遺言書の主流である「相続させる」旨の遺言とは何か

2018.10.06 弁護士コラム

「相続させる」旨の遺言が使用される理由

遺贈と比較して次のような長所があるため、公正証書遺言では、遺贈ではなく、「相続させる」とするのが普通の取扱いであり、自筆証書遺言でも「相続させる」旨の遺言の割合が増えています。

登記手続の簡便さ

所有権移転登記手続において、遺贈の場合には他の共同相続人と共同で申請しなければならないのに対し、「相続させる」旨の遺言の場合には、受益者(相続人)が単独で申請できます。

登録免許税率の低廉さ

不動産の登記をする場合には、不動産の価額に税率をかけた金額を登録免許税として支払わなければなりません。

かつては、遺贈の場合には1000分の25であるのに対し、「相続させる」旨の遺言の場合には1000分の6でした。

平成15年4月1日から施行された登録免除税の改正により、相続による登記の場合と相続人に対する遺贈を原因とする登記の場合につき、同一の税率(平成18年3月31日までは1000分の2、それ以降は1000分の4)を適用するようになったため、現在では意味はありません。

農地法3条所定の許可

相続人に対し農地を取得させる場合、登記実務上、遺贈とすると農地法3条所定の農業委員会のまたは知事の許可が必要であるのに対し、「相続させる」旨の遺言の場合には知事の許可が不要です(農地法3条1項12号)。

賃貸人の承諾の要否

遺産が借地権または賃借権の場合、遺贈であれば賃貸人の承諾が必要である(借地借家法19条、民法612条1項)のに対し、「相続させる」旨の遺言の場合には賃貸人の承諾は不要です。

「相続させる」旨の遺言の性質

遺産分割方法指定説、遺贈説、遺産分割効果説等が議論されてきましたが、判例は、相続としての処理と即時の権利移転(その結果、遺産分割手続を省略できる。)という遺言者の2つの意思を満足させるため、遺産分割効果説を採用しました。

遺産分割効果説とは、遺産分割方法指定説に立ちながら、遺産分割方法の指定そのものに遺産分割の効果を認め、その結果、特定の財産は遺産分割協議の対象から除外され、被相続人の死亡と同時に、直ちに特定の相続人の単独所有に帰すると解します。

「相続させる」旨の遺言にあっては、遺産の一部である当該遺産を当ねは該相続人に帰属さえる遺産の一部分割がされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめることになります。

最高裁平成3年4月19日判決

「遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。」

特定の遺産について相続人に「相続させる」旨の遺言がある場合と遺産分割手続との関係

特定の遺産について相続人に「相続させる」旨の遺言がされているときは、直ちに当該相続人に相続により所有権が帰属することになるため、遺産分割の対象となる遺産ではなくなります。

包括して「相続させる」旨の遺言と遺産分割手続との関係

全財産相続型(全財産をAに「相続させる」旨の遺言)

全部包括遺贈を特定の遺産について「相続させる」旨の遺言の集合体と考えると、上記最高裁判決の理論をそのまま適用でき、遺言の効力発生と同時にAに権利が移転することになります。

したがって、すべての遺産について「相続させる」旨の遺言がされている場合には、遺産分割の対象となる遺産が存在しないことになるので、家庭裁判所に遺産分割申立てがあっても、実質的な手続はできないことになります。

割合的相続型(全財産の3分の2をAに「相続させる」旨の遺言)

遺言者の意思は、全財産の3分の2に相当する価額の遺産をAに相続させようとするものであって、必ずしもすべての財産について各3分の2の持分を取得させようとする趣旨ではありません。

したがって、遺産分割手続で共有関係の解消を図るのが妥当であるということになります。

登記実務

先例の取扱い

登記実務は、「相続させる」旨の遺言があったときには、遺産分割協議がなくても、相続を原因とする所有権移転登記の申請を受け付けるという取扱いをしています。

第三者に対する対抗要件としての登記

特定の相続人は、登記なくして「相続させる」旨の遺言による物権変動を第三者に対抗することができます。

最高裁平成14年6月10日判決

「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。このように、『相続させる』趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質におい て異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁、最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事169号243頁参照)。したがって、本件において、被上告人は、本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる。」

「相続させる」旨の遺言と代襲相続の有無

被相続人Aが「相続させる」旨の遺言をしたが、その遺言の効力発生前に遺言者の名宛人である特定相続人Bが死亡した場合、民法887条の規定によりBの子が特定遺産を代襲相続できるかが問題です。

この点について、登記実務では、代襲相続することなく、当該遺産は、遺産分割の対象となるという見解をとっていますが、名宛人Bの子に当該遺産を承継させたいという遺言者の通常の意思を尊重して代襲相続を認める見解もあります。

「相続させる」旨の遺言と遺言執行者の職務

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、被相続人の死亡時に直ちにその特定の遺産が特定の相続人に「相続」を原因として承継されるものです。

そして、「相続」を原因とする所有権移転登記は、相続人が申請できることから、特定の遺産についての所有権移転登記は、特定の相続人が単独で申請できます。

したがって、遺言執行者の職務はありません。

最高裁平成7年1月24日判決

「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる旨の遺言により、甲が被相続人の死亡とともに相続により当該不動産の所有権を取得した場合には、甲が単独で その旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではない。」

「相続させる」旨の遺言と法定相続分との関係

「相続させる」旨の遺言で特定相続人に取得させるとした特定遺産と法定相続分の割合の関係

特定遺産が法定相続分の割合を超える場合、法定相続分の割合と同じ場合、法定相続分の割合を下回る場合の3種類が考えられます。

このうち法定相続分の割合と同じ場合には、相続分と現実に取得した遺産との間に過不足はないので、相続分の指定の有無は問題となりません。

しかし、他の2つの場合については、問題があります。

特定遺産が法定相続分の割合を超える場合

実務では、相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定であると考えています。

これは、遺言者が通常、特定相続人に特定遺産を他の共同相続人に優先して取得させることを意図して「相続させる」旨の遺言をするものですから、少なくとも特定遺産が法定相続分の割合を超えている場合には、超過分の調整を予定していないとみるのが合理的な解釈であるからです。

したがって、超過分について代償金を支払うことなく特定遺産を取得することができるます。

特定遺産が法定相続分の割合を下回る場合

遺言者が相続分の指定を併せていたか否かについては、その旨を遺言中に明示している場合は少なく、遺言者の意思解釈も問題となります。

相続分の指定が伴うと解する立場からは、特定遺産だけを取得することになり、残余遺産について法定相続分との差額分の相続は問題となりませんが、相続分の指定を伴わないとする立場では、法定相続分にみつるまで残余遺産から取得できます。

特定遺産が法定相続分の割合を下回る場合には、特定遺産を取得させたいという意思のほかに、他の遺産を取得させることを禁止する意思まではないのが通常であり、そのように解するのが合理的です。

もし、そのような意思があるならば、「当該遺産だけを相続させる」旨の遺言をするのが一般的であると考えられます。

「相続させる」旨の遺言と特別受益・寄与分の関係

特別受益との関係

「相続させる」旨の遺言により受遺者に帰属する遺産以外に残余の遺産がある場合

受遺者は、他の相続人とともに残余財産の分割に参加できますが、その残余財産の分割に当たって、受遺者が承継した遺産を民法903条の特別受益として取り扱うべきかが問題となります。

この点について、実務では、「相続させる」旨の遺言により受遺者に帰属する遺産を特別受益と解しています。

「相続させる」旨の遺言が遺贈と同じく相続開始と同時に物権的に権利が移転する効力を有し、遺産分割手続の対象から逸出することに着目すると、特定遺産は遺贈財産と同様に扱われ、持戻しの対象です。

この見解では、受遺者の承継した遺産を特別受益として、具体的相続分が算定されます。

「相続させる」旨の遺言で特定相続人に取得させるとした特定遺産がその相続人の法定相続分(正しくは具体的相続分)の割合を超える場合

遺言者は、通常、特定相続人に特定遺産を他の共同相続人に優先して取得させることを意図して「相続させる」旨の遺言をするものであり、超過分の調整を予定していないとみるのが合理的です。

したがって、「相続させる」旨の遺言に「相続分の指定」を伴っているとみるのが相当であり、特定相続人は、残余財産の分割にはあずかれないので、「持戻し」なり、「持戻し免除」が問題となる余地はありません。

この場合、特定遺産が具体的相続分を超過することになっても、その超過分を取り戻されることなく、その額は、他の共同相続人の負担となります(民法903条2項)。

寄与分との関係

「相続させる」旨の遺言がなされる目的に照らすと、特定遺産が、それを承継する相続人以外の者の寄与分に影響され、清算を必要とすることになるのは、当該遺言の意義を減殺することになります。

したがって、相続財産の一部である特定遺産につき「相続させる」旨の遺言がなされているときは、特定相続人は寄与分に影響されることなく、特定遺産を取得できることになると解するのが相当であると考えられます。

寄与分の考慮は残余遺産の範囲内でしか行うことはできず、これを超えて特定相続人に代償金を請求する方法はありません。

「相続させる」旨の遺言が全遺産についてなされているときは、寄与分を定める請求または申立てをする機会はありません。

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