罹患し、これにより重度の心筋障害が生じたものと認めるのが相当である」と判断しました。

裁判所の判断

校外での練習への立会義務違反の有無について

原告らは、

「本件事故を予見できたにもかかわらず、自ら本件事故当日の部活動に立ち会うことなく、また、代わりに立ち会う教諭を手配することをしなかったことから、A教諭には、立会義務違反がある」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「課外のクラブ活動が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることにかんがみれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格別、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立ち会い、監視指導すべき義務までを負うものではないと解するのが相当であり、これは校外での部活動でも基本的に変わるものではない。」

と判示しました。

そして、裁判所は、本件について、上記特段の事情の有無を検討するにあたり、

  • 本件テニス部の練習メニューは、A教諭が決定して各部員に指示しているところ、原告は、本件事故発生以前から、特定の練習をする際に、幾たびか、身体に変調を来たし、四つん這いになって苦しんだりすることがあったものの、本件事故当日には、そのような練習をすることは予定されていなかった。
  • A教諭は、本件事故当日の練習の最初の約30分間は本件練習に立ち会っていたが、その際に、原告に何らかの異常な身体症状が出ていたことをうかがわせるような事情も本件証拠上存在せず、他の部員が原告の異常に気付くようになったのも、A教諭が現場を離れた後のことである。

としたうえで、

「そうすると、A教諭においては、練習内容を軽減し、水分補給の指導をする義務はあったものの、それとは別に練習に立ち会うべき義務があることを基礎付ける上記特段の事情があるとまではいえない。」

と判断して、この点についての原告の主張を排斥しました。

生徒の体調等に配慮した練習軽減措置等の義務違反の有無について

もっとも、裁判所は、

「公立学校の教育活動に伴う事故については、国家賠償法1条の公権力に学校教育活動も含まれるものと解されるので、同法1条の適用が認められることは当然である。

また、課外のクラブ活動であっても、それが公立学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭には、生徒を指導監督し、事故の発生を防止すべき一般的な注意義務がある。

もっとも、高校の課外クラブ活動は、生徒の成長の程度からみて、本来的には生徒の自主的活動であるというべきである。

そして、その練習内容についても、部員である生徒の意思や体力等を無視して顧問が練習を強制するような性質のものではなく、各部員の自主的な判断によって定められているのが通常であると考えられるから、注意義務の程度も軽減されてしかるべきである。」

としつつも、

「しかしながら、顧問が練習メニュー、練習時間等を各部員に指示しており、各部員が習慣的にその指示に忠実に従い、練習を実施しているような場合には、顧問としては、練習メニュー、練習時間等を指示・指導するに当たり、各部員の健康状態に支障を来す具体的な危険性が生じないよう指示・指導すべき義務があると解するのが相当である。」

と判示し、本件テニス部では、顧問であるA教諭が練習メニュー、練習時間等を各部員に指示し、各部員は、これに忠実に従った練習を行っていたことが認められることから、

「本件において、A教諭には、本件練習メニューを指示するに際して、各部員の健康状態に支障を来す具体的な危険性が生じないように指導しなければならない義務があったというべきである。」

と判示しました。

そして、本件については

  • 本件練習の内容は前記のとおり濃密なものであったところ、平日の練習が午後4時から午後6時30分までであったものが、それを超過する3時間程度のものになっていた上、通常の練習の時間帯よりもより日差しが強くなりやすい時間帯に設定されたことを考慮すると、その練習メニューは、女子高校生である部員らに対する負荷の程度は相当に重いものであったというほかない。
  • 本件練習当日は、本件高校の定期試験の最終日であり、生徒である部員らがその試験勉強のために十分な睡眠をとることができていない可能性があることはA教諭も認識していたことが認められる。
  • 本件事故当日は初夏であり、既に前日等において当該地域では25度を超える気温となっており、当日は天候も良く、本件テニスコート内の気温が上昇して30度前後となるであろうこと、本件テニスコート内にはめぼしい日陰もなかったこと、原告が帽子を着用していなかったことについても、練習当初の約30分間指導していたA教諭は認識し、少なくとも十分に認識し得たといえる。
  • 当時キャプテンになったばかりであった原告にとっては、本件事故当日は、A教諭がほとんど立ち会わない中でキャプテンとして部員らを指示しながら練習をした初めての日であるから、その練習の配分の指示や段取り等に馴れていなかったと考えられ、その真面目な性格に鑑みても、A教諭の事前のメモによる指示に忠実に従い、無理をしてでも、率先して練習メニューをこなそうとすることがA教諭において想定できたと認められる。

とした上で、

「以上の各事情を踏まえると、本件練習に立ち会うことができず、部員の体調の変化に応じて時宜を得た監督や指導ができない以上、A教諭においては、原告を含めた部員らの健康状態に配慮し、本件事故当日の練習としては、通常よりも軽度の練習にとどめたり、その他休憩時間をもうけて十分な水分補給をする余裕を与えたりするなど、熱中症に陥らないように、予め指示・指導すべき義務があったといえる。

それにもかかわらず、A教諭は、前記認定のとおり通常よりも練習時間も長く、練習内容も密度の高いメニューを原告に指示した上、水分補給に関する特段の指導もせず、水分補給のための十分な休憩時間を設定しない形で練習の指示をしていたことが認められる。」

として、

「したがって、A教諭は、上記義務に違反したものというほかない。」

と判示して、被告兵庫県に対する損害賠償請求を認めました。

熱中症の危険因子について

スポーツ中に熱中症を発症したという事例は数多く存在します。

熱中症の危険因子については、スポーツの強度や負荷の程度のほかにも

  1. 気温・湿度
  2. 暑さに対する慣れ(暑熱馴化)
  3. 水分補給
  4. 透湿性・通気性の良い帽子・服装の着用
  5. 生活習慣(睡眠不足、風邪、発熱、下痢などの体調不良等)

が発症に影響を及ぼす要因になると考えられています。

今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、部活動をはじめとして、多くのスポーツの現場で練習等の自粛が求められました。

その意味では、暑さに対する慣れが十分ではないと考えられます。

また、運動不足や睡眠不足、常時マスクを着用することによる体調の変化などもありえます。

にもかかわらず、自粛していた期間を取り戻そうとして過度な練習を行ってしまうと、熱中症の発症リスクを高めることになりかねません。

本件においても、定期試験で休みであった期間を取り戻そうと顧問教諭が過度な練習を課したために起きた事故であると考えられます。

新型コロナウイルスの対策だけでなく、熱中症対策も怠らないように注意してください。

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