市立中学校バレーボール部顧問教諭の体罰に関する教職員事故報告書と内申書への記載が問題となった事例

2019.02.12 体罰

浦和地方裁判所平成5年11月24日判決(現在はさいたま地方裁判所)

事案の概要

本件は、公立中学校バレーボール部に所属していた男子中学生が、試合終了後に顧問教諭から体罰を受けたとして、中学校を設置する被告大宮市(現さいたま市)に対しては国家賠償法1条1項に基づき、顧問教諭に対しては民法709条に基づきそれぞれ損害賠償を請求したほか、同中学校の校長に対しても、校長として教諭による体罰の発生を防止すべき職務上の義務があり、かつ、本件中学校において、体罰(しごき)と称する暴力が蔓延し、その中で被告Yが再三にわたって暴力的な部活指導を繰り返していた事実を熟知していたにもかかわらず、顧問教諭らに対し何ら注意も与えず、その体罰(しごき)を容認するどころか、むしろ公然と体罰(しごき)と称する暴力を教唆・煽動するような言動に終始していたとして、民法709条に基づき損害賠償を請求した事案です。

原告は、被告大宮市(現さいたま市)が設置管理する本件中学校の男子バレーボール部に所属していました。

被告Yは、本件中学校の教諭であり、バレーボール部顧問として指導に当たっていました。

被告Zは、本件中学校の校長でした。

被告Yは、昭和59年10月19日午後0時30分頃、大宮市民体育館で行われた男子バレーボール新人戦大宮市大会の第一試合終了後、苦戦の末勝利したことを喜ぶ選手全員を含む部員を同体育館の廊下に集合させ、被告Yを取り囲むように半円形に並んだ選手全員に対して、「お前らの今の試合は何だ、だらだらやっているからこんなことになるんだ、反省の言葉を言え。」と怒鳴りつけ、選手らがこもごも反省の言葉を述べおわるや、いきなり理由もなく左端の選手から順次その右顔面を利き腕である左手の手のひらで激しく殴打し、右端に並んでいた原告に対しても、その右頬を激しく殴打しました。

その結果、原告はよろけ、左側頭部付近を数センチ後方にあった鉄筋コンクリート角柱の壁面に激突させました。

原告は、本件行為により、頭部打撲、頸椎捻挫等の傷害を負いました。

裁判所の判断

被告Yの不法行為

裁判所は、

  • 被告Yが、昭和59年10月19日午後0時30分頃、大宮市体育館で行われた男子バレーボール新人戦大宮市大会における第一試合終了後、通例に従いミーティングのため、出場選手全員を同体育館廊下に集合させ、同被告を取り囲むように反円形に並んだ部員のうち出場選手全員に反省の言葉を述べさせた後、左手の手のひらで各選手の右頬をたたいたこと
  • その際、原告がよろけてコンクリート角柱の壁面に頭をぶつけたこと

については当事者間に争いがないとした上で、

  • 原告は、被告Yを取り囲むように並んだ選手たちの右端におり、廊下に突出しているコンクリート角柱の壁面に肩を接するような位置に立っていたこと
  • 被告Yの殴打の態様は、一時間近い長時間の接戦の末、2対1で辛勝したという第一試合の試合内容に腹を立てていた状態で、選手らに反省の弁を言わせた直後に利き腕である左手の手のひらでいきなり各選手の顔面を張る(殴打する)という態様で、顔面を張られた(殴打された)選手がその勢いで右側によろけることが当然に予測できる態様であったこと
  • 右態様による暴行の結果原告はその左側頭部の後ろ付近をコンクリート柱の壁面に衝突させたこと

がそれぞれ認められるとしました。

なお、被告らは、

「被告Yの右殴は、第二試合に臨む選手らに活を入れるためになされたものである」

と、その動機を主張しましたが、裁判所は、

「被告Yにそうした意図・目的が全くなかったとまではいえないものの、むしろ第一試合のような試合内容では、第二試合には勝てないという焦りの感情をそのまま原告らにぶつけたにすぎないと認めるのが相当であって、被告Yに、本件行為を正当化しうるに足りる教育的配慮等があったものとは認められない。」

と判示しました。

被告Zの不法行為

裁判所は

  • 被告Yは、昭和56年4月に新任の教師として本件中学校に赴任した者であるが、本件行為以前の昭和57年に生徒を殴ってその目に怪我をさせたこと
  • 昭和59年にも生徒を殴ってその鼓膜を破ったこと
  • 本件中学校在任中(昭和63年3月まで)に少なくとも10回以上は生徒を殴っているところを目撃されているほか、本件行為後にも被告Y以外の教師で原告の頭を殴った者がいること
  • 昭和60年には、被告Y以外の教師で生徒を殴ってその鼓膜を破った者がいること

が認められるとした上で、

「そうした事実を総合すると、本件中学校では、原告が被告Yから殴打された当時、複数の教師により、体罰もしくは体罰の外形をとる生徒への暴行等の行為が行われていたものと認められる。」

としました。

そして、裁判所は

  • 被告Zは、被告Yと同じ昭和56年4月に校長として本件中学校に赴任した者であるが、被告Yが生徒の目に怪我をさせたことについては知っていたが、鼓膜を破ったことについては被告Yが報告しておらず、被告Zはこの事実を知らなかったこと
  • 被告Zが被告Y以外の教師の暴行について実際に目撃したのは1件だけであるが、その他の調査、報告によって知っていたものは他にもあること

がいずれも認められるとした上で、

「そうしたことからすると、被告Zは、少なくとも本件中学校において複数の教師により体罰が行われていたことを本件行為以前に知っていたものと認められる。」

としました。

もっとも、裁判所は

「被告Zは、本件中学校で起きた体罰について全てを把握してはいなかったが、少なくとも被告Zが知った件については、被告Yをはじめ当該教師に注意を与えていることが認められ、被告Zが被告Yの体罰と称する暴力を伴う指導方法を容認し、公然とこれを教唆・指導するような言動に終始した事実までは認められず、他に重過失に基づく職務違反行為があったと認定するに足りる証拠はなく、また、被告Zの行為によって本件行為が誘発されたことを窺わせる事実を認めるに足りる証拠はない。」

として、原告の主張を排斥しました。

被告らの責任

裁判所は、被告大宮市について

「被告Yが、本件行為当時、被告市の公権力の行使にあたる公務員であったことは、当事者間に争いがなく、被告Yが、その職務である教育活動の過程において原告に対して暴行を加え、傷害を負わせたものであるから、被告市は、国家賠償法1条1項に基づき、被告Yの行為によって原告が被った損害を賠償すベき責任があるものと認められる。」

と判断しました。

他方で、裁判所は、原告が被告Y個人にも原告に対しその損害を賠償すべき責任がある旨主張した点について

「国又は公共団体の公務員がその職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体が、その被害者に対して損害賠償の責任を負い(国家賠償法1条1項)、当該公務員個人は、直接被害者に対して損害賠償責任を負うことはなく、当該公務員に故意又は重大な過失があったときは、国または公共団体は当該公務員に対して求償権を有する(同法1条2項)ので、国又は公共団体からの当該公務員に対する求償権の行使という方法でのみ当該公務員に責任を負担させることができると解するのが相当である。」

として、被告Yの原告に対する損害賠償責任は認められないと判断しました。

また、裁判所は、原告が被告Zの職務上の義務違反によって被告Yの本件行為が誘発されたとして、被告Z個人の不法行為を主張した点について、

「被告Zには、そもそも原告らが主張するような重過失に基づく職務違反行為があったとは認められない。」

として、被告Zの原告に対する損害賠償責任は認められないと判断しました。

慰謝料について

裁判所は、

  • 本件行為は何ら懲戒事由もなくなされたもので、いわれのない暴行を教師である被告Yから受けた原告のショツク、悔しさは大きく、教師に対する不信感も強く生じた。原告は本件行為による傷害と後遺症により、中学二年の後半から中学三年という重要な時期に、長期にわたる欠席を余儀なくされた。なお、後遺症による欠席が長期にわたったことについては、原告の頸椎捻挫の診断が本件行為による受傷後約1年7か月後に初めてなされ、この間、頸椎捻挫に対する適時の適切な治療が全くなされなかったこと及び、原告の母の学校に対する抗議等により本件行為が学校全体の問題として大きく取り上げられたため、原告が精神的負担を感じざるを得なかったことも影響していることは否定できない。
  • 被告Yは、本件行為以前にも二度も生徒を殴り怪我をさせたという経験があるのであるから、打ち所が悪ければ傷害を負わせる結果になることを経験上も知っていた上、原告の顔面を殴り、結果として身体の枢要部である頭部をコンクリートの角柱の壁に激突させたにもかかわらず、特に原告の状態を確かめることもせず、次の試合に原告を出場させ、その後学校に帰り練習したのちに下校させるまで何の配慮もしなかった。
  • 被告Yは、本件行為について校長に報告することもせず、原告の両親に知らせることもしなかったばかりか、本件行為後原告に直接謝罪したこともなかった。
  • 被告Zは、本件行為の翌日の午前中、校長に面会に来た原告の母から本件行為について聞き、授業中の教室へ赴き、廊下で原告の状態を尋ねたが、原告の訴えを十分に聞かず、原告の負傷部位についての観察も十分には行わなかった。
  • 被告Zは、本件行為について原告から事情を聴かず、被告Yからの事情聴取を中心に大宮市教育委員会に提出する「教職員事故報告書」を作成したため、右報告の内容は、本件行為の動機、態様について被告Yの言い分にそったものとなり、原告負傷の事実も明記されなかった。この点について原告の母が訂正を申し入れたにもかかわらず、被告Zは速やかに訂正をせず、再度の協議ののちに訂正した。
  • 被告Zは、本件行為後にたびたび行われた原告の母との話合いの際に、原告の内申書(高等学校入学志願者調査書)の記載についても話合い、原告の受験について配慮して、昭和61年度の内申書においては原告の欠席日数が本件行為に基因するものであり本件中学校に責任があることを明記する事を話し合った。
  • その後、被告Zの責任において昭和61年1月頃作成した原告の昭和61年度の内申書には、「本件行為が欠席の遠因となった」「頭を壁にぶつけた(激突したとは書かれていない)」と記載され、長期欠席の理由に情緒不安定による登校拒否もある旨記載された。

との事実を認定しました。

なお、原告は、

「被告Zは、昭和61年度の内申書において原告の欠席日数の多さが本件行為に起因するものであり本件中学校に責任があることを記載すると約束したにもかかわらず、本件行為を隠蔽し、また本件行為の責任を問う原告らに報復する目的で、原告について事実に反し且つ不利益な内容の内申書を作成した。」

と主張しました。

これに対して、裁判所は、

「(内申書の)記載は、本件行為か直接の原因だとされておらず、頭をぶつけた状況についてゆるやかな表現になっている点で事実よりはやや後退した表現になっているが、一応本件行為については触れられており、長期欠席の理由に情緒不安定による登校拒否が挙げられていることを配慮してもなお、本件行為を隠蔽する目的で記載されたとまでは認められない。」

「原告の長期欠席の主たる原因は本件行為の後遺症によるものといえるが、内申書記載当時には、原告が頸椎捻挫の傷害を負っているとの医師の診断は全くされていなかったこと、被告Z自身原告の受験については心配し配慮していたことが窺われること、被告Zは本人尋問の時点でもいまだに原告の長期欠席の原因か情緒不安定にあると信じていることから、被告Zは情緒不安定による登校拒否との記載が事実に反するとは思っていなかったことが推認されるのであって、その判断及び記載したことの当否はともかく、原告らに報復する目的で前記のように記載したとは認められず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」

として、原告の主張を排斥しました。

もっとも、裁判所は

「内申書は前記『教職員報告書』とは異なって、本件行為を直接取り扱った文書ではなく、全く別異の目的をもって作成された文書であるから、その記載内容如何が別個の不法行為を構成するのはともかく、本件行為の事後的対応の不誠実さを示すものとして本件の慰謝料算定の一事由に取り入れるべき筋合いのものではないが、本件においては、前記認定のとおり、被告Zと原告の母との間に本件行為を前提とした内申書の記載内容についての話し合いがあったという特別の事情があるから、その限度で本件行為に関連するものとして、斟酌、検討すべきものと認めた」

と判示しました。

その上で、裁判所は

「以上の事実及びその他本件に顕れた諸事情を考慮すると、本件行為によって原告の被った身体的、精神的苦痛に対する慰謝料の額は、150万円が相当と認められる。」

と判断しました。

体罰後の学校・教諭側の不適切な対応について

本判決は、顧問教諭による殴打行為のみなく、殴打行為後の学校・教諭側の不適切な対応や、教育委員会に対する「教職員事故報告書」の一方的な記載、訂正申し入れに対する不誠実な対応、高校入学志願者調査書(内申書)をめぐる親との話合いの経緯等における学校側の不誠実な対応等の諸事情を考慮して、慰謝料の金額を算定しました。

学校教育法11条は、学生、生徒及び児童に対する体罰を禁止していますが、教育現場では体罰が後を絶ちません。

体罰を理由とする損害賠償請求を認容した事例も数多く存在します。

本件は体罰を理由とする損害賠償請求ではありますが、体罰の責任だけでなく、体罰後の学校・教諭側の不適切な対応を慰謝料の算定に際し考慮しており、その点では一歩踏み込んだ事例であると考えられます。

本件のような体罰のみでなく、いじめや学校内での事故を含めて、事後の学校・教諭側の対応に不満を覚える方は多いと思います。

本件は、そのような場合に損害(慰謝料)の算定にどのような影響を及ぼすことになるのかという点で大変参考になる事例であるといえます。

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