府立高校男子バレーボール部員が体育館の天井に乗ったボールを取りに上った際に転落した事故

2018.11.27 スポーツ中の事故

大阪地方裁判所平成25年7月29日判決

事案の概要

本件は、原告が、大阪府立A高等学校2年生在学中の平成21年8月15日、A高校の体育館において、男子バレーボール部の部活動終了後、本件体育館の天井部分に乗ったボールを取るため、本件体育館に設置されたはしごを使って天井部分に上ったところ、天井部分のうちベニヤ板でできた飾り板部分を踏み抜いて本件体育館の2階フロアに転落し、左外傷性視神経症や右橈骨遠位端骨折等の傷害を負い、視力につき後遺障害を負った事故について、原告が、被告大阪府に対し、本件体育館の設置又は管理に瑕疵があったと主張して、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

本件体育館は3階建てであり、1階には、柔道場、剣道場等が、2階には、競技場(フロア)、ステージ等が、3階には、ギャラリー、更衣室等があり、それ以外は吹き抜けとなっていました。

天井部分には、設置された蛍光灯の北側に蛍光灯を交換する際に使用する通路部分があり、蛍光灯の南側に飾り板部分がありました。

なお、天井通路部分及び飾り板部分の幅はそれぞれ約100センチメートル、天井部分から2階フロアの床面までの高さは約7.25メートルでした。

天井部分の構造については、天井部分のうち、天井通路部分は、厚さ3ミリメートルのベニヤ板及び厚さ105ミリメートルの桧材の上に厚さ24ミリメートルのラワン材が敷かれており、人の体重を支えることができますが、飾り板部分は、厚さ3ミリメートルのベニヤ板が張られたのみで、人の体重を支えることができない構造になっていました。

本件体育館の3階には、天井部分に上るためのはしごが合計4か所に設置されており、本件事故当時、生徒も本件はしごを使用すれば容易に天井部分に上ることができました。

A高校の男子バレーボール部では、部活動中にボールが天井部分に乗ることが度々あり、部員は、本件はしごを使用して天井部分に上り、ボールを取っていました。

このことは、顧問であるC教諭も認識していました。

平成19年12月、本件体育館において、男子バレーボール部の部活動中に天井部分に乗ったボールを取るため、本件はしごを使って天井部分に上った部員が飾り板部分を踏み抜いた事故がありました。

なお、この事故では、部員は転落には至りませんでした。

この事故を受けて、C教諭は、部員に対し、「大変危険な行為であるので、(天井部分に)上らないようにしなさい。」などと口頭により注意しました。

また、C教諭の指示で部員が修理担当者(事務室)に謝罪に行った際にも、修理担当者から、「上ると危険であるから、上らないように。」という話がありました。

C教諭は、この事故の経緯を、別の顧問と一緒に当時の校長に報告しました。

原告は、平成20年4月にA高校に入学し、男子バレーボール部に入部しましたが、同月以降も、練習中にボールが天井部分に乗ることが度々ありました。

原告は、同部の先輩から、ボールが天井部分に乗ったときは、本件はしごを使って取りに行けばよいと聞かされており、実際、練習中にしばしばボールが天井に乗り、使用できるボールが減ってくると、部員が本件はしごを使って天井部分に上ってボールを取っており、原告自身も、本件事故以前に2~3回取りに行ったことがありました。

当時の男子バレーボール部においては、D教諭が主顧問として、C教諭及びE教諭が顧問として部員の指導に当たっていました。

平成20年4月末頃、部員が、E教諭に対し、ボールが天井部分に乗ったので取りに行かせてほしいと許可を求めたため、E教諭はこれを許可し、同教諭の監督の下、上記部員は、天井部分に上り、ボールを取りました。

平成21年3月、部員が、天井部分に上り、ボールを本件体育館の2階フロアに落としたことがあり、その場に居合わせたE教諭は、天井部分にいる部員に対し、「危ないやろ。」「誰に許可を得て上がってるのや。上がったらあかんやろ。」と大声で叫んで叱責しましたが、それ以上に上記部員を含む部員に対し、天井部分に上らないよう指導することはなく、他の顧問や校長らに報告もしませんでした。

E教諭は、平成21年8月15日、女子バレーボール部の練習終了後、本件体育館3階のギャラリー通路部分に男子バレーボール部のボールがあるのを見つけ、女子バレーボール部の部員に対し、そのボールを回収しておくよう男子バレーボール部の部員に伝えるようにと指示をしました。

女子バレーボール部の部員は、原告を含む男子バレーボール部の部員に対し、「先生が上のボールを回収するよう言っている」と伝えたところ、原告は、同日の練習中に自分が天井部分に乗せてしまったボールを回収しておくようにと指示されたものと認識し、他の部員1名と共に天井部分に乗ったボールを取りに行くことにしました。

原告は、本件はしごを使って天井部分に上り、蛍光灯にまたがる体勢でボール付近まで歩き、飾り板部分に乗っていたボールを取るため右足を飾り板部分に踏み出したところ、これを踏み抜き、本件事故に至りました。

原告は、本件事故後直ちに大阪大学医学部附属病院の救急救命センターに搬送され、右橈骨遠位端骨折、左前額部挫創、左外傷性視神経症、左眼窩内側壁・左眼窩吹き抜け骨折と診断されました。

原告は、平成21年8月15日から同月20日までは阪大附属病院において入院治療を受け、同日、K病院に転院し、以降23日までは同病院において入院治療を受けました。

原告は、同日K病院を退院しましたが、同年9月3日から平成22年9月15日にかけて、阪大附属病院又はK病院において通院治療を行い、同日、阪大附属病院において、左眼につき矯正視力は0.08、水平半盲(上方視野欠損、V/4指標で50パーセントの視野損失、Ⅰ/3指標で50パーセントの中心視野損失)であり、今後回復の見込みはない旨の診断を受けました。

裁判所の判断

本件体育館の設置又は管理に瑕疵があったか

裁判所は

「国家賠償法2条1項の『営造物の設置又は管理の瑕疵』とは、営造物が本来有すべき安全性を欠いている状態をいい、これを当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである。そして、当該営造物に係る事故の発生が当該営造物の設置・管理者において通常予測することのできない行動に起因するものであるときには、当該営造物が本来有すべき安全性に欠けるところはないと認めることができる(最高裁判所昭和53年7月4日判決民集32巻5号809頁)。」

とした上で、

「本件体育館の天井部分のうち、飾り板部分は、厚さ3ミリメートルのベニヤ板が張られたのみで、人の体重を支えることができない構造であり、本件事故当時、本件体育館の3階に設置されていた本件はしごを使用すれば、生徒が容易に天井部分に上ることができたことが認められる。そして、男子バレーボール部では、かねてより、部活動中にボールが天井部分に乗ることがあり、平成19年の事故以前において、部員は、本件はしごを用いて天井部分に上り、ボールを取っていたことについては、被告も争うところではない。そのような状況において、平成19年の事故が起こったが、A高校は、同事故は、天井部分に乗ったボールを取ろうとした部員が、本件はしごを使って天井部分に上ったために起きたものであることを認識しながら、本件事故に至るまで、天井部分にボールが乗らないようにする措置や部員が物理的に本件はしごを使用できないようにする措置を何ら執っていない。そうすると、平成19年の事故以降も部活動中にボールが天井部分に乗ることがある状況は変わらないのであるから、被告は、本件事故の時点において、部活動中にボールが天井部分に乗り、部員がボールを取るため天井部分に上る可能性があることを十分認識することができ、ひいては、本件事故を予見できたというべきである。」

と判示しました。

この点、被告は、

  1. 顧問は、平成19年の事故以降、部員に対し、天井部分に上ってはいけない旨厳重に注意、指導してきた

  2. 原告は、成人に近い判断力、適応力を有する年齢であり、飾り板部分が自己の体重を支えられない構造であることや天井部分から転落すれば重大な事故になることを認識していたにもかかわらず、軽率にも飾り板部分を踏み抜くという通常の高校生が取らないような行動を取っている

として、

「本件事故は、被告において予測し得ない原告の行動に起因するものであり、本件体育館の設置又は管理に瑕疵はない」

と主張しました。

これに対し、裁判所は、上記1の点について、

  • 顧問は、平成19年の事故後、部員に対し注意や指導をしたが、原告が男子バレーボール部に入部した平成20年4月以降も、同部では、ボールが天井部分に乗った場合には部員が本件はしごを使って天井部分に上り、ボールを取っていたと認められる。
  • そして、E教諭は、平成21年3月に、部員が天井部分に上った事実を認識したにもかかわらず、その場で当該部員を叱責するに止まり、それ以上に当該部員を含む部員に対して天井部分に上らないよう指導するなどもしていない。
  • また、C教諭が平成20年4月以降に行った指導も、ボールが天井部分に乗った場面を目撃したり、聞いたりした際に、部員に対し、『天井に上ったボールは取りに行かず、あきらめるように。』などと注意したというものに止まる。

などを踏まえ、

「上記のようなE教諭及びC教諭の注意・指導の内容に照らすと、顧問が、部員に対し、本件事故の予測可能性を否定し得る程に厳重な注意・指導を徹底していたとは認められない。」

と判断しました。

また、被告が

「口頭による指導・注意をすれば、部員が天井部分に上ることはないと考えていた」

と主張した点についても

「平成19年の事故後に指導を行っていたにもかかわらず、平成21年3月には部員が天井部分に上ってボールを取っていたこと、高校生の男子バレーボール部員であれば本件はしごを使用して容易に天井部分に上がることができる状態であったことを踏まえると、問題が生じた際に場当たり的に注意をするのみで、物理的に天井部分に上がることを防ぐ措置を講じたり、継続的に天井に上がらないように注意することもなかったという事情の下では、部員が天井部分に上がることが予測し得ないものと認めることはできない。」

と判示しました。

次に、2の点について、裁判所は、

「天井部分は、天井通路部分と飾り板部分の下面には同一素材のベニヤ板が張られており、2階フロアから天井部分を見上げても上記両部分の構造の違いを把握することはできないこと、顧問が、原告を含む部員に対し、天井部分の構造を説明した事実は認められないこと、天井部分は相応に薄暗く、埃等も堆積していることに照らすと、原告が天井部分に上った後、本件事故現場まで約11.1メートルにわたり強固な素材でできた部分を歩いている事実を踏まえても、原告において飾り板部分が自分の体重を支えられないことを認識し、又は、認識し得たとは認められない」

として、被告の主張を排斥しました。

以上より、裁判所は、

「本件体育館の設置又は管理に瑕疵があったと認めるのが相当である。」

と結論づけました。

過失相殺について

他方で、裁判所は

「原告は、本件事故当時、相応の判断能力を有する年齢(17歳)であったこと、天井部分に上る行為が禁止されていること及び当該行為の危険性自体については認識していたこと等の事情を踏まえると、原告には、過失があったと認められ、その過失割合は、全事情を踏まえ3割が相当であると解する。」

と判断しました。

この点、原告は、

「原告には過失相殺されるべき過失がない、過失相殺を認めることは、営造物の設置又は管理の瑕疵により損害を被った者の救済を図るという法2条の制度趣旨を没却することになり、妥当でない」

などとして、本件においては過失相殺すべきでない旨を主張しました。

しかし、裁判所は

「本件事故の発生に関して原告に過失が認められるのは、前記認定のとおりであり、また、過失相殺は、損害の公平負担という趣旨に基づくものであって、これを認めることが直ちに法2条の制度趣旨を没却することにはならない」

として、原告の主張を排斥しました。

なぜ放置していたのか疑問

判決文によると、本件事故が発生する前に一度事故が起きていました。

幸い、転落には至らなかったようですが、この時点で顧問教員をはじめ、校長や修理担当者は危険性を認識したはずです。

しかし、その時点では改善されることなく、そのまま放置していたようです。

顧問教員や校長などが体育館の瑕疵に気づいたからといって、自ら改善するべきとは思いませんし、そのようなことはそもそも不可能です。

とすると、少なくとも顧問教員から報告を受けた校長は、直ちに自治体に連絡をして改善を求めるべきだったと思います。

判決文を読む限り、そのような行動はとられていないようでした(判決文によると、本件事故後に、本件体育館に設置されたはしご4本のうち3本については、はしごの上部3段を残してその余の部分を撤去し、残り1本については、はしごにベニヤ板を打ち付けた上、『高所作業用タラップに付き危険なので生徒は絶対に上らないこと』と記載された注意書を掲示したとのことです)。

体育館の場合、そもそもの構造の問題もさるこながら、老朽化により安全性が確保されているとは限らないものも相当数存在するものと思われます。

予算の問題があることは承知していますが、何よりも人命を守ることに重点を置いて考えるべきではないでしょうか。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top