市立中学校女子バレーボール部の顧問から暴力及び暴言を受けた事案

2019.12.20 体罰

津地方裁判所平成28年2月4日判決

事案の概要

本件は、原告が本件中学校に在学中、所属していた本件中学校女子バレーボール部の顧問である被告Yから暴力及び暴言を受けたことに関して、被告Yに対しては不法行為(民法709条)に基づき、被告津市に対しては国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求した事案です。

原告は、小学校卒業を控えた平成23年2月25日頃、免疫性血小板減少性紫斑病(出血しやすくなる病気)と診断されました。

原告は、平成23年4月1日、本件中学校に入学しましたが、その際、原告の母は、本件中学校に対し、原告の病気に配慮してもらうよう要請しました。

原告は、女子が加入可能な3種類の部活動(テニス部、バレーボール部、音楽部)の中から、女子バレーボール部を選択して入部し、その後、医師から部活動に参加してもよいとの診断が得られたため、部活動に参加するようになりました。

もっとも、原告が中学1年生の1学期の頃は、通院のために定期的に部活動を休むことがありました。

原告は、本件女子バレーボール部において、アタッカーのポジションを担当していました。

本件女子バレーボール部の部員数は、全部で十数名程度に過ぎず、また、原告の学年の部員は4名でした。

もっとも、本件女子バレーボール部は大会で良い成績を修めており、原告よりも1つ上の学年の部員達が主となって参加した県大会ではベスト8になったことや、原告の学年の部員達が主となって参加した県大会ではベスト16になったことがあり、その後、県大会で準優勝したこともありました。

被告Yは、学生時代にバレーボールの選手として活動した経験があり、平成22年4月1日に本件中学校に着任し、1年間男子バレーボール部の顧問を務めた後、平成23年4月から平成27年3月までの間、本件女子バレーボール部の顧問を務めました。

被告Yは、部活動の指導の際、主にレギュラーとして試合に出る部員達に対し、被告Yから見て消極的と思われるような、期待外れのプレーがあったときなどに、部員達に気合いを入れたり、叱るといった目的から、部員を平手や拳骨で叩いたり、突き飛ばしたり、部員の髪を持って上を向かせるように引っ張ったり、直接当てはしないものの、部員がいる方向に向けてペットボトルや被告Yの靴を投げつけるといった暴力に及んでいました。

被告Yは、部員達の保護者や、男子バレーボール部の顧問らの目を気にすることなく、このような暴力を繰り返していました。

原告が1年生の1学期の頃は、被告Yが原告を殴るといった行為はありませんでしたが、当時の3年生の部員が部活動を終えて、原告がレギュラーになると、原告に対する被告Yの指導が厳しくなっていきました。

そして、原告が1年生の2学期以降、被告Yは、原告が体調などを理由に部活動を休むと、他の部員の前で「お前が休むから話の意味が分からん」などと、原告が部活動を休んだことを非難するような発言をしたり、また、原告が被告Yの期待するプレーができないようなときに、原告に対し、「おまえは論外」などと発言をすることが度々ありました。

また、遅くとも平成23年11月頃以降、被告Yは、原告が被告Yの期待するプレーができないときなどには、原告に対して、拳骨や平手でたたいたり、顔を上に向かせるように髪を引っ張ったり、突き飛ばしたり、ペットボトルや被告Yの靴を原告がいる方向に向けて投げるといった暴力に及ぶことが度々ありました。

平成24年12月22日から同月24日までの間、静岡県湖西市において、本件女子バレーボール部の合宿が行われました。

この合宿には、部員の保護者も同行できることになっていたので、原告の母も同合宿に同行しました。

そして、被告Yは、同月24日に行われた練習試合の際、原告のプレーが消極的なプレーであると感じ、原告に対する期待や苛立ちの気持ちから、保護者たちがいる前で、軍手をした手で原告の頬を2回叩きました。

本件平手打ちにより、原告は少しふらつき、その頬は赤くなりました。

また、本件平手打ちの際、原告は泣いていました。

本件平手打ち事件後、被告Yが原告に対して暴力を振るうことはなくなりましたが、被告Yの指導態度は変わらず、暴言はなくなりませんでした。

平成25年5月3日から同月5日までの間、本件女子バレーボール部の合宿がありました。

合宿中、被告Yは、原告に対し、「手首が痛いのを理由にするな」、「お前は使い物にならない」旨発言しました。

同月4日、部員の一人の保護者から、原告の様子を見に来てやってくれと連絡があったため、原告の両親が合宿場所に行くと、原告はコートから出されて、落ち込んでいる様子でした。

原告は、同月25日、発熱などにより体調不良であったものの、部活動を休んで帰宅できるような状況ではなかったため、部活を終えて帰宅すると、体温が38度6分あるということがありました。

被告Yは、同年6月9日、本件女子バレーボール部の部活動中に、原告に対し、「お前は論外。使い物にならない。」などと発言しました。

原告は、同日、泣いて帰宅しました。

原告は、同年7月2日、被告Yとの関係や、被告Yの言動などを理由に、本件女子バレーボール部を退部しました。

裁判所の判断

暴力の違法性について

裁判所は、

  • 被告Yは、部活動の指導の際、主にレギュラーとして試合に出る部員達に対し、被告Yから見て消極的と思われるような、期待外れのプレーがあったときなどに、部員を平手や拳骨で叩いたり、突き飛ばしたり、部員の髪を持って上を向かせるように引っ張ったり、部員がいる方向に向けてペットボトルや被告Yの靴を投げつけるといった暴力に及んでいたこと
  • そして、原告に対しても、遅くとも同人がレギュラーになっていた平成23年11月頃以降、本件平手打ち事件の頃まで、上記のような暴力に度々及び、本件平手打ち事件に至っていること

などを踏まえて、被告Yの原告に対する上記暴力の違法性を検討しました。

まず、裁判所は、

「部活動は学校教育活動である以上、部活動における顧問の指導ないし懲戒行為についても、学校教育法11条が適用され、同条ただし書で禁止される体罰ないし正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為は違法というべきである。そして、学校教育法11条ただし書に規定されている『体罰』にあたり、正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為にあたるか否かについては、生徒の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、有形力行使の態様・程度、教育的効果、身体的侵害の大小・結果等を総合考慮して、社会通念に則り判断すべきである。」

との判断基準を示しました。

そして、裁判所は、被告Yによる前記の暴力は、

  1. 原告が、被告Yから見て消極的と思われるような、期待外れのプレーをしたことに対して行われたものであって、非違行為に対するものではない
  2. 被告Yに、気合いを入れたり、叱るといった目的が全くなかったとまではいえないにしても、被告Yも自認するように、被告Yにおいて自制できず、その感情(怒り)をそのまま原告にぶつけた面が大きく、前記の暴力を正当化するような教育的配慮があったとは言い難い
  3. 前記の暴力のうち、特に原告を平手や拳骨で叩いたり、突き飛ばしたり、部員の髪を持って上を向かせるように引っ張るといった暴力は、身体に対する直接的な有形力の行使であって、典型的な暴行そのものである
  4. 被告Yによれば、原告の消極的と思われるようなプレーは、前記の暴力を経ても改善されず、結果的にも教育的効果があったとは認められない

といった事情を踏まえ、

「被告Yによる前記の暴力は、学校教育法で禁止される体罰ないし正当な懲戒権の範囲を逸脱した違法な行為であったと言わざるを得ない。」

と判断しました。

暴言の違法性について

裁判所は、

  • 被告Yは、原告が1年生の2学期(平成23年9月)以降、原告が体調不良などを理由に部活動を休むと、他の部員の前で「お前が休むから話の意味が分からん」などと、原告が部活動を休んだことを非難するような発言をしたり、原告が被告Yが期待するプレーができないようなときに、原告に対し、「お前は論外。」などと発言をすることが度々あったこと
  • 被告Yのこのような発言は本件平手打ち事件後も続き、本件平手打ち事件後である平成25年5月3日から同月5日までの間の合宿中にも、原告に対し、「お前は使い物にならない」などと発言した。
  • そのうえ、平成25年6月9日に行われた本件女子バレーボール部の部活動中にも、原告に対し、「お前は論外。使い物にならない。」などと発言したこと

について、

「『お前は論外』、『使い物にならない』との発言は、単に生徒を侮辱し、人格を傷つけ、自尊心を害するものであり、結局、先に検討した暴力と同様、被告Yにおいて自制できないままその感情(怒り)をそのままぶつけた面が大きく、教育目的をもった懲戒行為とは言い難い。

また、原告は、体調不良などの理由があって、部活動を休んだにもかかわらず、他の部員がいる前で、『お前が休むから話の意味が分からん』などと、これを非難するような発言をしたことに、教育目的があったとは認められず、これもまた、他の部員の前で原告を侮辱しただけの発言と評価せざるを得ない。」

として、

「被告Yによる上記各発言(暴言)は、原告に対する違法行為であったと認めるのが相当である。」

と判断しました。

被告津市の責任について

裁判所は、被告Yによる加害行為について

「被告Yは、被告津市の公務員であり、前記暴力及び暴言は、部活動の指導という職務を行うについてなされたものである」

として、

「被告津市は、国家賠償法1条1項に基づき、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。」

と判示しました。

被告Yの責任について

他方で、裁判所は、

「公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体が被害者に対して損害賠償の責任を負い、当該公務員個人は、直接被害者に対して損害賠償責任を負わないと解するのが相当である(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決)。」

として、原告の被告Yに対する損害賠償請求は認めませんでした。

暴力・暴言があった指導者の復帰を求める声に対して

本件については、被告津市が控訴を申し立てました。

その際の被告津市の主張と、これに対する名古屋高等裁判所平成28年9月30日判決における裁判所の判断が非常に参考になりますので、紹介したいと思います。

控訴審において、被告津市は、被告Yの暴力について

「生徒に非違行為がないからといって、スポーツ指導の場面において全ての有形力の行使が違法となるものではなく、注意喚起、激励、覚醒のための有形力の行使については、肉体的苦痛をそれほど与えない軽微なものであれば相当性を逸脱せず、違法であるとはいえない。」

「被告Yは、原告に対する怒りの感情をぶつけて、暴力を振るったものではない。」

「被告Yは、原告に対し、現場での指導の趣旨が伝わりにくかった部分について、部活ノートにおいて補充して指導するなどの教育的配慮をしている。」

「被告Yによる本件平手打ち事件の後、本件女子バレーボール部の生徒は力強く積極的なプレーに転じ、教育的効果があった。」

と主張しましたが、これに対し、名古屋高裁は、

「非違行為がなくとも、注意喚起、激励、覚醒のための有形力の行使が許される場合があるとしても、その態様・程度には自ずと限度があるのであって、軽微とはいえず肉体的精神的苦痛を与える程度の暴力を上記の期間を通じて継続的に行うことについて、懲戒権の行使として許容できるものではない。そうすると、被告Yは、スポーツ指導の場面における注意喚起等の目的で、怒りの感情をそのままぶつけたつもりではなかったのだとしても、被告Yが、原告の年齢等の生徒側の事情や教育的効果、身体的侵害の大小・結果等に必ずしも十分配慮せず、上記の目的を達成するのに必要かつ相当とされる限度を超えて、行き過ぎた暴力に及んだことを否定できるものではない。」

「被告Yが、暴力の後で教育的な配慮をしたとしても、暴力自体に教育的効果があったとはいえない。」

と判示し、被告津市の主張を排斥しました。

また、被告津市は、被告Yの暴言について

「原告についてエースとして使えない旨の発言は、原告の人格を否定するものではなく、身体能力の高い原告にエースアタッカーとして大きく成長してほしいとの願いを込めた励ましの言葉であって、原告を侮辱し、人格を傷つけ、自尊心を害するものではなく、教育目的の懲戒である。」

と主張しましたが、これに対し、名古屋高裁は、

「上記の発言が教育目的であったとしても、その内容は上記のとおりであるから、原告の人格等を棄損することは明らかであり、その棄損の程度が軽微であるなどとはいえない。」

「そのような発言については、相手方が、発言者である指導者に対する強い信頼を抱いていて、発言の内容や態様にかかわらず、専ら自身に対する励ましや成長を促す趣旨であると肯定的に受け止めることができ、かつ指導者の要求する水準に技量を向上させる高度の能力を有しているという特殊な関係があって、初めて指導としての効果を得られるものである。」

「本件女子バレーボール部の活動は、中学校の部活動であるから、中学生に対する教育の一環であって、試合での勝利を至上の目的とするものではない。そうすると、本件女子バレーボール部が三重県大会で好成績を収める県下の強豪であり、原告を含む部員がそのことを認識して同部に入部したとしても、被告Yと同部の部員との間に上記の特殊な関係があったとは認められない。」

「同部の部員の一部保護者に、同部が県下の強豪であることをもって、被告Yの指導態度を支持・助長し又は容認する風潮があったとしても、上記の特殊な関係があることを根拠付けるものではなく、上記の内容を含む暴言による指導を正当化するものではない。」

「被告Yは、原告との間に上記のような特殊な関係がないことを踏まえずに、上記の暴言を吐いて、原告に精神的苦痛を与えたものであると認められる。そうすると、上記の発言は、少なくとも教育目的を達成するための手段として必要かつ相当であるとはいえず、違法であるといえる。」

と判示し、被告津市の主張を排斥しました。

昨今では、指導者による暴行や暴言が発覚し、その責任をとる形で指導者から外された場合でも、指導力を評価する選手や保護者から指導者として復帰することを願うといった風潮があります。

そのことがかえってその指導者による暴力や暴言が正当化なものであったかのような印象を与えてしまいます。

しかし、もしその指導者の指導力が高く評価されるべきだということであれば、暴力や暴言に頼った指導を行う必要は全くないはずです。

指導者による暴力や暴言が教育的な目的でなされたものであったとしても、それはその指導者の内面の問題にすぎず、客観的にみれば違法な行為であるといえます。

そのような違法な行為を正当なものとして子供たちに受け入れさせることは、私は間違っていると思います。

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