県立高校バレーボール部顧問から受けた暴力や暴言によりPTSD等を発症したと主張した事例

2018.11.14 体罰

盛岡地方裁判所平成29年11月10日判決

事案の概要

本件は、原告Xが、被告岩手県が設置する岩手県立A高等学校に在学中、活動に参加していた男子バレーボール部の顧問を務めていた被告Yから日常的に暴力や暴言等を受けたことにより、心的外傷後ストレス障害(PTSD)又は適応障害等の精神障害を発症したなどと主張して、被告Yに対しては、不法行為に基づき、被告県に対しては、国家賠償法1条1項に基づき、連帯して損害賠償を求めた事案です。

原告Xは、平成20年7月中旬頃から、正式に入部はしていないものの、本件バレー部の活動に参加するようになりました。

原告Xは、おおむね部員らと同じ日程で練習や練習試合に参加していましたが、生徒会活動があるときはこちらを優先し、本件バレー部の練習には出席していませんでした。

被告Yは、原告Xが生徒会活動を優先させることを許容しており、また、練習試合も、本件バレー部の部員が原告Xを含めて6名しかいなかったため、原告Xの都合に合わせて日程を組んでいました。

被告Yは、練習試合を含む本件バレー部の指導中、ボールを打ち込んで練習の指導をする際に、ボールが部員らの身体に当たることがあり、また、部員が集中力を欠いていて被告Yの指導に沿ったプレーができなかったりした場合に、その集中力を高めるためとして、原告Xが見ている前で、他の部員に対し、叱責とともにその頭や顔を両手又は平手で叩いたり、手に持っていた手帳やノートで頭を叩いたり、肩を押したりすることがありました。

さらに、被告Yは、練習試合を含む本件バレー部の指導中、部員が集中力を欠いていて被告Yの指導に沿ったプレーができなかったりした場合に、原告Xを含む部員らに対し、激しい口調で、

「木偶の坊。」

「お前は駄馬だ。」

「駄馬がサラブレッドに勝てる訳ねえんだ。」(練習を積み重ねなければ実力のない選手は勝てないとの趣旨)

「ばかやろう。」

「何をやっているんだ。」

「お前のせいで負けたんだ。」

などと部員を激しく怒鳴りつけたり、怒りに任せてペットボトルを地面や壁に投げつけたり、ボールや籠を蹴ったりすることもありました。

本件バレー部では、同年11月1日に本件L遠征が予定されており、これは、1週間後に控えた新人戦岩手県大会前の重要な遠征試合でした。

しかしながら、原告Xは、本件L遠征を連絡をせずに欠席し、被告Yからのメールにも返信しませんでした。

そのため、本件バレー部は、部員らが急きょ代役を探し当てて遠征試合を行いました。

原告Xは、同月4日頃、本件バレー部の全体練習が終了したおおよそ午後7時に、被告Yから体育館に設置されている体育教官室に1人だけ呼び出されました。

体育教官室では、椅子に座った被告Yが、対面するXを立たせたままの状態で、本件L遠征を無断欠席したことについて、

「相手方にお願いしてやっている手前こちらがやってはいけないことがある」

「チームスポーツなので普段の生活から人に迷惑をかけないようにしないといけない」

「このままじゃだめだろう」

「『Nら(同級生)4名は一生懸命なので救ってやりたい、迷惑かけないで頑張りたい』と言っていたのに当日まで連絡しないのはおかしいだろう」

などと厳しく叱責し、その際、

「ふざけるな。」

「なめるんじゃねえぞ。」

「お前のような人間が大人になると社会を駄目にする。」

などと激しい口調で怒鳴り付ける場面もありました。

また、叱責の過程で、被告Yは、感情的になり、約1.1mの距離で対面していた原告Xの目前で、右手に持っていた鍵を、自身から見て右手の壁に向かって投げつけたり、「くそ。」などと言いながら机を拳で何度か叩いたりしました。

被告Yは、途中で原告Xを着座させましたが、その叱責は少なくとも1時間に及びました。

裁判所の判断

被告Yの違法行為について

裁判所は、被告Yの言動として

  1. 平成20年11月4日頃の本件バレー部の練習終了後、原告Xを1人体育教官室に呼び出し、原告Xが同月1日の本件L遠征を無断欠席したことを少なくとも1時間にわたり厳しい口調で怒鳴って叱責したことがあり、その際、感情的になって壁に鍵を投げつけたり、机を強打したりする場面があったこと

  2. 本件バレー部の指導の過程で、集中力を高めるためとして、原告Xが見ている前で、他の部員に対し、叱責とともにその頭や顔を両手又は平手で叩いたり、手に持っていた手帳やノートで頭を叩いたり、肩を押したりするなどの行為に及ぶことがあったこと

  3. 本件バレー部の指導の過程で、原告Xを含む部員らに対し、激しい口調で、「木偶の坊。」、「お前は駄馬だ。」「駄馬がサラブレッドに勝てる訳ねえんだ。」(練習を積み重ねなければ実力のない選手は勝てないとの趣旨)、「ばかやろう。」「何をやっているんだ。」「お前のせいで負けたんだ。」などと部員を激しく怒鳴りつけたり、怒りに任せてペットボトルを地面や壁に投げつけたり、ボールや籠を蹴ったりすることがあったこと

を認定しました。

そして、これらのうち1の体育教官室における被告Yの指導について

「本件L遠征を無断で欠席した原告Xの行為を正し、本件バレー部の活動の規律を守るために行われたものであり、その必要性、目的自体に何ら問題はなかったといえる。」

としながらも

「しかしながら、そのやり方として、被告Yは、体育教官室という閉鎖された室内において、1対1で、少なくとも約1時間にわたって、一方的かつ威圧的に厳しく叱責し、鍵を壁に投げつけたり、机を強打したりするという、間接的な暴行とも評価し得る行為にも及んでいるのであって、到底妥当性を見出し難い。」

として、

「被告Yと原告Xが部活動の監督兼顧問と生徒という関係で、日頃から厳しい指導を受けていた事情が認められることや、原告Xの年齢に照らすと、両者に極端な体格差はないことを考慮しても、その行為は、上記目的のための手段として社会的相当性を欠き、生徒である原告Xを過度に畏怖させるものであったと解される。」

と判断しました。

他方で、2と3については、

「本件バレー部の日頃の指導の過程で、原告X以外の部員に対し、時には平手で叩く等の有形力を行使した指導に及び、また、原告Xを含む部員に対し、怒声を浴びせ、さらに、場合によっては、部員の面前で怒りを露わにするような行動をとっている。

上記被告Yの言動は、本件バレー部で掲げた岩手県大会ベスト8又はベスト4進出という目標に向けて、原告Xを含む部員らの心身を鍛え、その能力等を向上させるための指導として行われた過程の下で生じたものであるが、被告Yのこれらの言動は、学校内の部活動における高校生を対象とした指導として、時に冷静さを欠く面がなかったとはいえず、特に、平手で叩く等の指導については、部員の集中力を高めるために相手を選んで行ったものだとしても、指導の手段として社会的相当性を欠くといわざるを得ない。」

としながらも、

「もっとも、運動部における指導は、静謐な場で間近な距離で対面して行われるものばかりではなく、また、いずれにせよ、勝敗を決するという最終目的に向けて、技術を定着させ、気力や体力を向上させていこうとするものであるから、その指導の過程にあっては、必然的に声が大きくなり、また、突発的に多少の荒い言動が出てきてしまうのもやむを得ない面があり、そして、時には敗因を明示することも必要である。また、被告Yが少なくとも原告Xを除く部員に対して行使した平手打ち等の有形力の行使や、物に当たるという行為も、その頻度の詳細は確定できないものの、日常的、頻繁というものではなく、ごくたまにそのようなこともあったという程度のものと推認できる。」

として

「被告Yの言動は、問題がないとはいえないものが認められるものの、これらを、原告Xに対する関係において、不法行為法上の観点から見て違法であると断言することは、躊躇されるものである。」

と判断しました。

その結果、

「被告Yの体育教官室における原告Xに対する言動においては、原告Xに対する指導として社会的相当性を欠いており、違法行為に当たると解するのが相当である」

と判断されました。

そして、被告Yの体育教官室における原告Xに対する言動は、その態様等に照らし、それ自体として原告Xに精神的苦痛を与えたと解するのが相当であると判断されました(PTSDの発症については否定されました)。

被告県の責任について

裁判所は、被告県の責任について

「被告Yの原告Xに対する指導は、被告県の公権力の行使に当たるから、被告県は、被告Yの故意又は過失によって原告Xが被った損害につき、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償義務を負う。」

と判断しました。

被告Y個人の原告Xに対する不法行為責任について

他方で、裁判所は

「被告Yの体育教官室における原告Xに対する言動は、原告Xに対する不法行為を構成する。」

としながらも、

「しかしながら、公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合、国又は当該公共団体が損害賠償責任を負い、当該公務員は直接被害者に対して損害賠償責任を負わないと解するのが相当である(最高裁判所昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁)。」

として、原告Xの被告Y個人に対する不法行為に基づく損害賠償請求は認めませんでした。

体罰の撲滅のためには顧問教員の個人責任が認められるべき

部活動における顧問教員の体罰に関しては、顧問教員が公立学校の公務員である場合、本件訴訟でも引用されている最高裁判決により、顧問教員個人に対する不法行為に基づく損害賠償請求が認められていないのが実情です。

他方で、これが私立学校の顧問教員である場合には認められています。

これは明らかに不合理であるといえます。

体罰は、教育的な意味合いを持つ言葉であるがために、どこかで「教育上やむを得なかったのではないか」という意識が働きがちです。

しかし、顧問教員がとった行動を外形的・客観的に見れば、体罰は「暴力」に他なりません。

部活動を初めとするスポーツの現場から体罰を撲滅するためには、体罰は「暴力」であることを明白にしたうえで、刑事上及び民事上の法的責任を追及することが必要だといえます。

これが体罰撲滅に向けた抑止力となります。

公務員であるからという理由で例外的に取り扱われる合理的な理由は全くないのです。

国家賠償法の規定や最高裁判例の見直しが急務だと思います。

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